インタビュー

直言42 弁護士 山口真美さん

山口真美さん 法案は改憲派に有利な構造に

 国民投票法案が国会で採決されようとしている。与党修正案が4月13日に衆院を通過し、このまま成立すれば、改憲の具体的な手続きが戦後初めて法律で定められることになる。だが、改憲の是非を問う前に、「この法案自体が改憲派にきわめて有利な構造になっている」と異議を唱えるのが、弁護士の山口真美さんだ。その大きな理由の一つが有料広告、すなわちメディアアクセスの問題で、「いまのままでは市民が改憲案に賛成か反対か、どちらを選ぶかを判断する情報が適正に伝わらない」と訴える。【明珍美紀】

●政治広告は無料化にすべきだ

 国民投票法案で私たちが最も問題だと思っているのは、メディアアクセス、つまり国民投票に関するテレビやラジオの有料政治広告の規定ですね。実際に投票するときは賛成派、反対派がそれぞれ意見を表明することになる。結局、「改憲賛成」と言っているのは財界が中心で、潤沢な資金のある人たちが有料広告を打てば、一般の市民と圧倒的な差ができる。
 この問題に関心を持つきっかけは、昨年6月の衆院調査特別委員会に参考人として招かれたコラムニストの天野祐吉さんのコメントで、テレビやラジオのCMは、中身もそうだけど量的にも影響力を持つという内容。例えばキムタクのような人を起用して「考えてみようよ、改憲」なんて言われたら、改憲そのものがすごくポジティブなイメージになる。「じゃあ、法案の中身って?」というところが伝わらない。
 国民に情報を適正に伝え、国民が判断するには一般の国民がアクセスできる無料広告が大事。憲法96条で国民投票が定められているのは、憲法という国の根幹については「私たち一人ひとりが決める」ということを示しているのであって、そのことが非常に大切なんです。法案にある無料の意見広告も、政党と政党が指名する一部の団体に限られ、いわゆる市民団体は除かれる。私の所属する自由法曹団も意見表明ができないということになる。

●イタリアでは規制は「必要悪」

 イタリアでは、国民投票運動(選挙運動)において、全国ネットの有料広告が法律で禁止され、「無料広告の原則」が確立されている。なぜ、そのような規制を行なっているのか、自由法曹団の調査団メンバーとして2月の半ばにイタリアに行き、議員やジャーナリスト、学者らからヒアリングを行なった。
 制定の動機としては「メディア王」といわれるベルルスコーニが94年の総選挙で首相になり、それまで彼の傘下にあった民放3局に加えて国内に3つある国営放送も彼が支配することになった。ロベルト・ナタールさんというイタリア国営放送のジャーナリストは、規制は「必要悪」だと言っていた。ナタールさんは昨秋まで労組の委員長もやっていたけれど、「一部の人間が一部の考え方を押し付けるためにCMを垂れ流す状態はいわば環境破壊、公害で、それに対する法律の規制は『マスク』のようなものだ」と話していた。
 9条を守ろうという人はたくさんいるのだから堂々と国民投票をやればいいと思っている人がいるかもしれないけれど、そう簡単にいかないのが先ほどのイタリアの例で、ベルルスコーニは政党をつくって数カ月後に政権を取った。その間、メディアに接すればベルルスコーニが映り、彼の掌中にある民放の司会者やキャスターが「態度」で間接的に支持を表明した。資金力のある人が「カネで政治を買う」。このことにイタリア人はものすごく反省したんだと思う。だからこそ与党でさえも、この法律をつくるのを賛成した。

●本当に「国民の過半数」なのか

 国民投票法案には、これ以外にも問題があり、「公務員・教育者の地位利用」の規定では、市民レベルの国民投票運動において、公務員や教育者は影響のある行為は禁止するとなっている。最低投票率も定められていない。例えば投票率が30%だと、その30%のなかの過半数が賛成すれば、憲法が変えられてしまう。決して「国民全体の半分」ではない。これでは「憲法を変えるのはだれですか」「国民です」と答えられない法律ですよね。こうした問題点がマスメディアを通じてどれだけ国民に伝わっているか。

●憲法に書いてあることを現実に

 私は小学生のときに日本国憲法を読んで、人には幸福を追求する権利があるとか、一人ひとりに言論や表現の自由があるということを知り、素直にすごいと思った。「こんなに素敵なことが書いてあるのに、それが実現されていない。じゃあ、実現できる仕事は何か」と考えて、弁護士になりたいと思った。「憲法が古くなった」というのはとんでもない話。
 記者のみなさんには「市民の目線」のジャーナリズムを心がけてほしい。国民投票法案も、市民の目線で見れば「私たちが決める憲法の決め方がこんないい加減なことでいいのか」となると思う。新聞記者は、問題点をだれよりも先に国民に知らせられる立場にある。だからこそ、恐い部分もあるし、責任も重い。
 (07年4月下旬、三多摩法律事務所内でインタビュー)


山口真美(やまぐち なおみ)さん 弁護士
93年中央大法学部卒業。99年司法試験に合格し、01年弁護士登録(第二東京弁護士会)。現在、東京都立川市にある三多摩法律事務所に所属し、労働事件や横田基地騒音公害訴訟、沖田痴漢冤罪国家賠償請求訴訟、えひめ丸事件などを手がける。地元で三多摩憲法ネットワークなどの憲法運動に取り組むほか、自由法曹団(http://www.jlaf.jp/)の改憲阻止対策本部担当次長も務める。