ニュースと論評:憲法メディアウォッチ

〈放送ウオッチ〉NHK「日本の、これから 憲法9条」

 NHK『日本の、これから 憲法九条』
 2007年8月15日放送

NHKの長時間討論シリーズ、今回は正面から憲法九条にしぼってテーマを設定し、変えるべきか、変えるべきでないかを徹底討論しようという番組。午後7時30分から『ニュースウオッチ9』をはさんで午後11時30分まで、三時間近くにわたって放送された。番組の企画としては参院選の結果を受けたものではないから、NHKは、ある意味で今年が憲法改正をめぐる議論のマイルストーンになる、と考えたのだろう。そして、このテーマの番組をあえて憲法記念日ではなく、平和への思いを新たにする終戦記念日にもってきたことが、NHKの憲法9条に対する姿勢を暗に物語っている、という読みも可能ではないだろうか。
司会はいつもの三宅民夫・武内陶子の両アナウンサー。スタジオには20代から80代までの男女約40人がひな壇に並び、手前には論客として6人のゲストがいすを並べた。ゲストは漫画家の小林よしのり、慶応大学教授の小林節、元経済同友会憲法問題調査会委員長の高坂節三、一橋大学教授の渡辺治、東京外国語大学大学院教授の伊勢崎賢治、ジャーナリストの斎藤貴男の各氏。2人の小林氏と高坂氏が九条改憲、残る三人が護憲という位置づけだ。番組は第一部が主に9条と自衛隊という国内的な関係、ニュースをはさんで第二部が9条と日米安保など世界との関係という構成になっていた。
番組内ではまず、9条改正をめぐる電話世論調査の結果を示す。例によって、「憲法改正が必要」という回答は41%で、「必要ない」とする24%を大きく上回っているが、九条の改正には「必要」が28%、「必要ない」が41%と、ほぼ逆転の結果となっていた。さらに、その内訳を見ると、9条改正が必要だとする人の中に「軍事力の放棄をもっと明確にする」という回答が16%含まれていた。このような「平和主義の徹底のために改憲を」という意見の人はスタジオの参加者の中にも一人いて、従来型の世論調査ではこうした意見をちゃんと捕捉できないのではないか、と思われた。
番組のVTR部分では、さまざまな立場の人の憲法に対する考えを紹介し、沖縄戦の体験から戦争に反対する人、拉致問題から改憲を訴える人、とそれぞれ自分の体験にもとづいた意見が披露された。スタジオの参加者でも、戦争体験者ながら改憲論の人、元日本軍兵士で護憲の立場の人など、その顔ぶれにはNHK側が相当心配りをしてそろえた印象を抱いた。
スタジオでの議論の詳細はとても紹介しきれないが、今回の議論で特徴的だったのは、論者同士の間のやりとりが白熱する場面がかなり見られたことだ。NHKの討論番組というと、『日曜討論』が典型だが、それぞれの立場からの発言が平行線をたどったまま、言いっ放しで終わってしまうという欲求不満を覚えることがしばしばだが、今回の番組はかなり議論が立体的に展開していた。司会の三宅アナも、何度かこの番組の進行をつとめてテンポをつかんだのか、議論の流れを重視するスタジオ運びが感じられた(言い合いになると水を差しに入る、という役割は忘れていないが)。これは、ゲストとひな壇の参加者の間でもいくつか論争になる場面が見られ、こうした展開は思考の訓練として、個人的には非常に参考になった。
特筆すべきはゲストの人選だろう。九条改憲派の三人のうち、小林節教授は自衛隊のイラク派遣には「9条から逸脱していて問題」という意見だったし、集団的自衛権の行使にも反対だった。アメリカとの関係となると、小林節教授に加えて小林よしのり氏も「いまより弱めるべき」という意見(自主防衛論者だから)になって、護憲派の人々と同じ立場となる。また小林よしのり氏は、沖縄に米軍基地が集中していることにも批判的だった。いまの安倍政権の(というより戦後の自民党の)アメリカ追随政策については、スタジオの論者はほとんど否定的だったというのは、逆に政治的バランスの観点から批判を浴びないかと余計な心配をしてしまうほどだった。
世論調査で「集団的自衛権とは何か知っているか」と聞いたところ、「知っている」が44%、「知らない」が49%という結果が番組で紹介されると、番組のトーンは「こんな状態ではとても憲法改正の議論なんかできない」という空気になったように感じた。このあたりは番組制作者の意図が強く働いている部分だろう。
九条改憲を語ることは優れて政治的な問題で、個人個人がもつイデオロギーを離れて理性的な議論を組み立てるのは難しい。そういう意味で、もともとかみ合う議論はなかなか期待できないテーマだと思うが、この番組は、極端な意見はとりあえず排除して、かみ合う議論にすることをめざした、ということが良く理解できた。そして、その狙いはある程度成功したように思える。
ただ、注文をつけておきたいのは、用語の問題だ。たとえば、スタジオへのアンケート項目で「同盟国が攻撃されたら、日本は集団的自衛権を行使すべきだと思いますか」というものがあったが、日米安保を通常の軍事同盟のように表現するのは、いまの政権からすれば当然だろうが、軍備を放棄した憲法を持つ日本、という前提で締結されたはずの日米安保は、決して通常の「同盟関係」ではないはずだ。「日米同盟」という用語がすっかり人口に膾炙してしまったとはいえ、その問題を議論する際にはもっと注意深い表現をすべきだ。そうでなければ、あからさまな誘導尋問になるだけだろう。
(放送レポート編集長 岩崎 貞明 記)