お薦め本紹介

お薦め本紹介(2017年2月)

お薦め本紹介(2017年2月)
・憲法くん
・権力に迫る「調査報道」
・新 明日の農協
・放送法と権力
・言うべきときに 言うべきことを
・沈黙法廷

憲法くん

松元ヒロ著 武田美穂絵
憲法くん
もう…変えてもいいよ、といえるほど、わたしのことを使ってくれたんですか
 20年前、「憲法フェスティバル97」で、コント集団「ザ・ニュースペーパー」が<日本国憲法施行50年の「夜」>を公演した。この企画にシナリオや監修という形で関わった。「明日の新聞をよむ」というコンセプトで、法案段階だった通信傍受法や「代用監獄」の法制化などもネタにした。その最後の第11場が、本書の著者・松元ヒロさんの一人芝居で、そこに登場したのが「憲法くん」だった。
 このキャラは、本番の数日前に、焼きとり屋で、ヒロさんとの語りのなかで生まれた。この時、「憲法くん」は50歳だったが、いまは古稀を迎える。働き盛りとはいえない。
 本書では、こうなっている。「・・・みなさんにがんばれといわれれば、まだまだがんばります。だって、まだ70歳です。・・・でも、わたしをどうするかは、みなさんが決めることです。私は、みなさんのわたし、なんですから。わたしを、みなさんに、託しましたよ」。20年前の公演では「おまかせしましたよ」だったが、本書では「託しましたよ」に変わっている。憲法97条の「・・・基本的人権は・・・信託されたものである」を受けたものだろう。
 「憲法くん」はいう。「もういいよ、変えてもいいよ、というくらいまで、わたしのことを使ってくれたんでしょうか」と。「とにかく憲法改正」という首相が暴走している。米国にトランプ政権が誕生した。憲法にとって、今年こそ正念場である。この四月に小学校に入る孫と一緒に読むことにしたい。
(講談社1400円)

水島朝穂(早稲田大学法学学術院教授・憲法)

権力に迫る「調査報道」

原発事故、パナマ文書、日米安保をどう報じたか
高田昌幸+大西祐資+松島佳子 編著
権力に迫る「調査報道」
権力の監視を目指す記者が抱いた「小さな疑問」から真実に迫る
 メディア関係者の間で近年、調査報道への関心が高まっている。本書は権力の監視を担う記者たちが日常の取材で感じる「ふとした疑問」を出発点に、隠された事実に迫る彼らの地道な作業を紹介しながら、報道とは何かを問いかけている。
 本書は日本人記者ら8人のインタビューを中心に構成。自衛隊に絡む機密や福島原発事故の「真相と深層」、集団的自衛権行使の舞台裏に迫る報道などを取り上げている。
 例えば、イラク復興支援の名目で航空自衛隊が愛知県の小牧基地から米兵を空輸していたことを報じた2007年7月の中日新聞のスクープは、人道支援活動にしては空輸の本数が多過ぎ、「何か変だ」という記者の素朴な疑問から取材が始まった。
 また、集団的自衛権行使に関わる憲法解釈変更の経緯を、公文書に残していなかった事態をスクープした毎日新聞の2015年9月の記事は、法制局内部の議論に注目し、情報公開制度を駆使して実現した。
 本書はさらに、「パナマ文書」を読み解く国際的な記者の連携という調査報道の新しい形に挑むイタリア人ジャーナリストらにも取材している。
 8人に共通しているのは、他の記者がつい忘れがちな「小さな疑問」への徹底的な執着である。
 ジョージ・オーウェルは有名な小説「1984年」で「(権力が)報道されたくないことを報道するのがジャーナリズム。それ以外は単なる広報」との名言を残している。権力の監視を目指す本書にこそ贈りたい言葉である。
(旬報社1800円)

上出義樹(上智大学メディア・ジャーナリズム研究所スタッフ)

新 明日の農協

歴史と現場から
太田原高昭
新 明日の農協
「農協つぶし」─日米財界が狙うマーケット支配
 アベノミクスの「農協改革」は、場当たり的農政が行き詰まった原因を、全て農業協同組合(JA)に押しつけ、その機能を大幅に喪失させようというシロモノ。
 JA全中の一般社団法人化をはじめ農業委員会の形骸化、さらには全国農業協同組合連合会(全農)の株式会社化の目論見など、戦後の日本農業と国民の食生活を支えてきた基盤を、根底から崩す動きが続く。安倍政権の根底にあるのは、農協のみならず生活協同組合(生協)など協同組合に対する極度の敵視である。
 本書は、この一連の政策を「農協解体の焼け跡から巨大な金融資産と魅力的なマーケットを拾い上げようとする財界の野望との合作が安倍政権の農協改革なのである」と喝破する。
 一方で、場当たり農政の補完役も担わされてきた「制度としての農協」の生成・発展・終焉の動きを丹念に分析し、農協の歩みこそ日本農業、食の歴史を投影したものだと指摘する。
 農協と農業の危機に警鐘を鳴らしつつ、宮沢賢治が岩手の子供らに送ったメッセージの一文「むしろ諸君よ更にあらたな正しい時代をつくれ」を引用しながら、農業生産者の自立の胎動への期待を込める。
 「農協陣営は政府の農協改革に強く抵抗しつつ主体的な自己改革を対置し奮闘している。しばらくはそのせめぎあいが続くであろう」。その"せめぎあい“の帰趨に影響を与えるのは、「食の安心・安全」を担保されるべき私たち消費者だ。
(農文協2500円)

栩木誠(常磐大学講師)

放送法と権力

山田健太
放送法と権力
放送法の弱点につけ込む安倍政権
露骨な動きを実証的に解明する
 この3年、安倍政権の放送への介入干渉は著しいものがあった。そしてこれまで知られなかった「放送法」という法律が、報道の自由あるいは不自由と関連付けられて脚光を浴びるに至った。
 本書は、もともと放送の自由を保障する法律である「放送法」が、報道を規制する手段として活用され、ついには「公正な報道違反の場合は政府が免許停止を行うことができる」─その根拠となった経過を克明に追う。
 放送法が持つ欠陥、それを利用した安倍政権の動きを実証的に解明している点に特徴がある。顕著な動きは2014年11~12月の衆議院選挙の際、政権与党自民党が、在京キー局に対し「公正中立」を要望したことであった。
 そこでは出演者の選定、街頭インタビューなどが俎上に上った。さらに選挙後、自民党はNHKとテレビ朝日を喚問し、番組について事情聴取した。さらに総務省の行政指導が続き、高市総務大臣の「政治的公平を欠く場合、免許停止もありうる」という発言につながった。
 著者は、かつて存在した電波監理委員会法による免許権限条項が、1952年当初は郵政省(のち総務省)の管轄であったが、そっくり政府に移されたことが巧みに利用されたとみる。さらに2010年の改正放送法で、有線ラジオ・テレビ、パソコンテレビなども組み込まれ、政府の放送規制が、ネットコンテンツ全体に及ぶと危惧する。
 言論および情報の自由総体に関心をもつ著者は、秘密保護法やデジタル時代のメディア、にも各一章を割き、終章ではヘイトスピーチや大規模災害と市民力とのかかわりを論じている。ジャーナリスト必読のスケールの大きな論考だ。
(田畑書店 2300円)

隅井孝雄(NPO京都コミニュティ放送副理事長)

言うべきときに 言うべきことを

平和アピール七人委著
言うべきときに 言うべきことを
 JCJ創立と同じ1955年、ノーベル賞受賞者の湯川秀樹京大教授、日本婦人団体連合会の平塚らいてう会長、世界連邦建設同盟理事長の下中弥三郎平凡社社長らによって誕生した「世界平和アピール七人委員会」が、2004年から昨年11月まで、世界に向けて発信したアピールをまとめた「言うべきときに 言うべきことを―私たちのアピール」を発刊した。
 七人委員会は、発足以来メンバーは入れ替わったが、平和と人権、民主主義と、日本国憲法擁護、核兵器廃絶などについておりに触れてアピールを発表。昨年11月2日に発表した「南スーダン派遣自衛隊は停戦成立まで活動の停止を」まで、合計122本に及んだ。
 同書には一時期の活動休止後、活動が再開された2004年からのアピール40本を収録。内外の問題について日本人としての自覚的立場でどう考え、どうあるべきか訴えている。
 購入は、事務局の日向和子さん(〒230―0001 横浜市鶴見区矢向4―21―5)あて、切手700円分を同封して申し込む。

丸山重威

沈黙法廷

佐々木譲著
 著者名だけで即買いする作家が何人かいるけれど、私にとって、佐々木譲はその筆頭である。どれを読んでも、ハズレがない。本書もページを繰る手が止まらなかった。
 殺人事件が起きる。容疑者とされたのは、個人営業の家事代行の女性。捜査陣はこの女性にターゲットを絞り、じわじわと追い詰めていく。思い込み捜査が犯人を作るという過程が、極めて精緻に描かれる。普通の人間が、ある日突然、犯罪容疑者としての非日常へ投げ込まれる恐怖。それが決して他人事ではないと思わせられるのだ。
 事件は法廷へ。読み進むにつれタイトルの「沈黙」が重くのしかかる。なぜ被告は沈黙するのか。
 これは、警察小説としての捜査過程と、真相が露わになる法廷小説の両方を満喫できる稀有なミステリだ。そしてもうひとつ大切なのは、社会問題が重要なファクターとして底流にあるということ。「貧困」である。著者の警察小説のひとつの特徴は、社会の動きが常に動機に絡んでくることだ。本書もまた、それが物語に厚みを加えている。
(新潮社2100円)

鈴木耕(編集者)