インタビュー

直言46 ニューヨークで9条をテーマに美術展を企画するキュレーター、渡辺真也さん

渡辺真也さん 憲法9条のグローバル化を

 日本の平和憲法が「米国の押し付け」と言われているにもかかわらず、米国社会で9条の存在を知るのはごく一部だという。その米国で「アートを通じて憲法9条のグローバル化を」と活動しているのがニューヨーク在住のキュレーター、渡辺真也さん(27)だ。この秋に発足した福田内閣も、米政府の顔色をうかがうようにテロ特措法の継続を求めているが、「大切なのは国際社会で戦争を回避できるシステムをつくることだ」と渡辺さんは説く。【明珍美紀】

●戦後美術のなかに9条を反映させて展示

 来年の1月にニューヨークのソーホーで憲法9条と戦後美術をテーマにした作品展を計画している。沖縄出身の照屋勇賢さん(ニューヨーク在住)やオノ・ヨーコさん、ヒロシマ、ナガサキへの原爆投下のミッションに参加した元空軍の孫に当たるアーティストも展示への参加が決定している。
 誤解を恐れずに言うと、9条を守ろうと呼びかけるために美術展をやるのではない。もちろん日本の9条は歴史における特異点であり、現状では9条はあった方がいい。けれども戦争は世界のシステムによって発生している。それを回避できるシステムをつくることが非戦につながる。戦争をすれば一部の人だけが得をして大多数が損をする。しかしすべての人が戦争によって被害をこうむるようなシステムを構築すれば、戦争は発生しない。
 9条をグローバル化することに意味があるのではないか。つまり憲法の根底にあるネーション規定、すなわち国と国との敵対概念そのものを解体していけばいい。それは政治決着よりも文化的なレベルの方が効果があり、私はそれをアートの世界で実践する、戦後美術のなかに9条を反映させてみようという視点で今度の美術展を考えている。

●日本のジャーナリズムにも米国の影

 まずは9条の存在そのものを海外の人に知ってもらう。その最大の役割を担うのはジャーナリズムですが、日本のジャーナリズムはアメリカの影響が強すぎる。一番いい例が安倍政権以降のテロ特措法の問題で、端的に言えば、アメリカとどう付き合うかという話ですよね。戦後、日本の政治家はそれで苦労をしてきたけれど、結局アメリカに逆らえず、ジャーナリズムも厳しく批判できないという現状があると思う。
 米国で暮らしていて感じるのは、アメリカ人でも9条のことを知っている人はごく一部であり、GHQが草案を書いたという歴史そのものも風化している。ただし、憲法9条はアジアに対して書かれたメッセージでもある。私たちは「アジアに対してもう戦争はしません」とね。だから謝罪の意味が込められている。
 もう一つ、第2次世界大戦のサンフランシスコ講和条約と日米安保は、同日に相次いで成立していて、このことをかなり丁寧に掘り下げてみる必要がある。特に日米安保の問題は大きくて、安保と9条はセットになっている。自衛隊が米軍の支部隊のようになっている状況のなかで「9条を守ろう」と単純なメッセージの発信に終始してしまうと、それこそジャーナリズムの失敗になりかねない。

●後継者を育てる努力を

 日本の平和運動に関しては、みなさんよくやっていると思うけれど、この夏、広島を訪れ、風化しつつある被爆の記憶をどう残すかに躍起になっているように感じた。広島の大学院生に映画「ヒロシマ・モナムール」(放題:二十四時間の情事、アラン・レネ監督、59年)の話をしても、みな知らないんですよね。
 広島は東京や大阪に比べて情報量や外部との交流が少ない。それなのに「私たちは世界のヒロシマにいる」という自負があり、それと当事者性、被害者意識が混じって複雑な状況が生まれているのではないかという印象を受けた。
 加藤周一さんら9人の呼びかけ人による「九条の会」にしても、大江健三郎さんや鶴見俊輔さんの後継者がいない。日本の左翼、インテリの知の集約は相当なものだった。それがグローバル化しなかったがために優秀な人はIT系に流れてしまい、文化はオタク化し、ホリエモンのような簡単な価値基準の人間がスターになる。私自身、同世代の人たちを見て感じるのが、金銭的な交換価値にしか価値を見出せない人が多い。どうすれば後継者が出るのか。それはもうみんなで考えて努力するしかない。
 日本の新聞を読んでいてフラストレーションがたまることがある。例えば、ある保守系の新聞に、国民投票法についてジョージ・ワシントン大学の教授はこう評価している、というような記事が載っていた。ジョージ・ワシントン大学は、別名”CIA大学”と呼ばれるほどアメリカの戦略に合致している。なぜ日本の保守系の新聞がアメリカの利権の片棒を担いで要るのか私には分からない。もしも中途半端な理解で、そうした記事を書いているのであれば大変なことだ。
 アートをやる人間がこんなことを言わなければならないもどかしさ。現代思想における議論を理解せずにマイノリティー問題を書くとか、記者の勉強不足もあるのではないか。私はジャーナリズムを信じたい。だからこそ記者のみなさんに期待している。


渡辺真也(わたなべ・しんや)さん
 静岡県沼津市生まれ。専修大学経済学部を卒業後、02~04年米ニューヨーク大大学院に留学。05年「イーサン・コーヘン・ファインアート」ギャラリー・マネジャー。来年1月12日からニューヨーク・ソーホーで企画展「アトミック・サンシャインー九条と日本」を開き、実行委員長を務める。詳細はホームページ(http://spikyart.org/atomicsunshine)