お薦め本紹介

お薦め本紹介(2016年9月)

お薦め本紹介(2016年9月)
・アベノミクス崩壊
・ドキュメント「みなさまのNHK」
・原発プロパガンダ
・幸せのための憲法レッスン
・横須賀、基地の町を歩き続けて
・熱狂する「神の国」アメリカ

アベノミクス崩壊

その原因を問う
牧野富夫編著
アベノミクス崩壊
軍事国家づくりに向けて企てるアベノミクス作戦の危険な狙い
 安倍首相は「この道しかない」と叫び続けて、はや数年。しかし、トリクルダウン論の破綻と格差拡大、八方ふさがりの異次元金融緩和政策など、「3本の矢」は、ぽっきりと折れたままである。
 「一億総活躍社会」など、次々と放つ目くらまし政策も挫折を続ける。すでに海外では「失敗が明確になった経済政策」の評価が定着し、国内メディアでも「幻の経済好循環」、「格差拡大」など、厳しい論調が目立つようになった。
 本書は、アベノミクスの批判的分析を続けてきた、労働運動総合研究所の経済分析研究会のメンバー8人が、執筆した共著である。
 経済学者や労働組合幹部らが、「アベノミクス」と安倍政権の野望、TPP、重大化する働く貧困などのテーマを、多様な分析視点から、「アベノミクスの展開をふりかえり、その破綻・崩壊を検証している。
 アベノミクスは軍事国家づくりの手段と位置づけ、「"手段”の破綻・崩壊が"目的”の実現を難しくしている」とする論点は明確であるが、論点が多岐にわたるだけに、やや網羅的で分析の深堀の物足りなさが感じられる面は否めない。
 しかし、「二度あることは三度あった」と、先の参議院選挙結果でも示されたように、国民への目くらまし作戦の目玉になっている。それだけに、「アベノミクスとはそもそも何か、その危険な狙いは」を、あらためて押さえるのに最適の1冊である。
(新日本出版社1600円)

栩木誠(常磐大学講師)

ドキュメント「みなさまのNHK」

公共放送の原点から
津田正夫
ドキュメント「みなさまのNHK」
NHKでの現場体験を通して放送メディアのありかたを考える
 1966年から30年にわたり、NHK報道番組のディレクター、プロデューサーを務め、その後、教職に転じた著者が、改めてNHKを見つめなおした渾身の大作。
 第一部、第二部は、60年代以降のNHKの変化をたどる。報道の原則を歪める事態となったグリコ森永事件、ロス疑惑報道を入り口に、報道系番組の二つの流れが絡み合いながら変化する様子を、内部の、しかも制作者の視点で解析する点に特色がある。
 著者の直接体験が語られる部分は、ある意味サスペンスだ。日本軍批判の中国語が刻まれた梵鐘の来歴を取材。行き着いた旧軍関係者へのインタビューに停止命令が出た。政治への忖度の実体験だ。北朝鮮での残留孤児の取材、肉親と42年ぶりの対面、歴史に挑んだ著者の思いが躍動する。
 東京勤務に転じ、デスクとして、昭和天皇死去の「Xデー報道」にかかわる。どのように準備され、その日を迎えたのかヴィヴィッドな筆致で描かれている。
 第三部は、メディアの外に身を置き、グローバル、かつローカルな視点から、公共性に挑んだ記録だ。アメリカの市民テレビ、メディア改革など海外の試みも語られ、日本で新たに市民とつながったコミュニティFMも活写される。
 終章では、「コミュニケーション基本法」の策定が提案される。現行の法制度から脱し、言論・表現の自由、コミュニケーションと情報の自由、NHKの公共性を市民の権利として位置づける卓見である。
(現代書館2200円)

隅井孝雄(NPO京都コミュニティー放送副理事長)

原発プロパガンダ

本間 龍
原発プロパガンダ
巨額の広告費が生み出す〈安全神話〉刷り込みの実態
 原発推進の「プロパガンダ」といっても、その実態は隠され、把握しにくいのが実情だ。
 だが、電力9社が1970年代から2011年の震災事故まで、約40年間に投じた原発推進の宣伝費用は最低でも2兆4000億円にのぼるという。電気料金から捻出するこの巨額の宣伝費を武器に、原子力ムラが連携し計画的・組織的に原発広告を出してきた。
 そのさい重要な役割を果たしたのが大手広告代理店の電通と博報堂である。電通は原子力産業界とマスメディアを仲介するだけでなく、さまざまな宣伝表現を開発し、「安全神話」の「刷り込み」(洗脳)を図ったのである。
 本書は、こうした事実を示して原発広告がどのように発展してきたかを、黎明期(60年代~70年代)、発展期(80年代)、完成期(90年代)、爛熟期(2000年代)に分けて克明に跡づける。電力会社の宣伝費の推移、実物広告による宣伝表現の変遷、地方紙・全国紙に出稿された原発広告の段数表など独自の調査・取材による貴重な資料も多い。
 そのなかで、二つだけ強調すると、一つは巨額の広告費をテコにして、メディアに暗黙の圧力をかける事例を洗い出していることだ。六ヶ所村の原発問題を扱って数々の受賞に輝いた番組が、日本原燃らのクレームで社長交代、報道部解体に追い込まれた青森放送のような例もある。
 もう一つは、原発プロパガンダの基本方針となった科学技術庁作成の「原子力PA方策の考え方」を詳細に分析していることだ。震災後、鳴りを潜めていた原発広告が新たな装いで復活しているいま、一読を勧めたい。
(岩波新書820円)

菅原正伯

幸せのための憲法レッスン

教えて中馬さん!
金井美奈子
幸せのための憲法レッスン
母として子どもの未来を案じ憲法を「自分ごと」として捉える
 まず本書は、タイトルも、カバーイラストも、堅苦しいイメージを和らげてくれます。
 憲法をテーマにした本は、この数年で何冊も読む機会があったけれど、それらの本とは違い、本書はあっという間にするりと読めます。
 「憲法って何だと思う?」と、著者が問われるところから始まって、信濃毎日新聞の主筆だった中馬清福さんとの問答形式で進んでいくところ、著者の憲法に関する知識も、その時々に生じる疑問も、読む私たちと同じ目線で、著者がたどった道筋を、なぞるように読み進められるところなどが、難解さに息切れしてしまう他書と違って、魅力なのだと思います。
 そして何より、母として子どもの未来を案じるという著者と、共通の視点が根底にあったから、「自分ごと」として、肌で感じ取れたのだと思います。
 子どもを戦争に巻き込むのは嫌だという思いからスタートし、憲法の成り立ち、過去の戦争、沖縄の基地、教育基本法の改正、原発、憲法の改正……話題は多岐にわたるけれど、すべてつながっているということが、本書を読むと自然に理解できます。「私の暮らしを守る術」として「憲法」を捉えると、無関係でいられる人などいないということも。
 参院選後の国会は、改憲への危険性を、また1歩、私たちに近づけさせました。一人ひとり、現憲法がどんなものか、自民党の改憲草案が、それをどのように変えようとするのか、自分の感覚で読んで確かめるべきだと、強く感じています。
(かもがわ出版1500円)

中竹佳奈(安保関連法に反対するママの会@調布)

横須賀、基地の町を歩き続けて

新倉裕史著
一歩ずつ、無駄な援助を排し経済的自立に向け国への主張は持続せよ
 神奈川県横須賀市と言えば、米海軍第7艦隊の拠点である横須賀基地が有名だ。原子力空母ロナルド・レーガン、イージス艦などが配備されている世界最大の海外母港である。
 この横須賀市で「基地のない町をつくろう」をスローガンに76年2月から月1回、市民団体による月例デモが続いている。40年間でデモ参加者の平均は35人。デモを盛り上げるツールが小さな手押しリアカーだ。デモ行進前にリアカーに鉄製のやぐら組み、その上にスピーカーを設置。参加者の「よろずピースBAND」の歌と演奏がスピーカーから流れ、それをバックに市内を歩く。
 市民運動の発端は、72年に起きた米空母ミッドウエイの横須賀母港に反対する「ヨコスカ市民グループ」の運動。これを引き継ぎ、運動名を「非核市民宣言運動・ヨコスカ」と変え、「糾弾より対話」をモットーに今日まで非暴力のデモが継続されている。
 72年以来、この市民運動に長年取り組んできたのが著者。希望を捨てずしつこくやる―これが彼の力の源泉だ。
(七つ森書館1800円)

橋詰雅博(フリージャーナリスト)

熱狂する「神の国」アメリカ

松本佐保著
 アメリカの大統領選挙をめぐり、これほどまでに激しい宗教票の争奪戦が繰り広げられていたとは驚きだ。
 人口の75%がプロテスタントの国で、なぜ狂信的な「福音派」が増えたのか。少数派のカトリックは、ケネディの大統領就任をピークとし、その後、どのように政治的影響力を保持してきたのか。詳細な分析がなされる。
 キリスト教にとって、最大のテーマは妊娠中絶と同性婚へのスタンスだ。これに大統領候補はどう対応するか、勝負を占う分岐点となる。とりわけカトリック票を取り込むために、カリスマ伝道師を活用し、テレビなどで広く投票誘導を行う。これを見事に成功させたのが1980年のレーガン選挙委員会だ。
 プロテスタントの福音派は、カトリック右派などを糾合し、共和党のブッシュ・ジュニアを支え、「悪の枢軸」と呼ぶイラクへの「聖戦」を支持した。福音派の巨大教会では、カリスマ伝道師が、魅力的な説教で4万超の聴衆を集める。
 著者は、原理主義の台頭に警鐘を鳴らし、ローマ教皇フランシスコと穏健な福音派との相互理解を機に、環境・貧困など社会的な問題に取り組めという。
(文春新書800円)

萩山拓(ライター)