お薦め本紹介

お薦め本紹介(2016年12月)

お薦め本紹介(2016年12月)
・沖縄 憲法の及ばぬ島で
・秋(とき)のしずく
・住友銀行秘史
・パナマ文書とオフショア・タックスヘイブン
・海を渡る「慰安婦」問題
・巨人軍「闇」の深層

沖縄 憲法の及ばぬ島で

記者たちは何をどう伝えたか
川端俊一
沖縄 憲法の及ばぬ島で
葛藤に満ちた沖縄の報道現場 その苦悶と亀裂を自問しつつ辿る
 1972年5月15日──27年間の米国統治が終わり、沖縄は日本に復帰した。その日、沖縄地元紙の若手記者たちは仕事を拒否した。沖縄返還の「欺瞞性」に抗議し、ストライキに入ったのである。
 「新聞は白紙でもいい」と叫ぶ記者がいた。そこに一定の理解を示しながらも、しかし伝えることを放棄してはならないと考えるベテラン記者もいた。沖縄の記者は悩み、苦しみ、そして自らが定める、それぞれの立ち位置に従った。
 戦争放棄をうたった日本国憲法を獲得しても、沖縄には基地が残り、そして戦争に加担していく。これが「欺瞞」でなくて何だというのだ。
 本書が映し出すのは、このような葛藤に満ち満ちた沖縄の”報道現場”である。
 苦悶を積み重ねていたのは地元紙の記者だけではない。「本土」から派遣された記者たちも、また、沖縄の現実に触れながら、自分たちの「甘さ」を思い知っていく。
 取材先の基地従業員が口にした「もういやだ。『血まみれのドル』では食べたくない」という言葉に衝撃を受け、「復帰して何が変わるのか」と問い詰められて言葉をなくす。「沖縄発」の記事の背景には、揺れ続ける本土記者の姿があった。
 著者の川崎俊一さんも「朝日」記者として長きにわたり沖縄報道に関わってきた。伝えるべきことを伝えてきたのかと自身に問いながら、同時に、先輩記者たちを訪ね歩き、歴史の歯車に絡めとられた記憶の糸を、ていねいに手繰り寄せていく。読み手の目の前に広がるのは、「本土」と沖縄の間に横たわる深くて暗い”亀裂の風景”である。
(高文研1600円)

安田浩一(ジャーナリスト)

秋(とき)のしずく

敗戦70年といま
高知新聞取材班
秋のしず
30歳前後の記者たちが丹念な取材で語り継ぐ戦争体験や事実を掘り起こす
 小学生のころ、学校で水の入った洗面器に顔を付け、どれだけ長く息を止められるかを競う遊びに興じたが、本書の「視覚障害者の動員」を読んで胸が痛くなった。
 戦時下、高知市の県立盲唖学校の防空壕訓練で溝渕健一さんは、洗面器で息止めを強いられた。米英の「毒ガス攻撃は最初が勝負」との男性教員の教えを、80歳を前に忘れない。「息を数十秒間止めていると、空気中に拡散し、薄まる、と」
 さらに米軍爆撃機B29の双発エンジン音を聞き分ける訓練や、石川県では盲人防空監視哨員の任務があった。中にはマッサージ師として航空母艦で南方従軍に駆り出された弱視者もいた。戦後70年がたち、証言者が限られる中、丹念な取材で事実を掘り起こしていく。
 高知新聞は2014年から2年間、県民が体験した戦争の記録を連載。本書は「シベリア抑留」「BC級戦犯」など全16話や特集を収録した。
 「風船爆弾の日々」では「戦力並に軍需輸送力の増強に協力すべき秋(とき)」と1944年に戦争協力を呼びかけ、自らも「夕刊廃止を決めたのは、3月」と記す。
 その危急存亡の秋に至らしめたのは―。取材班の30歳前後の記者たちは「大本営の機関紙」と化した反省から、戦争体験を受け・語り継ぐ際に向き合うべき日本軍の加害や銃後の協力、熱狂を支えたものにも挑んだ。
 巻頭の高知大空襲による廃虚の街のパノラマ写真は平和への原点だ。連載は新聞労連ジャーナリズム大賞優秀賞に選ばれた。
(高知新聞社1350円)

野呂法夫(東京新聞)

住友銀行秘史

國重惇史
住友銀行秘史
「MOF坦」エリート行員が決意した内部告発への「たった一人の反乱」
 会社がおかしな方向に向かっている、と気付いた時あなたはどうする?
 分かってもらえそうな仲間に話す。それとなく事情をさぐる。
 その程度のことで流れは変わらない。下手に動けば上司に睨まれる。
 本書は著者・国重惇史氏による、たった一人の戦いの記録だ。
 闇の勢力が介在した経済犯罪「イトマン事件」を通して銀行の病が描かれている。支店の窓口でにこやかに対応する女子行員、預金や融資の勧誘に訪れる外回り。それが我々の知る銀行だが、本店の役員階で、お偉方がなにをしているかは知られていない。「秘史」は実名で銀行上層部の面々の動きを書き留めた。
 昇進・出世を巡る権謀術数。どう振る舞えば会長や頭取の覚えがめでたいか、それが行動原理だ。「改革派」はごく少数だがいるものの、大勢を変えることは出来ない。
 著者は内部告発に活路を求める。大蔵省・日銀に「レター」を書きつづけ、親しい新聞記者を使い頭取・会長を追い込んでいった。やがて大蔵省の調査が入り、最後は東京地検が動いた。
 「MOF坦」と呼ばれる大蔵省担当を務めたエリート行員の奮闘。誰もが出来ることではないが「たった一人の反乱」が成功したのは、メディアを通じて「銀行の隠し事」を公にしたことだ。
 監督官庁に知らせただけでは、握りつぶされる恐れがある。だが世間が知れば、筋の通らぬことを放置してきた役所が問われる。内部告発は連動するメディアがあってこそ、有効に機能することをこの本は語っている。
 「秘史」は、世間に伝わることで、教訓が社会の共有財産となる。
(講談社1800円)

山田厚史(デモクラTV代表)

パナマ文書とオフショア・タックスヘイブン

改革は可能か
合田 寛
パナマ文書とオフショア・タックスヘイブン
大企業・富裕層の税逃れが国民に増税を強いる
 世界を震撼させた「パナマ文書」は、まさに「本国のいろいろな規制から逃れられる場所」としてのオフショア、「タックスヘイブン(租税回避地)という秘密の世界の一端」を暴いた点に大きな意義ある。
 その事実とは、「担保力を有し、それにふさわしい税を負担すべき巨大企業や富裕者が、これを利用して巨額の税を逃れている」ということである。
 「賢い節税」の名目で、巨大企業や富裕層が税逃れをすれば、各国の財政を支える税収に穴が開く。その結果、社会保障など「健康で豊かな」国民生活を支える公共支出が削減される一方で、国民に一層の税負担を強いることになる。まさに、日本で現実化する深刻な現象である。
 英国と共にオフショア・タックスヘイブンの事実上の拠点ともいわれる米国でも、オバマ大統領が「租税逃れは世界的大問題。合法とはいえ、それ自体が問題だ」と厳しく指摘している。
 しかし、パナマ文書でも、日本の企業や富裕層が登場するのに、安倍政権は「文書の詳細は承知していない。軽はずみなコメントは差し控えたい」と思考停止だ。
 今回の米大統領選挙で多くの予想に反してトランプ候補が勝利した背景には、タックス・ヘイブン問題を深化させたグローバリズムと新自由主義の行き詰まりがある。それを映すように今、市民の批判行動が世界的に起きている。この問題を地道に追及、分析してきた著者による本書は、問題の基本を理解する貴重な1冊である。
(日本機関紙出版センター800円)

栩木誠(常磐大学講師)

海を渡る「慰安婦」問題

山口智美、能川元一、テッサ・モーリス―スズキ、小山エミ著
 日本では慰安婦問題で勝ったととらえる右派勢力は、〝主戦場〟を米国に移し、NPO法人「家族の絆を守る会FAVS」(岡本明子事務局長)を中心に慰安婦否定に躍起。
 米ニュージャージー州パセイズパーク市の慰安婦碑と、カリフォルニア州グレンデール市の慰安婦を象徴する少女像の設置が米進出のきっかけ。碑や像の建設により米在住日本人の被害は大きいと強調して反対運動を展開するのが常とう手段。
 代表的なのは「いじめ」被害のアピールだ。いじめにあう我が子を守るため母親が立ち上がるという形をつくり、「母子のガード」を強調する。加えて日本の外務省もこれを後押し。在米の大使館や領事館のウェブサイトに「いわゆる歴史問題を背景とした、いやがらせ、暴言等の被害に遭われた方、被害情報をお持ちの方はご連絡・ご相談ください」と2014年2月頃から掲示している。
 本書は慰安婦問題を打ち消そうとする官民の実態を4人の執筆者が報告する。
(岩波書店1700円)

橋詰雅博(フリージャーナリスト)

巨人軍「闇」の深層

西崎伸彦
 著者は週刊文春記者。野球賭博事件で改めて体質が問われている球界の盟主・巨人軍の裏面史が語られているが、この本の妙味は、読売グループの不祥事の火消し役に徹する「コンプライアンス軍団」への着目にある。
 渡邉恒雄氏は、かつて江川入団をめぐる「空白の一日」事件の処理にかかわったとされる。著者は「野球協約を隅々まで研究し、法律解釈を駆使して臨んだ『江川事件のDNA』は、巨人軍の組織運営に脈々と引き継がれていった」と分析。その上で、「コンプラ軍団は渡邉以上に野球協約や法律の解釈にいそしみ、時には詭弁的な解釈を振りかざし、組織防衛に務めてきた」と指摘する。
 現在の山口寿一社長は法務部長時代、巨人の私設応援団からの暴力団排除で辣腕をふるった、法務部=コンプラ軍団台頭の象徴的存在だという。
 本書によれば、法務部には社会部の敏腕記者が次々と送り込まれているという。権力の不正を暴く側にいた記者を、事もなげに組織防衛の最前線に立たせるところに、読売新聞の「闇」の深さも感じてしまう。
(文春新書780円)

森口信人(ジャーナリスト)