ニュースと論評:憲法メディアウォッチ

〈放送ウオッチ〉NHKスペシャル『日本国憲法誕生』

 NHKスペシャル『日本国憲法誕生』
 07年4月29日放送

 憲法施行60周年に当たる今年5月3日を前に、NHKが現在の日本国憲法の成り立ちを詳細に追ったドキュメンタリーを放送した。75分という長尺での意欲的な企画である。そしてその内容は、今年2月にNHK教育テレビで放送されたETV特集『焼け跡から生まれた憲法草案』と同様、日本国憲法がGHQの「押し付け」ではなく、日本側関係者の努力によって生み出されたものであったことを強調している。
 敗戦後、GHQの指導により日本政府は「憲法問題調査委員会」(松本烝治委員長)を設置して大日本帝国憲法の改正に着手するが、日本政府は帝国憲法に定められた天皇の権限を縮小もしくは削除するような改定は考えていなかった。一方、日本の民間の有識者7人による「憲法研究会」の草案は、国民主権や象徴天皇制の原型を示しており、GHQ内部でも高い評価を得ていた。
 マッカーサー最高司令官と当時の幣原喜重郎首相は会談で、天皇制の維持と戦争放棄について一定の合意に達していたが、連合国側によって構成される「極東委員会」のメンバーには、オーストラリアなど天皇の戦争責任追及を求める声も強かった。マッカーサーは極東委員会が機能する前に日本国憲法の改正案を打ち出す必要を認めていた。そこで、「マッカーサーノート」に基づく憲法改正のGHQ案作成作業に急ピッチで突入したわけだ。
 やがてこのGHQ案をもとに、日本政府側とさまざまなやり取りをしながら、日本政府の憲法改正案が示される。この改正案は、初めての女性議員を生み出した戦後初の総選挙で構成された国会で審議されることになる。国会では、「憲法研究会」のメンバーで衆議院議員に当選した経済学者の森戸辰男が「健康で文化的な最低限度の生活」を権利として追加することを強く主張、現在の二十五条、生存権条項となった。この他、義務教育の中学までの延長、戦争放棄の九条について一項と二項を入れ替える修正など、この国会での小委員会(芦田均委員長)で議論され、修正されていったものだった。この小委員会は秘密会で、議事録は50年後に公開された。
 九条の修正に疑念を抱いた極東委員会(とくに中国)は、「閣僚は文民でなければならない」の条項を入れることを求め、実現するなどの経緯もあった。このように、日本国憲法はアメリカや他の連合国、そして日本の政府と民間と、さまざまな思惑が交錯してできあがったという経過が、番組の中で丁寧に説明されていた。議論が複雑で難解な箇所もあるが、生存している当時の関係者へのインタビューや、役者による再現映像などもふんだんに取り入れ、当時の雰囲気を伝えていた。
 このように、今の日本国憲法が、多くの人々の智恵と努力の結晶であることを徹底的に証明しようとしたこの番組は、逆にいまの憲法改正論議における内容の空疎さ、議論の浅薄さを映し出していると言える。憲法を擁護する立場の人はもちろん、憲法改正を主張する人々にも是非見てもらいたい番組だと思う。(放送レポート編集長 岩崎 貞明 記)