インタビュー

直言44 劇作家 宮沢章夫さん

宮沢章夫さん 政界から「ポスト戦後」を問う

 戦後生まれの52歳の首相が「憲法を変えよう」と旗を振る。これだけ熱意を持って改憲に踏み出そうとする首相が「自分と同世代であることに疑問を感じていた」と劇作家の宮沢章夫さん(50)は話す。果たして宮沢さん流の解釈とはーー。【明珍美紀】

 いまの首相は僕らとほぼ同じ世代。子どものころ、ある程度貧しい日本を知っているとはいえ、思春期以降は高度経済成長期を当たり前のように過ごしてきた。それゆえにさまざまな矛盾があったはずなのに、近代化ということに恐らくなんの引っかかりも持たずに生きてきた。自衛隊がイラクに派遣された当時の防衛庁長官(石波茂氏)もまさに僕と同い年。その世代が政界で大きなポストを占め、歴史を動かすかもしれない。その意味を考えることは、そのまま「ポスト戦後」を問うことになる。

●戦前のポピュリズム再び

 ある雑誌でフリーターの記事を読んだ。30代で月収が10万円ちょっと。だからといって社会を変えようというのではなく、いまの政治ではこの状況を打開できない、戦争にでも行くかという極論だった。なぜ自分は高等教育を受けていながらもフリーターなのかと根本的に問い直していけばいいが、きわめて短絡的に「戦争」という大きなポイントに収束させてしまう。
 これは戦前のポピュラリティーと同じですよ。大衆的な感情の高まり。1930年代の不況のなかで、軍部に対する期待が大きく高まった。そうした歴史がきちんと勉強、認識されてこなかった。戦争がどのように生み出されていったかを歴史という枠組みのなかで考えていくことがなかった。
 この間の改憲への流れをみれば、確実に「負けているな」と思う。でも、何に負けているのかよく見えない。もっと大きな背後にある力、言ってみれば大衆的な意思、ポピュリズムみたいなものかもしれない。
 戦後、リベラルになったことは当たり前とはいえ、それは単に形式上のことでしかなかった。「差別はいけない」と口では言うが、世の中に差別がないかというとそうではない。本当に自分たちを自由にしてくれるものはどこにあるのか。根底にあるものをもう少し考えればいいが、いまの社会にはそれがない。

●伝えるべきことを明確に

 憲法について語ることは僕にとって専門外の領域だけれども、仕事が忙しいから憲法について議論する余裕がない、あるいは専門外だから議論には加わらないということを続けていたら、いつの間にか世の中は変わっているかもしれない。そうした危機感について、特にジャーナリストは敏感でなければならないのではないか。
 マスメディアは常に右からも左からも批判されてきた。新聞を信じないという人たちもいる。何をどのように伝えるべきなのかということを明確にしてほしい。いかに政府の情報を引き出すか、政府関係者から談話を取るのがうまいか。それが記者のスキルになっているのではないかと想像するんだけれど、それは演劇で言えば、いかに助成金をたくさん取るかという話ですよね。そうではなく、この発表はどこから出て、記者の取材でどこまでこの記事がつくられたかということを僕は知りたいし、そういう記事を読みたい。(07年5月、東京都内でインタビュー)


宮沢章夫(みやざわ あきお)さん 劇作家
 静岡県生まれ。90年「遊園地再生事業団」の活動を開始し、「ヒネミ」(92年)で岸田戯曲賞。10年間で十数本の舞台作品を発表し、3年間の休止期間を経て03年の公演再開後はプレビュー公演から本公演へつながるワークインプログレス形式で上演。エッセー、評論、小説など執筆も多い。京都造形芸術大、早稲田大で教鞭をとるなど活動は多岐にわたる。