お薦め本紹介

お薦め本紹介(2016年6月)

お薦め本紹介(2016年6月)
・警察捜査の正体
・安倍政権にひれ伏す日本のメディア
・電通とFIFA
・原発棄民 フクシマ5年後の真実
・テロリストワールド

警察捜査の正体

原田宏二
警察捜査の正体 現場や組織の実態を熟知した警察批判、その深く重い指摘に耳を傾けよ
 5月19日、捜査手法の拡大を認める刑事司法改革の関連法案が参院法務委員会を通過した。その後、衆議院でも可決され成立してしまった。本書の帯「警察が何でもできる時代が来た」は、大袈裟でも絵空事でもなくなってきた。
 大手メディアの多くはこの間、法案の内容を「組織犯罪の摘発に寄与する」という論調を軸に報じてきた。「テロ対策」「振り込め詐欺の抑止」などの名の下で進む警察の変容。「ストーリーありきの捜査が続く中で司法取引を認めたら何が起きるか」「立会人不要の盗聴を本当に合法化していいか」といった視点は、ほとんど登場しなかった。
 本書はそうした疑問に正面から答えている。
 元警察官の執筆と言えば、現役時代の手柄話か、自身の恨みが全編を貫く暴露本がお決まりだった。本書は違う。筆者は北海道警察釧路方面本部長を務めた警察の元大幹部であり、退職後の2004年に組織的裏金づくりを実名告発したことでも知られる。現場や組織の実態、警察の関連法を熟知した立場からの警察批判だからこそ、1行1行は深く、重い。
 マスコミ記者の大半は今も「サツ取材」からスタートする。そうした記者がまず本書を読まねばならない。キャップやデスクも、だ。自らが日々接する組織の実態を知らずして、まともな取材などできるはずがない。
 戦争協力の歴史を持つメディアは「二度と読者を騙してはいけない」と痛感している。そのためには「記者が権力に騙されてはいけない」のであり、騙されないためにまず、「知る」必要がある。
(講談社現代新書840円)

高田昌幸(「高知新聞」記者)

安倍政権にひれ伏す日本のメディア

マーティン・ファクラー
安倍政権にひれ伏す日本のメディア メディア間の対立を利用した分断統治に屈服
 2015年夏まで約6年半、ニューヨーク・タイムズ東京支局長を務めた著者は、日本のメディアの弱さを多方面から分析する。とくに第2次安倍政権は巧みなメディア戦略を駆使し、野球にたとえればメジャーリーグ級に接近している。一方、メディアの側は団結して官邸と闘う力を持てず、いまだに高校野球レベルにとどまると批評は辛口だ。
 安倍政権の特徴はメディア間のケンカを利用した分断統治だと指摘する。一つは朝日新聞の孤立化。従軍慰安婦問題で「朝日がミスリードし、外交に悪影響を与えた」と政権はキャンペーンを張った。一部新聞は朝日バッシングに走った。明らかに事実と反する攻撃を官邸がしたにもかかわらず、他のメディアはなぜ会社の垣根を越え、権力と対峙し、朝日を擁護しなかったのか。
 TBS「NEWS23」のアンカーだった岸井成格氏が安保法反対を表明したことに、安倍政権寄りの論客が非難の新聞広告を出した。その後、岸井氏はアンカーを降板した。このときも新聞各紙はTBSで何が起きたのか取材し、読者に判断材料を提供すべきだった。だが横の連携は生まれなかった。
 米国では権力によるメディア支配や、監視社会化が格段に進んでいる。だからこそ社論の対立を超え、言論・表現の自由の侵害に対して米国メディアは一致団結して闘う。プロのジャーナリスト魂がある。なぜ日本は横につながらないのか。「日本のメディアには事なかれ主義のサラリーマン記者があまりにも多い」と断じる。
 平和な日本を愛するゆえの著者の警句に耳を傾けたい。
(双葉社・1000円)

須貝道雄

電通とFIFA

サッカーに群がる男たち
田崎健太
電通とFIFA 〈東京五輪招致・裏金疑惑〉その深い闇を読み解くカギがある
 いま日本を揺るがしている「東京五輪招致裏金疑惑」。2020年五輪招致のため2億2千万円の裏金が使われたのではないか。その連日の報道中に、電通の名前が見え隠れしている。
 本書は、この疑惑を読み解く上でも、ある手がかりを示唆してくれる。
 広告代理店の電通は1982年、アディダス社のホルスト・ダスラーとISL社を設立。これが国際サッカー連盟(FIFA)、国際オリンピック委員会(IOC)も含めスポーツ界を商業化の波に飲み込んだ。電通幹部の証言をもとにたどる、その〝舞台装置〟の裏側は生々しい。
 商業化によりFIFAがお金にまみれ、腐敗が巣食い、制御不能となる。その渦中にいたFIFAのブラッター会長(当時)の言葉も興味深い。
 加えて2002年ワールドカップ(W杯)招致をめぐる電通幹部の打ち明け話は、今回の裏金疑惑と重なって見える。
 W杯開催地が決まる1996年の前年、電通は傾きつつあるISL社から撤退を決め、持ち株をダスラー家に売却。ところが、その利益のうち8億円をISLに戻したという。理由は、ISLによる日本招致の「ロビー活動費」に充ててもらうためだった。つまりはFIFA幹部の買収費用だ。
 それがどう使われたのか。日本の手を直接に汚さず、あずかり知らぬところでお金がうごめく―。スポーツ界を裏であやつるその手法も含め、裏金疑惑との類似点が見えてこないか。
 今回の事態でもメディアの電通の追及は鈍い。
 それだけに本書が問いかけるものは、重く大きい。
(光文社新書760円)

和泉民郎(「しんぶん赤旗」スポーツ部長)

原発棄民

フクシマ5年後の真実
日野行介
原発棄民 今もって住民に被ばく受忍を強いる「棄民政策」の不条理を問う
 福島県は昨年6月、福島第一原発事故による自主避難者への住宅の無償提供を2017年3月末で打ち切ると表明した。
 約2万5000人いるとされる自主避難者にとって、住宅の無償提供は生きていく上での命綱だ。無償提供を続ける限り帰還が進まず、復興の妨げになるという理由で、その命綱が切られようとしている。
 政府の方針の基本は、年間被ばく線量が20ミリシーベルト以下の地域は避難の必要はなく、帰還を進めるというものだ。それでも避難を続ける者に対しては、「あとは自己責任でやってくれ」と突き放そうとしている。
 しかし、本書でも何度も述べられているように、そもそもなぜ、原発事故の被害者が一切のメリットがない被ばくを受忍しなければならないのか。被害者に被ばくの受忍を強いようとする不条理への怒りが、日野記者の執念ともいえる取材活動の原動力になっていると感じた。
 被害者の意向は無視され、密室で勝手に決められた施策によって一方的に「復興」のために帰還を押し付けられ、従わなければ「自己責任論」で切り捨てられる。これを「棄民」と言わずして何と言おうか。
 日野記者は、情報公開制度を駆使し、そこから得たわずかな情報を手がかりに、政策決定に関与した政治家や官僚たちへの直撃取材に「夜討ち朝駆け」で果敢に挑み、「原発棄民」政策の内実を白日の下にさらしている。
 民を見捨てた「復興」とは何なのか。そもそも、国や政府は誰のために存在しているのか―本書は、この根源的な問いを鋭く投げかけている。
(毎日新聞出版1400円)

布施祐仁(ジャーナリスト)

テロリストワールド

真鍋厚著
 「イスラム国」によって2人の日本人が殺害されて以降、安倍政権のテロ脅威発言が目立つ。メディアも追随して報じている。このため国内で何か起きるという不安が、市民の心に沈殿している。
 これに便乗して安倍政権は、自衛隊や警察などの法整備・強化に躍起。テロを政治的に利用しようとしているから悪質だ。
 しかし、当局の発表をタレ流しにしない海外メディアもある。ロイター通信は、テロリストという言葉を原則、使わない。テロリストは、他の人にとっては〝自由の戦士〟であるからだ。英国BBC放送のニュースも他が「テロ」と報じても、「攻撃」とすることが多い。
 BBCは「他者が使用している言葉を、そのまま使用すべきではない」としている。「鵜呑み」にしないという職業倫理が働いている。情報を受け取る人への配慮や当局の思惑に乗らないという意識が、ロイターやBBCにはあるようだ。だが、日本のメディアは、そうした意識は希薄である。
 本書は主に評論、映画を通じ、テロとは何かを追究し解明に迫る。
(現代書館2300円)

橋詰雅博(フリージャーナリスト)