今週のひと言

ベネズエラには「干渉」より「援助」を

 こんなことが許されていいのだろうか?
 勝手に「制裁」と称して経済を締め付け、昨年5月、選挙で68%の支持を得たマドゥーロ大統領について「米国は結果を受け入れない」と宣言する。挙げ句の果てに、この1月、輪番制で回ってきた極右のグアイドー議員が国会議長になった機会に、「暫定大統領」を宣言させ、マドゥーロ大統領の就任式の妨害を図る。どう見ても「法の支配」と「内政不干渉」に反する「国際犯罪」。クーデターだ。
 しかし、日本から見れば地球の裏側のことで、あまり報道されないうえ、情報は米国による「西側報道」ばかり。国民はほとんど知らされないまま、日本政府は2月5日、河野外相談話で、グアイドー支持を表明した。
 「米国の裏庭」とされていた中南米は、米国CIAの暗躍にもかかわらず、民主化が進んできた。米国はキューバのカストロ、ベネズエラのチャベスといった指導者が世を去ったのを機会に、覇権を取り戻そうと躍起。ボルトン大統領補佐官は、昨年11月、キューバ、ニカラグア、ベネズエラ3国を「専制のトロイカ」と呼び、「これは無限の人道的被害の原因であり、巨大な地域の不安定の動力。西半球の共産主義の不潔な揺りかごだ。米国は米国の要望が満たされるまでこれらの国々との外交関係を断絶する」と露骨に表明。OAS(米州機構)に働き掛けている。
 米国は、国民生活の窮迫で「難民」「移民」が増加している、というが、数日、あるいは日帰りで隣国に買い物に行ったりするのは、この地域では珍しくないのだそうで、「人道的危機」はかなりオーバーな主張らしい。人道的問題があるなら「援助」すればいいので、「制裁」は何の役にも立たない。
 米国に追随し、無責任に内政干渉の声明を出す日本外交。これでいいのだろうか。


記者の質問制限を見過ごしてはならない

 新聞労連が2月5日、声明「首相官邸の質問制限に抗議する」を発表した。東京新聞の望月衣塑子記者が菅義偉・官房長官の記者会見で行った沖縄・辺野古での埋め立て工事に関する質問に対して、首相官邸が昨年12月28日、官邸報道室の上村秀紀室長名で記者クラブに、「事実誤認」「度重なる問題行為」として、「官房長官記者会見の意義が損なわれることを懸念」「このような問題意識の共有をお願い申し上げる」と申し入れたことに抗議する内容となっている。望月記者の記者会見からの排除を記者クラブに求めたに等しく、申し入れは到底受け入れられるものではない。
 この質問制限の申し入れと抗議声明を東京新聞のほか朝日、毎日、さらには安倍晋三政権寄りの報道姿勢が際立つ産経新聞ですらも、扱いの大きさはともかくとして、6日付朝刊紙面で伝えた。共同通信も記事を配信している。だが読売新聞は1日遅れの7日付朝刊。しかも、国民民主党が官邸報道室長から事情を聞いたことを短く報じただけで、新聞労連の抗議声明には触れていない。
 朝日新聞の報道によると、記者クラブ側は官邸側に「記者の質問を制限することはできない」と伝えたという。それは当然のことだが、要請を拒否すれば終わりという問題ではない。こうした要請が政権の中枢である首相官邸から報道側になされたことは、安倍政権には報道の自由とか表現の自由、さらには国民の知る権利を尊重する意思が欠落していることを如実に示している。そのこと自体、社会で共有すべき重要な情報だ。望月記者だから問題なのではない。だれであれ、記者の質問は制限されるべきではない。本来は昨年暮れ、申し入れがあった時点で、各メディアが即座に報じるべきだった。
 記者会見の質問は、記者が国民の知る権利に奉仕するために行うものだ。政権側から不当な干渉があっても「内輪の話。記事にする必要はない」などと考えていると、結果的に政権への忖度の連鎖にメディアも加わってしまうことになる。


ケストナーと井上ひさし

 動物たちが世界の子どもたちの平和のために立ち上がる――。ドイツの詩人・作家のエーリヒ・ケストナー(1899~1974年)の絵本をもとにした音楽劇「どうぶつ会議」が東京の新国立劇場・小ホールで上演されている(2月3日まで)。ケストナーの生誕120周年を記念した「こまつ座」主催の公演で、劇作家の故井上ひさしさんが約半世紀前に手がけた戯曲がよみがえった。
 キリンやライオン、ゾウなど北アフリカの動物たちが、戦争や貧困から子どもたちを守るために結集し、政治家らに要求を突きつける。原書は49年に出版され、5年後に邦訳本が岩波書店から刊行された。
 ケストナーを愛読していた井上さんは、子ども向けの舞台として戯曲を手がけ、劇団四季が1971年に初演した。「人間が人間を信じられなくなったらおしまいさ、ということを、ケストナーは自分の書くものに込めているのだよ」。井上さんが残した言葉を、三女の麻矢さん=現「こまつ座」社長=は覚えている。
 人間はすばらしい生き物だが、同時に嫌な面も持ち合わせている。「嫌な面ばかりが表に現れている人が権力を持ったら、世の中はあっという間にひどい有様になってしまう。そんな世の中になりつつある今、ケストナーの精神を皆さんに伝えたい」。そんな麻矢さんらの思いが今回の上演につながった。

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 安倍首相が1月28日の衆院本会議で行った施政方針演説は、まさに権力側の都合だけで出来上がった内容だった。厚生労働省による毎月勤労統計の不正調査問題について「国民のみなさまにおわび申し上げる」と陳謝。消費税率10%への引き上げについて、「10月断行」の方針を示した。「全世代型社会保障制度の実現」を掲げてはいるけれど軍事費重視をベースにした財源の分配を見直すことなく、市民に負担をかけるという構図だ。
 この国を変えるのは主権者である市民だ。そしてメディアが時の政権の実態をきちんと伝えてこそ民主主義が成り立つ。


憲法を蹂躙する首長、そして安倍政権

 米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設計画で、名護市辺野古の埋め立ての賛否を問う県民投票が実施される。ところが、2月14日の告示を前に驚くべきことが起きている。沖縄、うるま、宜野湾、宮古島、石垣の5市の首長が投票に不参加の意向を表明し、県内有権者の3割の人々が自らの意思を示すことができない事態になりかねない。
 「一番の問題は、憲法14条1項が定める『法の下の平等』に反することだ」。木村草太・首都大学東京教授(憲法学)が沖縄タイムスに緊急投稿している(https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/368131)。今回の県民投票の根拠となる住民投票条例は、投票に関する事務は「市町村が処理する」こととしたが、反対する首長はこの事務処理を拒否する意向を示している。論点は拒否することが認められるのか。
 拒否できるとする論拠の一つが、市町村が県民に投票権を与えるかどうかの裁量権を持つという考えだが、木村教授は「『県条例が、そのような選択権を認めている』という解釈は、県民の平等権侵害であり、憲法14条1項に反する。合憲的に解釈するならば、『県条例は、そのような選択を認めていない』と解さざるを得ない」と明快だ。
 市民の政治的な意見表明という民主主義にとって最も大切な価値を奪うことを5市の首長はどう考えているのか。憲法の蹂躙にほかならない。
 もっとも、こうした事態を招く原因を作っているのは、県民の意向を無視して移設計画をごり押しする安倍政権である。憲法学者の有志が24日記者会見し、声明を発表した。同日時点で賛同者は131人。こう訴えている。
 「民主主義や地方自治のあり方が問われているという点においては日本国民全体の問題である。政府が新基地建設をこのまま強行し続ければ、日本の立憲民主主義に大きな傷を残すことになる」


韓国放送メディアの新しい動き

 韓国のメディアが、また一歩先を進んでいる。昨年、韓国のメディアの労働組合である全国言論労働組合が、KBS、MBC、SBSといった韓国の主要放送局と包括的な労働協約を締結した。もちろん、文在寅政権になって初めて実現したものだ。
 その中には、以下のような項目が盛り込まれている。
 「使用者と組合は、国民の知る権利を満たし、文化水準の質的向上のために公正な放送の実現に最善を尽くす」
 「使用者と組合は、公正放送の実現のために、不当な圧力や干渉を排除し放送の独立と制作の自律性を守るために最善を尽くし…」
 「使用者と組合は、報道、編成、制作責任者の任命と評価などに、制作従事者の意見が
 必ず反映される手順と方法を定めなければならない」
 このように、国民の知る権利とメディアの独立を保障することが明記されているほかに、労働者の権利を保護する条項も合意されている。
 「使用者は、労働時間の規制と法改正の趣旨に合致しない制度を導入しない」
 「労働時間の制度改善により、組合員の賃金が下落しないよう努力する」
 「労働時間短縮のために、不必要な業務と慣行をなくし、放送、制作のシステム改善、インフラの拡充、適正な人員確保のために努力する。常時・持続業務の人材補充の際には、正規職の採用を原則とする」
 「労働時間短縮において、正規職と非正規職を差別しない」
 韓国でも日本のように非正規労働の拡大が深刻な社会問題になっているが、民主政権になって、労使が協力してそれを乗り越えようという努力が感じられる。これらは、政権交代後、放送局のトップも民主的なリーダーに交代したという効果が大きいだろう。
 振り返って、日本はどうだろうか。


日本型クーデターの悪夢

 新年のメディアは、「平成最後の初日の出」などと、春の天皇「代替わり」をショーアップする番組が多かった。安倍首相の年頭所感もまさに「都合のよい主張羅列」「モリカケ・原発言及も反省もなし」「『新時代感』出しリセット」「乏しい具体策『大言壮語」」(1月8日東京「こちら特報部」)というものだった。
 さらに安倍首相は、4日の年頭記者会見で「国会において活発な議論がなされ、できる限り広範な合意が得られることを期待する」(4日)、「新たな国づくりに挑戦する1年にしていきたい」(5日)など3日連続で改憲の執念を公言した。それだけにイヤーな気分がしてならないのは、「代替わり」を絡めた「日本型クーデター」の悪夢だ。
 安倍政権はこの6年間、結局どんな議論があっても、それを無視して、ブルドーザーのように、「壊憲路線」を進めてきた。そこで、気になるのは、安倍は参院選がある今年前半、「代替わり」も利用し、「日ソ」も、「消費税」も使って、予算が上がったらとたん、「時間がない」と高姿勢に転じ、すべてごり押しで「改憲」を進める「日本型クーデター」に出るのではないか、という「悪夢」だ。
 昨年秋の内閣改造で、自民党改憲本部に側近を送り込み、「改憲シフト」を取った安倍は、わざわざ「消費税」を予定通り増税することを強調、日ソ平和条約交渉を進めると打ち出した。新制度で外国人が入ってくるし、「G20 」や、FTA問題もある。辺野古や日韓、日朝問題もある。そんなあらゆる課題を、一挙にご破算にしてしまおう、というわけだ。
 安倍にとって、「異論」はどうでもいい。数で押しつぶせば、最初はマスコミも騒ぐし野党もいろいろ言うが、そのうち収まるから、「代替わり」の10日間の休みで、ちょっと落ち着かせ、同日選ですべてリセットすれば、問題はない。場合によっては「公明党切り捨て」も構わない。多数」だけを根拠に、立憲主義どころか、事実上の憲法破壊を進めて、「新時代」に「憲法改正」も間に合わせる。まさに、「日本型クーデター」だ。
 憲法審査会で「改憲合意」ができないことはもうわかっている。消費税を上げるにも軽減税率やカード還元などで問題は複雑になり、難しくなるばかり。だが、強引に動かして、「よくやった!」と、大向こうからの大義名分が立つのは、唯一、「一転高姿勢」で、騒然とした空気をつくり、「代替わり」で、社会が休みになるのを機会に 「新しい時代」 を演出する…。それくらいなのだ。元号が替わることで、何でも新しくなって、いいことになる、というキャンペーンが始まっている。
 「常識でいえば、安全を期さなければいけない元号や天皇が代わる年には、政治課題はできるだけ減らしておくもの。ところが、この政権は、北方領土から、北朝鮮、韓国に対するファイティングポーズなど、緊張をあおっている。かつて後藤田正晴氏は「日本人は大事なものほど、丁寧な議論をしないで、どさくさにまみれて混乱の中で決める性格がある、と言っていた…」というのは、ある「政界通」の見方だ。


辺野古、空母、クジラ〜続く憲法の危機

 師走の出来事をいくつか。いずれも「年が改まって終わり」ではない。
 2019年も憲法の危機は続く。マスメディアのありようも問われる。

 ▼辺野古埋め立て強行
 沖縄県名護市辺野古の埋め立てと新基地建設に反対との民意が9月30日の知事選で明確に示されにもかかわらず、安倍晋三政権は土砂投入を強行した。沖縄では、2月に予定される県民投票を巡り、安倍政権寄りとされる首長が不参加を表明。またも分断が持ち込まれている。安倍政権の強硬姿勢を支えているのは日本本土の住民の無関心だ。沖縄の人たちが自己決定権を手にするために、沖縄県外で、政権のお膝元の東京で、沖縄に犠牲を強いる現状へ「ノー」の声を大きくしなければならない。そのためには、沖縄で何が起きているかが知られることが必要。本土マスメディアが本土の住民に何を伝えていくかが問われる。

 ▼軍拡競争招く空母保有
 海上自衛隊の「いずも」「かが」を空母に改造し、米国製の最新鋭機F35戦闘機を運用できるようにすることが防衛計画の大綱に盛り込まれた。敵基地攻撃能力の保有が現実味を帯びる。攻撃型兵器の保有は憲法違反。中国との軍拡競争をして勝てると思っているのか。日本国憲法の「不戦」と「戦力不保持」の意味と価値をあらためて考える必要がある。空母保有とF35運用は、防衛省や自衛隊を差し置いての首相官邸の意向だという。トランプ米大統領が9月、「日本は大量の武器を買うことになった」と豪語し、自賛したのはこのことだったようだ。安倍首相はトランプ大統領と密談するたび、大盤振る舞いで歓心を買っているのか。マスメディアは内情に迫る取材を。

 ▼議論なきIWC脱退
 国際捕鯨委員会(IWC)からの日本の脱退が突然決まった。戦前の国際連盟脱退が引き合いに出されたりしているが、対話や議論を打ち切り、自国の主張を強引に実行に移す、ということではイラク戦争に突き進んだ米国と相似形ではないか。看過できないのは、日本国内でろくに議論もなく政府と与党が一方的に決めたこと。水島朝穂・早大法学学術院教授は、国際機関からの脱退は国政の重大な変更であり、憲法に照らせば国会での議論抜きにはあり得ないことを指摘。「憲法九八条が掲げる『国際協調主義』を捨て去る最初の一歩になりかねないと警鐘を鳴らしたい」と訴えている(12月27日付東京新聞朝刊)。そもそも、鯨肉の消費が増えそうもない中でなぜ今、商業捕鯨なのか。マスメディアの検証取材が必要だ。


メキシコの生態学者の言葉

 「この国は新時代を迎える」。
 メキシコの生態学者、パトリシア・モゲルさん(62)は、12月に就任したロペスオブラドール大統領の舵取りに期待を込める。メキシコでは1980年代以降、新自由主義の波が押し寄せ、通信や銀行、鉱山、石油などの産業が次々に民営化されていった。「それに伴い貧富の差が拡大した。加えて汚職や治安悪化に対する市民の不満が夏の大統領選の勝利に結びついた」と分析する。
 「祖父が先住民族」というモゲルさんは、メキシコ中部プエブラ州の山岳地帯で先住民族らが運営する「トセパン協同組合」のアドバイザーを務める。トセパンは「共に働き、話し合い、考える」の意。現在、22地域の計約3万5000世帯の組合員が加盟する。そこでは、多種類の樹木や果樹との混植によるアグロフォレストリー(森林農法)でコーヒー豆などを栽培し、森林保護と経済的自立の両立を図っている。そして、ロペスオブラドール大統領も国の政策として森林農法を推進する意向で、新政権で閣僚に抜てきされたマリア・ルイサ・アルボレス社会開発相はトセパン出身だ。
 モゲルさんは先月、東京で市民有志が開いた「しあわせの経済」フォーラムに出席し、メキシコの現状と未来について話してくれた。
 「日本にも環境や貧困、格差の問題はあると思うが、大切なのは、市民が政治の問題に関心を持つこと。そして子どもたちが希望の持てる国になるよう大人たちが行動すること」
 モゲルさんの言葉は、当然ながらいまの日本にあてはまる。
 もうすぐ新しい年がやってくる。この国のをかたちづくるのは私たち自身だと肝に銘じよう。


なめられたメディア、そして国民

 こんなにひどい記者会見がかつてあっただろうか。河野太郎外相による11日の記者会見である。記者からロシアとの平和条約交渉に関する質問をされると「次の質問どうぞ」と同じフレーズを4回も繰り返し、無視したのだ。政治家が回答をはぐらかすのは常套手段だが、回答そのものを拒否するとうのは極めて異例である。異様だといってよい。
 報道によれば、立憲民主党の辻元清美国会対策委員長は11日、記者団に「議員や記者の後ろには国民がいる。質問に答えないのは国民を無視しているに等しい」と批判したというが、その通りだ。報道の自由や人々の知る権利という民主主義を支えている基本的な価値がなめられたのである。
 なぜ、こんなことが起きるのか。世界で広がる政治家のリーダーによるメディアへの攻撃と無縁ではない。
 米紙「ニューヨーク・タイムズ」は「真実をめぐる戦争が広がっている」(9日付電子版)と題する社説を掲げ、全体主義国家にとってメディアは憎むべき存在だったが、今や民主的な選挙で選ばれた政府によって報道の自由への攻撃が行われていると指摘。あのジョージ・オーウェルですら予測していなかった事態だ、と。
 同紙によると、フィリピンでは、ドゥテルテ大統領に批判的なネットメディア「ラップラー」が狙い撃ちにされ、同社のマリア・レッサ最高経営責任者らが脱税罪で起訴された。ハンガリーではオンラインメディアや地方紙を右翼のオルバン首相に近い金持ちが牛耳り、ポーランドでは公共放送が政権の代弁者に成り下がった。米国ではトランプ政権が、米CNNのジム・アコスタ記者の入庁に必要な記者証を取り上げるという暴挙に出た(後にワシントンの連邦地裁が記者証を返還するよう命じた)。
 「フェイクニュース」「オルタナティブファクト」を政権がばらまく傍ら、既存メディアを攻撃する。同じことは森友・加計問題に対する安倍政権の対応にも通じる。私たちの足元で確実に民主主義の内部崩壊が起きているのだ。なめられるメディア側の問題は大きい。しかし、国民もなめられた以上、政権に怒りをぶつけるべきだ。


市民が支えるメディアin韓国

 韓国・ソウルにあるインターネット放送局『ニュース打破』を訪れる機会があった。
 『ニュース打破』は2012年1月、当時の李明博大統領率いる保守政権下で生まれた。KBS・MBCといった公共放送局で政権批判の番組を制作したり、ストライキでたたかったりして解雇処分を受けたジャーナリストたちが設立したメディアだ。いま、各地でドキュメンタリー映画『共犯者たち』が上映されているが、これは『ニュース打破』が製作したもので、権力による容赦ないメディア弾圧と、それに迎合してしまうマスメディア、一方で激しく抵抗するジャーナリストたちと労働組合のたたかいが克明に記録された作品だ。
 解雇されたディレクターたちが無報酬でニュースを作ってユーチューブなどにアップしたのが『ニュース打破』の始まりだが、それは全国言論労働組合(新聞・放送などメディア業界の産業別労働組合)から2000万ウオンの支援を受けて、六ヵ月間限定のプロジェクト事業としてスタートしたものだった。初放送の直後から「支援したい」という市民の声が自発的に寄せられたが、『ニュース打破』は主流メディアが権力監視の役割を果たしていないというお詫びの気持ちで始めたので、市民からの支援を断っていたという。
 しかし、プロジェクトが終わる2012年夏、その年の暮れの大統領選に向けて、保守政権に掌握されていた主流のメディアは与党候補を集中的に報道していた。そこで『ニュース打破』は野党候補も取り上げて公正な報道をするため、一時的に市民の後援を受けることにした。すると、選挙が終わるころには支援者が2万人に達したという。労組が誕生に手を貸したメディアが、市民によって育て上げられたのだ。
 その後、政権を厳しく批判する調査報道を連発して市民の支持を広げた『ニュース打破』は、約3万4000人の会員、年間予算50億ウオンという一大メディアに成長した。このように、ジャーナリストと、市民と、そして労働組合が手を取り合えば、日本でも何かできることがあるのではないか。