ニュースと論評:憲法メディアウォッチ

〈放送ウオッチ〉NHK・ETV特集「基地を笑え」

 NHK教育『ETV特集』「基地を笑え ~人気舞台で見る沖縄のホンネ~」
 2007年9月30日(日)午後10時から11時放送

 11万人以上が集まった、歴史教科書の「集団自決」記述削除反対の県民集会の翌日、ユニークな番組がNHKで放送された。沖縄の基地問題をネタにコントやショートコメディを作って上演している若手芸人の話だ。
 深刻な表情の医師が、患者にガンを宣告しようとする瞬間、上空から突然鳴り響く戦闘機の爆音。患者は肝心の病名がどうしても聞こえない。また、人気の通販番組のパロディで、本土に米軍基地をセールス、おまけに電子辞書がついてくるというギャグ。満員の会場がどっと沸く。沖縄出身の芸人・小波津正光さん(33)が作って若手芸人たちが舞台を盛り上げる「お笑い米軍基地」の一場面だ。
小波津さんは東京で演芸のライブを行っていたが、2004年8月の、沖縄国際大学のキャンパスに米軍のヘリが墜落した事件の際、東京の新聞は「アテネオリンピック開幕」に占拠されてほとんど報道されず、東京の人々もヘリ墜落事件にほとんど関心を示さなかったことに憤りを感じた。そこで、ネタというつもりもなく、舞台の上でヘリ事件を大々的に報じる沖縄の新聞を高々と掲げて「アテネでは聖火が燃えているが、沖縄ではヘリが燃えているんだ」と半ばヤケっぱちで叫んだところ、会場からバカ受けの喝采を浴びたことで、小波津さんは沖縄の米軍基地問題をお笑いにすることに本格的に取り組み始める。
基地反対集会のそばを、本土でも見られるような右翼の街宣車が、憲法改正・再軍備を叫びながら通り過ぎる。「こういう状況がコントそのものだ」と、小波津さんは語る。基地反対集会に参加する市民が、休日に市民にも開放される米軍基地のフェスティバルに家族連れで訪れるというような、傍から見ていると矛盾するような両極端が当たり前のように共存する。現実と理想の落差。そうしたことに小波津さんは笑いの本質を見ているのだ。小波津さんは「基地反対のシュプレヒコールを、遠くから眺めているような人が気になる」という。普天間飛行場の代替基地として建設が計画され、命がけの反対運動が市民によって組織されている辺野古の海で、小波津さんはあえて基地容認派の漁師に船に乗せてもらって、話に耳を傾ける。そうした冷静な観察者としての小波津さんは、基地反対運動もまた、笑いの対象とする。運動に疲れた基地反対派の市民たちに対して、「ビリーズ・ブートキャンプ」のパロディとして現れた黒人兵士らしい男が、エクササイズを指導して元気付けるコントが観客に受けている。
小波津さんというユニークなキャラクターに寄りかかった番組ではあるが、これを制作したNHK沖縄放送局、そして全国放送したNHKの英断を評価したい。「米軍基地反対一色」では決してない、もっとしたたかに、厳しい現実を笑いで乗り越える沖縄県民の姿を垣間見せるドキュメンタリーだった。毒気を含んだ強烈な政治的ギャグが、NHK教育テレビで放送される(あるいは、教育テレビでしか放送されない)という日本の現実こそが、小波津さんに言わせればまさに「コントそのもの」かもしれない。(放送レポート編集長 岩崎 貞明 記)