インタビュー

直言41 川崎教会名誉牧師 李仁夏さん

李仁夏さん アジアという広い視野で

 憲法を変えるための国民投票法案が国会で審議されている。非戦を誓う9条がどうなるかは、祖国が分断された在日コリアンの人々にとって、とりわけ深く重い意味を持つ。長く人権活動にかかわってきた在日韓国人の牧師、李仁夏さん(81)=川崎市=は「北東アジアの平和と安定は私の悲願」と言い、平和憲法の行方を注視する。【明珍美紀】

●平壌宣言の意義の再確認を

 憲法の問題は日米安保条約がカギを握ってますね。日本は戦後半世紀、安保体制できたけれど、憲法を変える方向にプレッシャーをかけているのはアメリカだと思う。アメリカの軍事・外交政策を支えるために9条を変えて集団的自衛権を行使できるようにしろというわけですね。
 国民投票法案と同時に、北朝鮮の核をめぐる六カ国協議の再開(3月19日)で日朝問題も重要な時期に入った。私はここでみなさんにもう一度、2002年9月の平壌宣言を思い出してもらいたい。
 六カ国という枠組み、そこにモンゴルも加えていいと思うが、その枠組みで北東アジアの安全保障体制を確立する。そういう方向付けが日本の外交政策のなかで唯一示されたのが平壌宣言なんです。2000年の金大中大統領の平壌訪問での和解と統一の宣言を踏まえて韓国側が日本に対し、「今度はあなたたちが、日朝国交再開の位置づけをお願いします」と申し入れ、その流れのなかで小泉前総理が訪朝し、平壌宣言が生まれた。
 核保有という点では北朝鮮は脅威かもしれない。だが、この間、有事法制は北朝鮮をばねにして成立し、日本は戦争へと進んでいる。拉致問題は解決すべきだが、そればかりに固執するのではなく、解決の糸口を探りながら経済協力などで新しい日朝関係を構築する。日朝関係が正常化し、朝鮮半島が一つになれば、安全保障体制が確立する。中国も日本も「一つの仲間」という感じになる。それが私の夢みたいなもの。遠い道のりですけれど。

●大切なことがべた記事の扱いに

 マスメディアはポリティカルなイデオロギーに流されますね。それと若い新聞記者は、打てば響くような対応ができない。朝鮮植民地支配がどうしてどうあったか、その辺をゼロから教えて語ったうえの取材だから、1時間余分に時間がかかる。勉強していないからね。
 私が「これは」と思う事はべた記事の扱いにしかならない。逆に言えば、べた記事にいいものがある。それがフロントページを飾るような流れをつくらなければならない。例えば韓国が北朝鮮との間に鉄道再開を提案したことが新聞に小さく載っていた。これがなぜ重要かといえば、北東アジアの平和と安定の一環だから。広い視野で自分たちが住むアジアという地域を考える。平壌宣言のあの線に価値観を設定すれば、記事の書き方は違ってくる。
 とにかく世界で類のない憲法を持ってしまったんだから、大事にしたほうがいい。コスタリカの憲法も軍隊の保有を禁じていて、中米の小さな国が独立した位置を保っている。アジアにおいても日本はそうあってほしいし、軍縮、核兵器廃絶という究極的なメッセージは広島、長崎を経験した日本だからこそ発することができる。


李仁夏(イ・インハ)さん 川崎教会名誉牧師
1925年韓国・慶尚北道出身。父は朝鮮総督府下の警察官。41年、中学生のときに京都に留学。戦後、日本とカナダで神学を修め、53年牧師となり59年大韓基督教会(川崎教会)に赴任。川崎市を拠点に宣教や人権活動、多文化共生のまちづくりなどに取り組む。日本キリスト教協議会(NCC)元議長。著書に「歴史の狭間を生きる」(日本キリスト教団出版局)など。