インタビュー

直言40 「ザ・ニュースペーパー」プロデューサー 杉浦正士さん

杉浦正士さん 情緒的な憲法論議ではなく基本を

 安倍晋三首相は1月26日の初の施政方針演説で改めて憲法「改正」への意欲を強調した。改憲手続きを規定する国民投票法案の早期成立も掲げ、いよいよ憲法問題が重要な局面を迎える。社会派コント集団「ザ・ニュースペーパー」をプロデュースする杉浦正士さん(59)は「そもそも憲法は権力者を縛り、われわれを守るもの。その基本を押さえたうえで議論をしない限り、メディアも市民も振り回される」と指摘する。【明珍美紀】

 憲法のことはニュースペーパーの公演でもよくやるが、よく言われるのが、憲法の基本的なことを分かっていないで、その先の9条の話に飛び越えていく。われわれは、「憲法って何だろう」ということを伝えることが一番大切だと思っていて、憲法と法律の違いから入るんですよね。法律は国家が国民をしばるけれど、憲法はその逆で国民が権力者をしばる。
 憲法は自分たちのものだと分かる、あるいは意識すると見方が変わってくる。そのうえで改憲の話をすればいいが、「愛国心」のように情緒的なところから論議が始まっているのが現状ではないか。

●平和運動も基盤を失い

 ここ数年の流れを見れば、社会の軸は右にぶれている。閣僚とか政治家の失言、放言がまかり通り、いまは「何を言っても大丈夫」。というか、それぐらい言われないと「おもしろくない」という世の中なんですね。このことの怖さは、ソースで言えば、中濃や薄味ではなく、濃い味、濃いことを言わないと物足りない。刺激があるから。濃いものを求めようとしていくと、薄いものはもちろん中濃までもが物足りなくなって消されていく。
 ニュースペーパーを始めたとき(88年)に比べると、政治自体も随分変わった。あのころは竹下さんや金丸さんがいて、政治の枠組みとしては55年体制の分かりやすい政治だった。それが自民党単独政権が崩れ、旧社会党との連立政権が誕生したり、旧ソ連の崩壊ではっきりした対立構造がなくなった。平和運動をやっている人たちも変化したし、右翼も変わった。双方とも「どこに基盤を置けばいいの?」とリアリティーを失った。
 とはいえ、「北朝鮮が攻めてくるかもしれないから憲法9条を変える」なんて言っている限りは、憲法は変えられないと思う。だが、そうではない意見が出てきたとき、憲法がどうなるかが問われる。
  
●一つの記事に責任を

 僕自身、一番興味があるのは、その時代に流れている奥底。ニュースペーパーでも、そこをいつも表現したいと思っている。例えばライブドアの堀江貴文氏。なんでホリエモンや村上ファンドの村上世影氏のような人々が登場してきたのか。あるいはボストンレッドソックスに移籍した松坂大輔選手の60億円という落札額。アメリカによって持ち込まれた日本の野球というゲームが、アメリカによって壊されようとしている。いまの日本社会の象徴的な事柄だと思いますよ。世の中が変わる分岐点。そこが伝わってくると新聞はもっとおもしろくなる。
 新聞記者は一つのことだけではなく、事件や事故、政治家や企業の不祥事など、さまざまな事象に対応しなければいけない。われわれもそうなんです。あらゆるところから公演の依頼が来る。逆に言うとあらゆる視点で物事を見なくてはいけない。
 これから記者の人たちは、言論に対する攻撃に対し、「ペンを折ってはいけない」と覚悟する事態に直面していくだろうなと感じる。一つの記事と一つの文章。それにどこまで責任を持てるか。
 われわれはタブーに挑戦するためにコントをやっているわけではない。記者のみなさんも、タブーを壊したいから記事を書いているのではなく、そこにある事件や事故の真相を報道し、あとは読者が判断する。そこが大事なことだと思う。


杉浦正士(すぎうら まさひと)さん トリック・スター社代表。
1947年横浜市生まれ。同市水道局勤務時代に芝居を志し、アマチュア劇団で活動。同局の労働組合では中央委員を務めた。退職後、フォーク・デュオ「ダ・カーポ」初代マネジャーなどを経て、渡部又衛兵さんらが88年に結成した「ザ・ニュースペーパー」のプロデュースを担当。得意のパントマイムはヨネヤマママコさんに師事。