お薦め本紹介

お薦め本紹介(2013年9月)

石をうがつ
鎌田慧
石をうがつ
自責と後悔の念を胸に脱原発の実現に向けて歩む
 著者は75歳。ルポライターとして原稿を書き始めてから45年が過ぎたという。まさに「第一章 反骨四十五年」にあるとおりだ。ほんとうに、石に穴をうがつように、どんな権力にも屈せず、自己の生き方を貫いてきた半生が、この章で簡略に綴られる。改めてその長く激しい闘いに驚く。そして今、鎌田慧という名前は反原発運動に欠かせぬ重みを持つ。
 私は雑誌編集者時代に著者に出会い、その曲げない意志の頑固さに打たれた。その後、著者の『原発列島を行く』という新書を編集した。だから鎌田vs.原発の闘いも、つぶさにそばで見てきたといっていいと思う。「第二章 ルポ原発を歩く」がそれだ。
 それほどの熾烈な闘いをしてきた著者でさえ「大事故が発生する前に、日本が原発からの撤退を完了しているかどうか(略)。大事故が発生してから、やはり原発はやめよう、というのでは(遅い)とも書いているんですが、原発をやめるための、積極的な運動をしてはこなかった…」と自責の念を書き記さざるを得なかった。
 あれほど闘った人をも後悔させるほどの過酷な事故、それが福島第一原発事故だったのだ。知ったかぶりの評論家や学者などに、著者の爪の垢を煎じて進呈したい。
 「もはや事故は収束した、五輪に放射能の心配などまるでない」などと口走る安倍首相が、どれだけ薄っぺらに見えることか。
 「第七章 『さようなら原発』運動の歩み」に示される巨大な足跡。もし鎌田慧なかりせば、すでに850万人を超えた脱原発署名も、反原発10万人集会も成立しなかった。石をうがつ行動は、必ず脱原発の実現となって結実する。それを予言するのが本書だ。

講談社(1500円)

鈴木耕(編集者)

「慰安婦」バッシングを越えて
「河野談話」と日本の責任 「戦争と女性への暴力」
リサーチ・アクションセンター編
慰安婦」バッシングを越えて
強制を否定する「慰安婦」観への全批判
 「慰安婦制度が必要なことは誰だってわかる」
 大阪市長の橋下徹氏が、そう発言したのは、今年五月のことだ。
 また、一般にはあまり知られていないが、衆院議員の西村真悟氏は、かつて、自衛隊がイラクに派遣されていた折に、雑誌「諸君!」(2004年6月号、文芸春秋)の対談で、こう語ったことがある。
 「異教徒がイスラムの女性に声をかけただけで殺されるかもしれない所ですから、慰安所、今でいうリクリエーション施設を設置することも検討しておくべきかもしれません」
 本書は、こうした暴言が象徴する、人権と歴史事実を無視した「慰安婦」観に、全面的な批判を加える。
 第I部「『河野談話』と『慰安婦』制度の真相究明」、第II部「日本政府の法的責任」、第III部「『慰安婦』問題の解決」の三部で構成されている。
 中西新太郎氏の論文「なぜ多くの若者は『慰安婦』問題を縁遠く感じるのか」は、こう指摘する。
 「(1970年代以降)日本の侵略の犠牲者を置き去りにする構造が、ずっと続いてきた。そして、最近では、日本はそうした歴史的な『負債』について、すでに清算をすませたかのようなつかまえ方がされている。この結果、(中略)歴史問題は、もっぱら自分たちに対する中国や韓国からの、理不尽な攻撃としか映らない」
 とすると、問題は若者だけではあるまい。折しも、七年後の東京五輪開催が決まった。隣国との歴史摩擦問題を解決する「締め切り」は、そう遠くない。
(大月書店2200円)

上丸洋一(新聞記者)
里山資本主義
日本経済は「安心の原理」で動く
藻谷浩介+NHK広島取材班
里山資本主義
貴重な地域資源を生かして元気を取り戻す先駆的な挑戦
 地域社会の現場を重視する放送ジャーナリストと地域エコノミストによる「共同作品」である。筆者らの造語である「里山資本主義」は、「かつて人間が手を入れてきた休眠資産を再利用することで、原価0円からの経済再生、コミュニティー復活を果たす現象」と定義される。
 実践例として紹介されるのが、岡山県の山あいにある、製材の際に生じる木くずを利用したバイオマス発電を試みる製材所。広島県庄原市にある、“過疎の町”の知恵で無縁社会の克服に取り組む社会福祉法人などだ。
 本書の事例のような貴重な地域資源を生かして元気を取り戻す挑戦は、岩手県葛巻町や高知県馬路村、梼原町、徳島県上勝町など全国各地で燎原の火のように広がる。
 2011年3月11日に起きた、東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故は、日本のエネルギーや食料の調達路が、いかに脆弱であるかを再認識させた。それはまた、「発展する大都市と従属させられる地方」の図式で取り組まれてきた日本の諸施策の重大な問題点を浮き彫りにした。
グローバル経済が大きな破綻を見せるなか、今なお2020年の東京五輪開催に向け、構造的な問題点を拡大再生産する動きが強まりつつある。
 「世の中の先端を走っていると自認してきた都会より、遅れていると信じ込まされてきた田舎の方が、今やむしろ先頭を走っている」との視点から、「豊かな生活とは」を問い直す本書は、“課題先進国”に生きる人々に勇気とヒントを与えてくれる1冊だ。
(角川Oneテーマ21 780円)

栩木誠(学習院大学講師)
戦争遺産
安島太佳由 写真・文
戦争遺産
 タイトルの頭に「若い世代に語り継ぐ」と添えてある。戦争の記憶が風化していく今、アジア太平洋戦争の戦跡を、とりわけ若い世代に、写真で伝えてゆく仕事は貴重だ。
 18年に及ぶ戦跡取材で辿ったエリアは十数か国・地域。とった写真は数万枚。その中から、代表的な戦跡を厳選し、普及版として刊行した。
 朽ち果てた戦闘機や戦車、大砲・トーチカの残骸、兵士のしゃれこうべは、「物言わぬ語り部」として、戦争のむごさ、愚かさ、無念さを訴える。
 収められた191枚の写真には、どれ一つとっても、文字にすれば十ページにも及ぶ物語が秘められている。とりわけ太平洋の島々に残された戦争遺産は、日本軍の撤退・敗退の様子を、如実に映し出している。
 今でもジャングルの奥深く、白骨化した日本兵の頭骸骨やひしゃげた飯盒、弾痕が残る水筒などが散在している。兵士の7割は、栄養失調が原因の餓死・病死・自決だ。ああ無念。いまだ故郷に帰れない遺骨は百万を超す。
カラーA4判22ページ900円。
購入の問い合わせは安島さん(090-1030-6827)へ。

守屋龍一
TPPが民主主義を破壊する!
苫米地英人著
TPPが民主主義を破壊する!
 TPPは、これまで関税や国の法律で、一定の保護をしていた産業、公共事業、医療、文化・芸術など、全分野にわたって、規制の撤廃を図る協定だ。参入が規制されていた多国籍企業とそこに投資している金融機関だけが得をする。
 しかもTPPにそぐわない法律があった場合、加盟国はその法律を修正・撤廃しなければならない。まさに多国籍企業は、国の立法権まで牛耳ることができる。
 マスコミにも大きな打撃を与える。現在、放送局は、外国資本が株を持つ場合、その比率は20%まで。新聞社にも規制がある。日本のメディアが多国籍企業や国際金融機関に専有され、国益が損なわれるのを防ぐためだ。これも撤廃となれば放送局や新聞社が乗っ取られる事態だってある。
 食生活も脅かされる。TPPに参加して遺伝子組み換え作物の表示まで禁止されたら、米国のように健康被害は増大する。
 さらに警察も消防も医療も、すべて自由競争、民営化、競争入札となれば、どうなるか。儲けのために安全・命が天秤にかけられる。もう秩序などない。国が破壊するのは必然。
(サイゾー500円)

萩山拓(ライター)