お薦め本紹介

お薦め本紹介(2016年8月)

お薦め本紹介(2016年8月)
・父の遺言 戦争は人間を「狂気」にする
・青葉学園物語
・戦後レジームと憲法平和主義
・日本会議の全貌
・安倍官邸とテレビ
・父よ、ロング・グッドバイ

臺 弘士 <戦犯の子>として父親の罪と向き合う

臺 弘士(フリージャーナリスト)


父の遺言 戦争は人間を「狂気」にする 今年5月にオバマ米大統領が現職として初めて広島を訪問した。私も現地で多くの市民らとともに、オバマ氏を乗せた車列を見つめたが、56年前の7月に原爆慰霊碑の前に立ち尽くしていたのは、キューバ革命を成し遂げたチェ・ゲバラだった。「過ちは繰返しませぬから」。そう刻まれた碑文に心を揺さぶられたという。この経験によってキューバの教科書には原爆の悲惨さが記述されることになったという。
 革命家・ゲバラが南米ボリビアの山中で軍に処刑されてから来年で50年を迎える。平山亜理『ゲバラの実像』(朝日新聞出版)は、朝日新聞記者(ハバナ支局長)としての著者が、ゲバラを直接、知る人々を南北アメリカの各地に訪ねてインタビューを重ねてまとめた書。よく探し当てたと思う。ゲバラを捕らえた軍人や元CIA工作員。キューバ時代の同僚、弟や娘といった多くの関係者の証言から浮かび上がる人間的な魅力は、いまなお英雄であり続ける理由を教えてくれる。
 伊東秀子『父の遺言 戦争は人間を「狂気」にする』(花伝社)は、著者の父、弁護士の上坪鉄一(故人)が、戦後、シベリアに送られた後、中国の撫順戦犯管理所に移送され、裁かれた。起訴状には憲兵隊長として七三一細菌部隊に22人の中国人を送った、とあった。死刑を覚悟した判決は禁固12年。戦争犯罪を見つめ、深く反省した元軍人たちを、帰国した日本で待ち受けていたのは、公安警察関係者による監視と奇異な目だった。
 「絶対に戦争を起こさないように、日中友好のために、力を尽くしなさい」。
 鉄一は家族宛ての遺言書にもそう綴った。生前、伊東は父親の繰り言に「日本は憲法9条がある」と反論していたそうだが、いまや改憲勢力は3分の2を越え、9条改変も現実味を帯びる世の中になった。「戦犯の子」である伊東が、父親の罪状と向き合った記録であるだけでなく、加害の視点が薄れる日本社会への警告書でもある。

溝江玲子 広島の惨禍に想いを─戦前に逆戻りはダメ

溝江玲子(児童文学作家)


青葉学園物語 もはや新たな戦前がやってきているのではないか。その懸念が日増しに強くなる今、戦争・核の問題を指摘する作品を紹介したい。
 子どもから大人まで読んでほしいのは、吉本直志郎『青葉学園物語』(全10巻・ポプラ社)。広島戦災孤児の養護施設が舞台、戦後の時代性が浮き彫りにされている戦災孤児の貴重な児童文学である。
 寮で暮らす異年齢の集団の中での様々な事件と問題、それを解決するために子ども達は知恵を絞る。子ども達は活き活きとして生意気、非常にしたたかで、読んでいて笑いが止まらない。それでいて、エピソードの中に戦争の爪痕が見え隠れし涙するのである。孤児たちの就職の問題まで描かれている。
 次に肥田舜太郎『広島の消えた日』(影書房)。軍医として広島にいた肥田の壮絶な体験手記である。これは体験したものにしか書けない。
 広島市から6キロ離れた戸坂村で原爆に遭遇。6キロ離れた場所でさえ爆風で小学校の屋根瓦が木の葉のように舞い上がり、農家の屋根が落ち自身も宙に舞う。戸坂村に死体を乗り越え次々と押し寄せてくる人びとは、皮膚が焼けてめくれ、ボロ布の如く垂れ下り、腸や眼球が飛び出て垂れている有様。多数の硝子が突き刺さっている。
 口と鼻、肛門、女性では陰部からの大量出血で血の海となった。高熱、口の中が腐る、紫斑、眼からの出血。毛髪がバッサリ取れ死んでいく。放射能によるものと全く知らされない中での必死の治療。
 そのうち、ピカの後から市内に入った者までが同様の症状で死んでゆく。一体それは何故なのか……大きな謎に肥田は突き当たる。いま原発の放射能の影響が問題になっているが、内部被曝の問題に迫っているのは凄い。
 また、徴兵されての軍隊生活も詳細に描かれており、どのようにして日本国家が兵隊の精神を作り上げていったのか、その恐ろしさが体感できるのも貴重だ。

小中陽太郎 民衆の側から「戦後レジーム」を解く視点

小中陽太郎(日本ペンクラブ)


 沖縄密約情報公開訴訟原告団編『沖縄密約をあばく』(日本評論社)は、弁護団の小町谷育子、前JCJ代表の柴田鉄治、桂敬一、現場記者の原告たちが、訴訟の持つ意義、経過、勝ち得たもの、未達成だったことなどを、西山太吉さんへの人間的な共感をこめて、編集した一冊。
 経過については、澤地久枝が陣頭に立った「市民による沖縄密約調査書」が、真実を市民の手で炙り出している。
 未来への呼びかけは、奥平康弘の控訴審陳述書が、法学者の真髄を発揮する。「日本が密約文書を捨てたなら、アメリカの公開文書を国内で巡回展示せよ」と小気味よい。当時の外相もそのくらいのことをすれば、参院選も勝利したろう。
 飛田雄一『現場を歩く現場を綴る』(かんよう出版)は、六甲にあるキリスト教研修センター・神戸学生青年センターで、朝鮮語や環境の講座を、地道に開いてきた実践内容を記録・報告する。
 祖父は日本キリスト教団の牧師、日帝時代、朝鮮で「宗教教師勤労動員令」を発し、強制連行へ道を開いた。それを知った孫の雄一は、真の「共生」をめざして活動を繰り広げる。
 この活動には韓国民団中央本部編『ヘイト・スピーチを許していけない』(新幹社)が響きあう。
戦後レジームと憲法平和主義 武藤一羊『戦後レジームと憲法平和主義』(れんが書房新社)は、民衆の側からのアジア連帯を基礎に、原水協からベトナム戦争反対までの50年をクロニクル。
 7月初めの刊行記念シンポで紹介された、大井赤亥の図解によると「アメリカ覇権原理」と「大日本帝国継承原理」、それに「平和憲法原理」の対立と相反が根底にあり、参院選で安部晋三総理がトンズラしたテーマ。
 本稿入稿の朝、「天皇陛下 生前退位の意向」伝わる。シンポ会場だった成蹊学園で、長く教鞭をとった中村草田男の名句を借りれば、「帝国の昭和は遠くなりにけり」。

日本会議の全貌 知られざる巨大組織の実態
俵 義文
日本会議の全貌 改憲の安倍政権を支え日本をジャックする「闇の構図」
 本書は、なぜ日本の政治が、今回の参議院選挙で、改憲4党で3分の2議席を占めるような状況になったのか、その主要因を歴史的に解明した、国民待望の書である。それは、安倍首相をトップとする自民党政権を操っている黒幕で、「憲法改正」を最重要課題としている日本最大の右翼組織・日本会議という巨大組織の実態と正体を、初めて明らかにしたからだ。
 1997年の日本会議結成と同時に組織された超党派の「日本会議国会議員懇談会」(日本会議議連)を通じて、日本の政治の中枢が、日本会議に支配されてきた驚愕な実態が明らかにされている。日本会議議連は、結成時は衆参189名であったが、2015年には衆参281名となり、衆参議員717名の約4割を占める巨大組織となって、その中心人物を総裁・総理に押し上げ、その「同志・仲間」を閣僚に入閣させたのが、第1次・第2~第3次安倍政権である。
 日本の政治・社会・教育を動かし支配していく「闇の構図」ができている。その恐ろしさは、本書が明らかにしたように、地方においても、日本会議地方議員連盟と日本会議地方支部の組織と活動が活発化していることである。
 著者が警鐘を鳴らしてきた日本会議による政権ジャック、国会ジャック、さらに中央・地方における日本の政治・社会・教育ジャックの厳しい状況に対し、日本国民の多くが気づき、日本会議の策謀を粉砕することが喫緊の課題になっている。
(花伝社1200円)

笠原十九司(都留文科大学名誉教授)
安倍官邸とテレビ
砂川浩慶
 安倍政権の暴走は、テレビ攻撃の面でも止まらない。著者は「空前絶後」の異常事態と批判し「異常さに慣れるな」と警鐘を鳴らす。
 安倍は2014年、NHK会長に籾井勝人を据え、NHK制圧に着手。NHKニュースは事実上「政府広報ニュース」と化した。
 自民党は「中立・公正」を求める文書をテレビ局に送り付け、選挙報道を萎縮させた。テレビ朝日とNHKの幹部を党本部に呼びつけ、前代未聞の事情聴取を行い「民主主義を掲げる先進国ではありえない蛮行」で、テレビ局を威圧した。
 極めつけは、今年2月、テレビ局に停波を命じる可能性に言及した高市総務相の発言である。特に著者は、高市が地上波テレビ局には適用されない放送法174条を引用して「業務停止命令を出せる」と答弁しているのは違法答弁と非難する。
 著者は、国谷裕子、古館伊知郎、岸井成格3キャスターの降板についても「キャスターはテレビ局と視聴者をつなぐ大動脈で、それが詰まってしまえば、テレビは窒息し、息絶える」と警告する。
(集英社新書720円)

河野慎二
父よ、ロング・グッドバイ
盛田隆二
 普通の生活がじわじわと崩れていく。それも、自らが愛していた家族によって…。
 本書はある年齢に達した人にとっては、読むのが辛いノンフィクションである。著者本人が、まえがきで「家族の事情をここまでさらしていいのか?」との迷いを記しているけれど、これは家族の「生きた証し」としての壮絶な記録だ。
 著者は、主題となった父親の介護とともに、母親の死や妹の病についても克明に記す。難病と闘いながら、死の直前まで看護師としての職を全うした母の死は父の生きる意欲を奪い、それが父の認知症発症の引き金となる。そして同時進行する妹の病状は、家族を引き受けようともがく著者を追いつめていく。
 記録者としての著者の目は、この国の介護制度を正確に見据える。老人保健施設(老健)、ケアマネ―ジャーの存在意義…。
 父の死後、彼が書き残した三百枚にも及ぶ毛筆の「般若心経」の写経を見つける。母の病の回復を祈願して書かれたらしい半紙の束をめくりながら、著者はついに、泣く。切なくも美しい終章である。
(双葉社1400円)

鈴木耕(編集者)