インタビュー

直言47 環境ジャーナリスト、アイリーン・美緒子・スミスさん

アイリーン・美緒子・スミスさん 核兵器の材料保有は平和と逆行

 地球温暖化防止を訴え続けてきたアル・ゴア前米副大統領が今年のノーベル平和賞を受賞するなど、環境問題が世界的にクローズアップされている。京都を拠点に原発廃止運動などに取り組むアイリーン・美緒子・スミスさんは、「温暖化の原因となるCO2(二酸化炭素)を削減するには、原発に頼らないクリーンエネルギーへの転換が必要だ」と主張。「核兵器も原発もない世界を目指すことは平和につながる」と説く。【明珍美紀】

●温暖化問題にも正しい情報を

 ノーベル平和賞の授賞を受けての記者会見でゴア氏が、「地球温暖化の問題解決に向けて活動してきたすべての人たちを代表して受賞する」と話したのは適切な言葉だった。地球温暖化は科学的な問題として80年代ぐらいから指摘されていたけれど、運動をしている人たちはなかなか認められなかった。被害が目に見えるようになり、ゴア氏やIPPC(気候変動に関する政府間パネル)だけでなく、ここ1~2年、さまざまなところでこの問題が叫ばれ、みんなの意識が高まってきた。だからこそ、ノーベル委員会も認めたのだと思う。「これは自分の問題でもある」と人々が思うようになったことは大きなステップだ。
 温暖化のことでいま一番必要とされているのは正しい情報ですね。たとえば日本だったら、「オール電化にすれば温暖化に寄与する」など事実関係が違っていることで人々がよしと思っていることがたくさんある。
 「温暖化防止のために原子力を」という論理は正しくない。2つの理由があって、まずお金は原子力に投資するより、省エネ対策とエネルギー効率化に投資したほうが、もっとCO2 を削減できる。もう一つは、仮に新しい原子力発電所を建てようとすれば、どんなに早くても10年はかかる。すでにある原子力発電所を温暖化防止に寄与させようとなると稼働率を高めなくてはならない。いままでハーフマラソンだったのが、古い原発にむちを打ってフルマラソンを走らせることになるからものすごく危険。温暖化対策を進めるうえで、この10年はとても貴重だ。太陽光や風力など再生可能なエネルギーはどんどん進化して効果的になっている。原発に投資したらそれこそ「失われた10年」になる。

●核問題を考えることは平和について考えること

 原発事故でもヒロシマ、ナガサキへの原爆投下でも、同じ放射能で被ばくする。現在、稼動に向けて試験が進められている青森県六ケ所村の再処理工場では、年間約8トンのプルトニウムが分離される予定で、IAEA(国際原子力機関)の定義をもとに計算すると、原爆1200個分程度を造れる量が分離されることを意味する。
 日本のプルトニウム政策は1956年から始まった。だが、半世紀もの間、プルトニウム政策を続けてきて、電球1個、灯されていない。核兵器に転用可能な物質を商業利用する。プルトニウムがいつも不明瞭なかたちで存在する。そういう世の中には絶対にしてはいけない。核兵器の材料を大量に持つことは、みんなで平和な世の中にして行こうという流れと逆行する。子どもたちの未来を閉ざしてしまう。
 世界中の歴史のなかでいつも求められる理想は「戦争をなくしていこう」ということで、それを憲法に盛り込んだ日本の9条はまさに宝。この貴重さを実感する、イコール9条を自分たちのものとして獲得する。日本はアメリカの核の傘の下で平和憲法を持つ矛盾を抱えているが、私自身はプルトニウム政策を止めることが積極的に平和を実現することにつながると思っている。
 20世紀は戦争の世紀と言われ、多くの命が失われた。私はアメリカ人で、同世代の男性もベトナム戦争に派遣された。けれども私の回り、すなわち大学のクラスメートだった男性のほとんどは戦地に行っていない。ここにも格差がある。頭のなかのどこかで、自分とは関係がないという思いがあり、その格差が沈黙を生む。日本でも安保反対が盛り上がったが、市民運動はオルタナティブ(もう一つの方向)を示せなかった。「いまの政府のやり方はおかしい」と何十年も言い続けてきたが、「みんなで議論しよう」という方向にはあまりウエイトを置かなかった。これは私たちの反省でもある。

●新聞記者もファイト!

 もし9条二項が変えられ、集団的自衛権の行使の道を開いたら、自衛隊のだれかが戦争に行くというのではなく、その誰かは自分の息子であり恋人であると考えるべきだ。
 新聞記者には、集団的自衛権を変えることが具体的に何を意味することかをきちんと取材して私たちに伝えてほしい。いままで平和に挑戦してきた国、例えば軍隊を持たない国として知られるコスタリカの例などをもっと積極的に報道してほしい。世界との比較のなかで9条がいかに素晴らしい意味を持っているかが自ずと分かるはずだから。
 私も取材を受ける機会が多いが、記者はファイトが足りない。与えられた資料をもとに文字にしていく傾向が強く、真相を見つけてやるんだという意気込みがあまり感じられない。記者は「中立」という言葉から解放されなければならない。掘り下げて真実を知ったとき、中立ではあり得ないから。むしろ公正さと正直さが大切なのだ。
 編集者やデスクと闘ってほしい。記者のもう一つの仕事はデスクと闘うことだと言ってもいい。デスクの側にも組織のなかでの不自由さはあるだろうが、デスクは編集局長と闘う。記者が自分までデスクの役割をしてしまったら、自己規制につながる。
 ジャーナリズムは本当に大切な仕事。一人ひとりが使命感を持って物事を追及していけば、次第にファイトは沸いてくる。


アイリーン・美緒子・スミス(アイリーン・みおこ・スミス)さん
 1950年東京生まれ。写真家の故W・ユージン・スミス氏と71年に結婚。74年まで3年間、熊本県の水俣に住み、75年、米国で写真集「MINAMATA」をユージン氏と出版。80年には日本語版「水俣」(三一書房)を刊行。現在はNGO「グリーンアクション」代表。