お薦め本紹介

お薦め本紹介(2016年7月)

お薦め本紹介(2016年7月)
・沖縄自立の経済学
・普天間・辺野古 歪められた二〇年
・日本はなぜ脱原発できないのか
・ネパール 村人総出でつくった音楽ホール
・スノーデン・ショック
・戦後政治を終わらせる

沖縄自立の経済学

屋嘉宗彦
沖縄自立の経済学 一歩ずつ、無駄な援助を排し経済的自立に向け国への主張は持続せよ
 地域主権確立のためにも、経済的自立が全国的に大きな課題になっている。こうした中で、長年米国の統治下に置かれた後、今も日本政府から陰に陽に圧力を受け続けている沖縄にとっては、「経済的自立」が他の地域とは質的に異なる意味合いを持つ。
 「沖縄の日本からの経済的自立は可能か、またその時間的距離範囲をどう考えるか」。本書は、自立の可能性の検討が主軸である。
 「沖縄の完全な経済的自立は、なまなかなことではなく、長期的展望、目標として設定されるべきものである」ことを、戦後、自主的経済活動が阻害されてきた沖縄経済のいばらの道を明らかにする。
 また現状分析を踏まえながら、「沖縄の経済的自立の問題をふくめて経済活動の方向を大きく選択していく際には、経済理論を知る必要がある」とする立場から、「自給率を高めつつ、観光・リゾート産業など移出型産業の育成」という難問解決に向け、「上からの政策だけでなく、そこに向かって住民が意識的に努力しなければならない」と地域住民・消費者の自覚的意識が必要であることを説く。
 「経済的自立」をつかむには、しなやかなしたたかさも不可欠。「沖縄経済自立への長い過程においては、財政移転という『援助』を権利として利用しつつも、無駄な援助を排し、一歩ずつ自立経済へ近づくことを、その間も自治の権利、国政への主張は一つも譲る必要はないことを訴えたい」。こう説く本書を貫くのは、1946年沖縄生まれ、法政大学沖縄文化研究所所長を7年間務めてきた著者の、沖縄の自立にかける不屈の思いである。
(七つ森書館2200円)

栩木誠(常磐大学講師)

普天間・辺野古 歪められた二〇年

宮城大蔵+渡辺豪 著
普天間・辺野古 歪められた二〇年 自前の基地を持ちたい米海兵隊、60年代の青写真に固執する背景を暴く
 沖縄県民が衝撃を受けた米軍兵士による少女暴行事件の翌年1996年4月に米海兵隊普天間飛行場(宜野湾市)の日本への全面返還が発表された。この時の代替施設案の中核は在沖米軍基地内に新設するヘリポートだった。
 ところが代替施設案は大きく変容。ヘリポートから大きな滑走路を持つ巨大施設、海上施設を経て、名護市辺野古のキャンプ・シュワブ沿岸部を埋め立て、長さ1800メートルの滑走路2本をV字形に建設、さらに普天間にない港湾施設も備えた現行案に一変した。
 驚いたことにこの新基地構想は米軍内では60年代から研究されていた。本書によると、96年夏、普天間飛行場を米空軍嘉手納基地と統合する案を米側と折衝していた当時の秋山昌廣防衛局長に、米側が埋め立て空港を描いた青写真案を示し、これでどうかと迫った。現実的でないと秋山は判断したが、結局、青写真案とほぼ同じものが現行案となった。沖縄に自分の基地を持ちたい米海兵隊が強力な政治力を発揮したからだと秋山は推測する。
 新基地建設計画がこんなに拡大したのは、米海兵隊の宿願、海兵隊と同居を嫌う米空軍の思惑、米軍に従い国策として強引に進める日本政府、利権を得ようとする基地建設推進派が主要因と本書は指摘する。
 本書で普天間飛行場返還合意後の舞台裏をNHK記者出身で上智大教授の宮城大蔵氏と毎日新聞、沖縄タイムスの両記者を務めた渡辺豪氏が明かす。両著者は辺野古に新基地をつくらず普天間問題を解決することが最善の道と訴える。
(集英社新書760円)

橋詰雅博(フリージャーナリスト)

日本はなぜ脱原発できないのか

「原子力村」という利権
小森敦司
日本はなぜ脱原発できないのか マスメディアと<原発ムラ>の闇を抉りだす─その成果が結実
 帯に「この国に巣食う巨大な「ムラ」の正体 産官政学…そしてマスコミ」とある。本書は、その「原子力ムラ」に斬り込んだ労作だ。朝日新聞経済部記者として、画期的連載と評判だった「プロメテウスの罠」の取材にも加わり、原発ムラの暗闇の中をもがきつつ這いずり回った成果が、本書に結実している。
 第1章から「『村』に切り込む」と、血刀で返り討ち覚悟の激闘を見せてくれるが、ここではとくに「2・菅首相と経産省の確執」がスリリングだ。凄まじいほどの勢いでマスメディアを席巻した菅バッシングの裏にあったのは、民主党の菅政権と原発ムラの総本山・経産省や財界との激闘だったということか。
 利権構造や国策としての原発、官僚たちの蠢き、原発のゴミ処理と、原発ムラの構造にメスを入れていくが、私が個人的にもっとも面白かったのは「第6章 買われたメディア」である。マスメディアと原発ムラの腐臭漂う関係を洗い出していけば、著者が所属する朝日新聞という天下のクオリティペーパーに行きつくのは必然だった。
 洗い出せば、多くの企業ジャーナリストたちが電力会社のカネの恩恵に浴していた事実が次々に明らかになる。著者は「正直に言うが、私は元論説主幹を取材しながら情けない思いでいっぱいだった」とまで心情を吐露する。それは朝日新聞元論説主幹・田中豊蔵氏のことだ。原発に関しては「イエス、バット」(容認はするが批判もする)という曖昧な姿勢を取り続けた朝日の幹部たちの行き着く先だった。
 そこへ踏み込んだ著者の勇気には頭が下がる。これは日本の原発問題の欠かせぬ入門書である。
(平凡社新書800円)

鈴木耕(編集者)

ネパール 村人総出でつくった音楽ホール

幸せよぶ秘境の地 サチコール村
横井久美子
ネパール 村人総出でつくった音楽ホール ヒマラヤ山脈を背に村人500人が自前で完成させたサンギートホール
 一気に読み終えて、シンガーソングライターとして知られる、横井久美子さんの別の姿を知る思いがした。
 ヒマラヤを遠望する標高1400メートル、ネパールの山奥にあるサチコール村。電気もガスも水道もなく、4時間も歩かなければ辿りつけない村。
 2011年に筆者が、サチコール村でコンサートを開催し、その後3年かけて音楽ホールを完成させた。その経緯を本書は、ドキュメンタリータッチで、淡々と事実に沿って叙述し、その生活経験を伝えている。
 サチコール村に出会った喜びを、筆者はこう記している。
 「何かする時は、公開で衆議一決し、総出で作業し、平等に分配し、会計報告を公開する村人たち。世界最貧国の一つネパールの山奥に、こんな村人による村人のための村人の政(まつりごと)が行われている村があった」
 筆者がサチコール村と関わってきた時期は、2008年に共和制に踏み切ったネパールが、7年かけて2015年に新憲法を公布。また4月にはマグニチュード7・8の巨大地震に襲われている。
 いま世界は、環境破壊・核拡散、テロや戦闘行為で混沌としている。サチコール村を通して筆者が見つめたものは、人間と人間との関係、人間と自然との関係の原点である。心と心を通わせ音楽や交流を通して、世界から信頼される営みを続ける地域社会があるのだということを、158枚のカラー写真と共に、この本は教えてくれる。
(本の泉社1400円)

櫻井智志(社会思想史研究家)

スノーデン・ショック

デイヴィッド・ライアン 著
 米国家安全保障局(NSA)の契約職員だったスノーデンが、NSAの極秘監視網が世界中のインターネットや電話の情報を収集していると暴露したのは2013年のことだった。特に大手情報・通信企業を巻き込み米市民に対する無差別の大量監視を実施していたことは大きな衝撃を与えた。
 本書は、スノーデンの暴露の意味や「スノーデン後」に明らかになった万人監視の構造と機能を分析、デジタル社会と民主主義の関係を考えさせる好著である。
 この分析を通じて著者は、①政府の監視機関と情報・通信をはじめとする企業が一体となって、市民に関する情報を創り出していること、②市民の側も携帯電話やインターネットの利用を通じて、膨大な個人情報を無意識に提供していること、③監視される市民の側は透明性が増す一方で、監視機関の可視性は少なくなるという逆説的な関係が生まれていることなど、「監視社会」の特徴をのべている。プライバシーや市民的自由、人権などへの重大な脅威なのである。
(岩波書店1900円)

菅原正伯

戦後政治を終わらせる

白井聡 著
 戦前の体制を温存しながら、米国に隷従する戦後日本のあり方を「永続敗戦」構造と名づけた著者が、「戦後」を終わらせる指針を考察する。
 第2次大戦敗戦後、構築された「永続敗戦レジーム」は、冷戦終了後も、政、官、財、学、メディアの「対米従属利益共同体」として肥大化。「共同体」勢力は、対米従属の不可視化に注力、日本権力の傀儡性を「見えない」ようにする。この共同体は新自由主義経済のもと、多国籍資本の走狗として延命を図る。
 歪んだ対米従属の下で、日本の主権は、異様な形で制約を受けている。この「レジーム」を打破し、真に戦後を終わらせるにはどうすべきか。
 著者は、ヒントは沖縄にあると説く。辺野古新基地建設を拒否する沖縄の闘いは、日本全土で現れるべき本質的な政治対立の構図と見る。脱原発や新安保法制反対に結集した市民運動が、参院選の野党共闘を実現させたことに注目し、「自ら隷従された状態から解き放たれれば『永続敗戦レジーム』がもたらす不条理への怒りが爆発的に渦巻く」と展望する。
(NHK出版新書820円)

河野慎二