東京発:現場から

【東京発】読者の疑念招く新聞社トップと首相の会食

「新聞労連・東京新聞労組ニュース『推進』No.44」(6月26日付)から
————————————————————————————————
 安倍首相が、東京新聞を発行する中日新聞社の小出社長と会食した。このことが東京新聞労働組合の機関紙で取り上げられている。以下はその抜粋である。
————————————————————————————————

 小出社長が安倍首相と会食したらしい-。そんなうわさを聞いて、はじめは耳を疑った人も少なくないのではないでしょうか。
 安倍首相が新聞やテレビの経営者らと、やたら晩飯を食っているという話は少し前から聞こえていましたが、東京新聞・中日新聞がそのような人たちと一線を画しているのなら、それはそれで立派なこと、というか、フツーのことだったのです。
 けれど、うわさは本当でした。5月14日、小出社長と長谷川論説副主幹が、西麻布のフランス料理店「彩季(さいき)」で安倍首相と2時間ほど会食したことが、翌日の新聞各紙「首相動静」「首相の一日」欄で報じられていました。
 ちなみに、この「彩季」という店は、インターネットで検索すると「完全個室のフレンチレストラン」「隠れ家レストラン」などと紹介されています。
 それはともかく、組合はこの社長と首相の会食について、事実関係や経緯、意図などを夏季一時金の第3回団交(5月21日)と第4回団交(5月28日)でただしました。
 その具体的なやりとりは、5月28日付『推進』No.40と、6月10日付『推進』No.42でお伝えしましたが、あらためて要点だけまとめると、会社の説明は次のような内容になります。

————————————————————————————————
■会社(片田労担代理)の説明要旨
 会食の話は首相側から来た。費用は中日新聞社が負担した。会食したのは3人。小出社長、長谷川論説副主幹、安倍首相だけだ。
 10年ぐらい前に名古屋で会っているが、ほとんど知らない人だから1回話を聞きたいと。話の詳しい中身は特にない。飯を食いながら人生論を戦わせたと聞いている。懇談したと。報道するに値するような話はなかった。
 批判すべき対象と絶対に会食してはいけない、ということではない。機会があれば行ってもいいのでは。たとえば支局長が地元の知事や市長と懇親することもある。それでジャーナリズムが崩れるとは思わない。
 (社長と首相の会食が)どう思われるかも含めて「今回はまずかった」とは思わない。各社みんなやってるみたいだし、紙面は(会食後も)変わっていない。
————————————————————————————————

 「各社みんなやってる」(片田労担代理)。だから東京新聞・中日新聞のトップも同様にやっていいかどうかは別にして、安倍首相が報道機関のトップや編集幹部、論説幹部らとひんぱんに夜の席を設けている事実を、まず押さえておきましょう。

————————————————————————————————
■安倍首相と会食したマスコミ経営者や幹部たち
1月7日 読売新聞グループ本社の渡辺恒雄会長=パレスホテル内の日本料理店「和田倉」
  8日 産経新聞の清原武彦会長、熊坂隆光社長=ANAホテル内の日本料理店「雲海」
  10日 時事通信の田崎史郎解説委員=赤坂の日本料理店「陽羅野家」
2月7日 朝日新聞の木村伊量社長=帝国ホテル内の中国料理店「北京」
  14日 産経新聞の清原武彦会長=ホテル「ザ・プリンス」内の中国料理店「陽明殿」
  15日 共同通信の石川聡社長=白金台の日本料理店「壺中庵」
3月8日 日本経済新聞の喜多恒雄社長=帝国ホテル内のフランス料理店「レ・セゾン」
  13日 日本テレビの粕谷賢之報道局長=赤坂のレストラン「アークヒルズクラブ」
  15日 フジテレビの日枝久会長=芝公園のフランス料理店「クレッセント」
  22日 テレビ朝日の早河洋社長、幻冬舎の見城徹社長=首相公邸
  28日 毎日新聞の朝比奈豊社長=ホテル「椿山荘」内の日本料理店「錦水」
4月4日 時事通信の田崎史郎解説委員、読売新聞の小田尚論説委員長、朝日新聞の曽我豪政治部長=永田町の中国料理店「聘珍楼」
  5日 日本テレビの大久保好男社長=帝国ホテル内の宴会場「楠」
5月7日 時事通信の西沢豊社長、田崎史郎解説委員=パレスホテル内の日本料理店「和田倉」
  8日 読売新聞グループ本社の渡辺恒雄会長、日本テレビの大久保好男社長(他に長嶋茂雄氏、松井秀喜氏も同席)=首相公邸
  14日 中日新聞の小出宣昭社長、長谷川幸洋論説副主幹=西麻布のフランス料理店「彩季」
  15日 読売新聞グループ本社の渡辺恒雄会長=パレスホテル内の日本料理店「和田倉」
6月12日 NHKの島田敏男解説主幹、産経新聞の石井聡論説委員など報道各社の論説委員・解説委員ら=赤坂の中国料理店「赤坂璃宮」
(以下はニュース発行後に確認)
6月20日 河北新報の一力雅彦社長、福井新聞の吉田真士社長、信濃毎日新聞の小坂壮太郎社長、静岡新聞の大石剛社長、京都新聞の白石方一会長兼社長=ホテルオークラ内の中国料理店「桃花林」
7月1日 読売新聞の飯塚恵子論説委員ら=ホテルグランドパレス内の日本料理店「千代田」
————————————————————————————————

 分かっているだけでも、こんなにありました。
 ナベツネさんのように、もとから政界のフィクサーのような人が首相と繰り返し晩飯を食っていても今さら驚きませんが、もはやそういう次元ではなく、主要メディアのトップがこぞって、時の最高権力者との酒宴にはせ参じている、と思われても仕方がありません。その中のひとりに、私たち東京新聞・中日新聞のトップが仲間入りしてしまった、ということになります。
 この問題、社内のみなさんはどうお考えでしょうか。
 私たちの組合は、団交で会社に「こういう会食は避けるべきだ」「権力を監視する、報道の独立を確保するという点から考えれば、控えたほうがいい」「担当記者が取材対象と食事をするのとは違う」「国のトップと新聞社が何をしているのかと怪しまれるような行為は、やめたほうがいい」と主張しました。
 小出社長は、読者の目をもっと意識すべきだと思います。「東京新聞は紙面で頑張っていると思っていたが、社長は首相とよろしくやっているのか」と感じた読者もいるのではないでしょうか。私たち従業員も、読者や取材先の人から聞かれても説明できません。
 少なくとも安倍首相の側には何らかの対マスコミ戦略があって、こういう会食を繰り返しているのでしょう。それに「乗っかる」「取り込まれる」ことの危うさを、小出社長や側近たちはどのように検討したのでしょうか。
 「紙面は(会食後も)変わっていない」と片田労担代理は言いました。この言い方にも、実は注意が必要です。よく似たセリフが現場では聞かれるのです。「筆を曲げなきゃいいんだよ」。中日の地方記者が取材先から広告を取るように事実上、業務命令される「観光と産業」(現「中部新時代」)の話です。
 筆を曲げなければ(紙面をゆがめなければ)やってもいいのか…? いや、そうではないでしょう。記者には記者の倫理があり、新聞経営者にも守るべき節度があるのではないでしょうか。
 新聞記者の基本は、人と会うことです。飯も食えば酒も飲みます。しかし、それを承知であえて言えば、小出社長はすでに一介の現場記者ではない。そこを踏まえないと「別にいいんじゃないの」と流れてしまい、読者や識者の批判には耐えられないと思います。