ニュースと論評:憲法メディアウォッチ

〈放送ウオッチ〉NHK『その時歴史が動いた 憲法九条 平和への闘争』

 NHK『その時歴史が動いた 憲法九条 平和への闘争』
 2007年5月2日放送

 歴史ドキュメンタリーとして人気の高いNHKの『その時歴史が動いた』が、憲法施行60周年を前に憲法九条をテーマに取り上げ、放送枠も59分に拡大して放送された。今回の「その時」は、池田勇人首相が「憲法改正はいま考えていない」と語った、1960年9月7日だが、番組のクライマックスはいわゆる「60年安保闘争」に焦点が当てられていた。副題に「1950年代 改憲・護憲論」とあるとおり、日本国憲法制定からの13年間をとらえて、憲法をめぐる議論と思潮の流れを描こうとしたものだ。とくに、NHKが日米関係の歴史の中で憲法九条の問題を考える番組を制作・放送したことは評価に値する。
 番組は憲法九条制定から始まるが、NHKスペシャル『日本国憲法誕生』でみられたような、民間の憲法草案がGHQ草案に影響を及ぼした部分までは触れられず、天皇制の維持という目的について、マッカーサー最高司令官と日本側の政府当局の思惑が一致したことで、戦力不保持という、世界にも稀な憲法が生まれた、という位置付けにされていた。しかし、吉田茂を代表とする当時の保守系の政治家も、敗戦の悲惨な経験から二度と戦争しない国づくりをめざしていたことも、まちがいなかった。その証拠として番組では、当時の吉田首相が国会答弁で、憲法九条は自衛権の放棄を意味するということまで明言していたこと、その新憲法が国会の圧倒的多数で可決されたことが番組で紹介される。
 ところが米ソの冷戦が始まると、アメリカは日本に再軍備を要求。吉田はこれを拒否するが、結局保安隊、自衛隊を創設して再軍備への道を開くことになる。こうなると、保守系政治家の中で、憲法に軍事力保有を明記して自衛隊の存在との整合性をはかろうという意見が強くなってくる。1955年に自由民主党が結成され、社会党も左右統一をはかり、「55年体制」ができると、改憲・護憲をめぐる論戦がいっそう熱を帯びるようになる。番組では、自民党の岸信介と社会党の浅沼稲次郎が対比的に描かれていた。
こうした流れの一方で番組は、朝鮮戦争の深刻化にともなって日本の世論の中に憲法九条改正を主張する人が減少し、改正反対の世論が逆転するようになったことを示す。そして、米軍の農地接収に反対した砂川闘争、とくに地裁の無罪判決を取り上げて、憲法九条がまさに国民の生活に密着したものであることを暗に訴えていた。
 とかく「空中戦」になりがちな憲法論争について、国民の視線で考える重要性を改めて示したこの番組の価値は高い、と評したい。番組のエンディングを、「一人ひとりの人間が尊重される世の中が、憲法九条が訴える平和な世の中だ」という砂川闘争の宮岡政雄の言葉でしめくくったことに、制作者の思いが凝縮されていると見た。
ないものねだりの欲を言えば、60年安保闘争そのものについても、もっと詳しく分析・解説してほしかったこと、番組の性格上無理な注文だが、憲法九条の問題は決して歴史の1ページではなく、とくに日米安保との関係においてまさに今日的な課題であることを、もっと具体的に示してほしかった。(放送レポート編集長 岩崎 貞明 記)