インタビュー

直言43 映画監督 大澤豊さん

大澤豊さん 改憲派の対抗軸を

 日本国憲法は本当にGHQ(連合国軍総司令部)の押し付けかーー。そんな問いに答えようという映画がこの春から上映されている。民間による「憲法草案要綱」を起草した憲法学者、鈴木安蔵に光をあてた「日本の青空」だ。「映画人九条の会」の呼びかけ人で、同映画を監督した大澤豊さん(71)は、「憲法を守ろうとする側が対抗軸になるには、われわれ自身が、改憲の最大の論拠をくつがえさなければならない」と強調する。【明珍美紀】

●押し付け憲法論を跳ね返し

 若い人たちに「いまの日本の憲法をどう思う」と聞くと、「あれはアメリカがつくった憲法なんでしょ」ということをぽつりと言う。「押し付け憲法論」がかなり浸透していると危機感を覚えている。
 歴代の自民党政権がなぜ9条を変えたいかというと、その背景には「日米同盟」の強化、さらには日米財界の思惑が見え隠れする。だが、そのことを政府は口が裂けても言えない。だから「GHQから押し付けられた」といういわゆる押し付け憲法論と、「あの憲法は法律も知らない軍人たちが、たかだか2週間足らずでつくった粗雑な内容だ」ということを言っているわけですね。
 改憲の最大の論拠をくつがえすには、日本の憲法は本当に押し付けなのかという問題を明らかにしないと跳ね返せない。だから、今度の映画はそこに脚本づくりを集中することにした。
 映画制作を通して改めて分かったのは、GHQの憲法草案にかかわった人たちは、憲法学者ではないけれど、もとは弁護士だったりロースクールを出ていて、法律の素人というわけではない。とくに民政局のラウエル中佐が中心的な役割を担い、来日前から日本のことを勉強し、鈴木安蔵の著書の英訳を読み込み、自由民権期の植木枝盛らのことも参考にしている。憲法研究会の草案要綱を大幅に組み込んでいることもラウエル文書で判明した。しかもそこのとはすでに国会で明らかにされているんですね。

●いかに仲間を増やすかの闘いに

 「映画人九条の会」は、加藤周一さんや大江健三郎さんら9人の呼びかけ人が04年6月に設立した「九条の会」を受けて、その年の11月に結成した。吉永小百合さんや倍賞千恵子さんらも加わり、役者だけではなく映画にかかわる配給者や興業者、愛好家も含め、いまではメンバーが1100人余になった。
 国民投票法が成立し、早ければ3年後には投票になる。憲法を守ろうという側は、これからいかに仲間を増やすかの闘いになる。改憲派は7月の参院選に向け、当然いろいろなキャンペーンを打ってくる。その意味でマスコミは重積ですね。
 例えば安倍さんの私的懇談会である「安保法制懇」。集団的自衛権についても話し合って秋までに報告書を出すというが、肝心のメンバーがどういう人たちなのか、集団的自衛権についても、それが行使されたらどうなるかについて、国民はほとんど知らないと思う。我々が最も知りたいのは、安倍さんがなぜ憲法を変えたいか。その本音のところをうまく引き出して明らかにすることも、マスメディアの大切な役割ではないか。
 また、アジアの人たち、中国をはじめ近隣諸国はこの状況をどう見ているか。「向こう側から見る」ことも、読者としては知りたいですよね。

●日本の未来を考えて行動を

 僕自身は、鈴木安蔵という人物から学者としての信念を強く感じた。「憲法よりも飯」という時代に、自分の思想や考え方を曲げず、日本の未来を考えて行動したわけですからね。
 平和のためには、軍隊を送って国際貢献をするのではなく、相手との違いを認め合いながら共存していくしかない。マスメディアが政権に抗うのは大変だが、新聞記者も信念で上司やデスクとけんかするぐらいの気概が必要になってくる。


大澤豊(おおさわ ゆたか)さん    映画監督
1935年11月、高崎市生まれ。群馬大教育学部卒業後映画界に入り、山本薩夫、黒澤明監督らの助監督を務める。81年、後藤俊夫、神山征二郎両監督ととともに「こぶしプロダクション」を設立。主な作品に「GAMA-月桃の花」「アイ・ラヴ・ユー」など。「日本の青空」の問い合わせは共同映画(03・3463・8245)。