お薦め本紹介

お薦め本紹介(2017年3月)

お薦め本紹介(2017年3月)
・共謀罪なんていらない!?
・電通事件
・築地移転の闇をひらく
・どアホノミクスの正体
・失われたもの

共謀罪なんていらない!?

これってホントに「テロ対策」?
山下幸夫編
共謀罪なんていらない!? 安倍政権の嘘と偽りの手口を暴露
現代版<治安維持法>そのもの

 「一般の人が対象になることはない」「法案を整備しなければ東京オリンピックをできないと言っても過言ではない」というのは安倍首相、「法案が提出されてから議論してほしい」というのは金田勝年法相。ともにテロ対策を名目に共謀罪を入れようという「組織犯罪処罰法改正案」についての国会答弁だ。
 共謀罪は過去に3回廃案になった。それを政府は今度、「五輪」と「テロ」を口実に、名前を変えて出すというのだ。
 この本では、ジャーナリストの斎藤貴男、前衆院議員の保坂展人・世田谷区長、刑法学者の足立昌勝・関東学院大名誉教授、日弁連の海渡雄一・元事務総長、山下幸夫・共謀罪法案対策本部事務局長の5人が様々な角度から批判している。
 斎藤氏はこの法案が特定秘密保護法や戦争法や盗聴を拡大した刑事法の改正などと関連して「戦争できる国造り」に向かう安倍内閣の思想から出ていることを指摘。足立教授は、刑法は何らかの罪を犯したものを罰するもので、心の中で何を考えていても罰することはできないのが「近代刑法の基本」だと強調した。
 保坂氏は自らの国会審議を引いて「目くばせも意思の伝達」との政府答弁や「平成の治安維持法を作った総理と言われたくない」と強行採決を見送った小泉元総理のエピソードも紹介した。
 また、「五輪」を使った宣伝もウソで、条約批准にも必要がないことを海渡弁護士が解説。山下弁護士も「現代の治安維持法の危険」を書く。
 共謀罪は、勿論いらないし、どんな名前でも心を縛る法案を作らせてはならない。共謀罪の狙いと法案の理解に、言論人はもちろん、広く国民みんなに読んでほしい。
(合同出版1400円)

丸山重威(元関東学院大学教授)

電通事件

なぜ死ぬまで働かなければならないのか
北 健一
電通事件 残業を隠す「私事在館」が招いた悲劇の真相
 2000年の最高裁「電通事件」判決は、過労自死に対する使用者の損害賠償責任を初めて認めた画期的な判決である。
 その電通で、入社間もない若手社員の過労自死が再び起きた。本書によれば自死に至った高橋まつりさんは、この25年前の過労自死に関する記事を母親に示し、「こうなりそう」と打ち明けたという。
 なぜ同じ悲劇が繰り返されるのか。その問いに対し、電通が抱える問題に焦点を当てながらも、広く日本の企業社会が抱える問題へと読者をいざなうのが、本書である。
 労災認定後に明らかになったのは、表向きの法令順守のために残業時間の過少申告が現場で強いられていた実態である。三六協定の上限時間を超える残業をなくすために、超過時間は表向きには「私事在館」と位置付けられた。
 法人としての電通と幹部が書類送検された12月28日に電通が開いた記者会見の様子も本書には収録されている。三六協定の上限時間を超えた者を「協定を違反して仕事した人」と表現し、労基署が業務と認定した時間についても「私事在館」の表現を使い続けた様子が記録されることは、重要だ。
 本書にも記されているように、今国会では三六協定の上限労働時間法定が議論される一方で、労基法の労働時間規制の適用対象外である高度プロフェッショナル制度の新設と、残業代負担の打ち止めを可能とする裁量労働制の拡大を狙う労基法改正案の成立が狙われている。法案が成立すれば、形だけの法令順守へと各企業が流れることが危惧される。
 「働き方改革」の内実に目を向けよと、本書は警告する。
(旬報社1000円)

上西充子(法政大学教授)

築地移転の闇をひらく

中澤誠・水谷和子・宇都宮健児著
築地移転の闇をひらく 「のり弁」黒塗り書類を読み解き、ズサンな豊洲計画の闇と利権に迫る  移転予定ギリギリで、問題が大きくクローズアップされた豊洲市場移転問題。それ以前から10年以上の長きにわたって粘り強く問題提起に取り組んだのが、著者の中澤誠さん、水谷和子さん、宇都宮健児さんらである。
 本書はこれまでの経緯を、原因から問題の推移まで、特に中澤・水谷の二人が対談形式で語り尽くし、現在、巷で語られている豊洲市場問題における、正確でかつ根本的情報が開陳されている。
 この問題の本質は、公共事業における公の概念を、真っ向から否定したことにある。卸売市場における公益性とは、生鮮食品の安定供給と適切な価格形成にある。そのために市場には非常に数多くの職種の関係者が、複雑な関係性を保ちつつ従事している。
 ところが、計画を急ぐあまりに用地取得を強引に進め、施設設計の内容について、市場関係者の合意を得ることなく設計や施工が開始された。その杜撰なプロセスにより、公共施設として必須な検討事項や機能性、安全性が、疎かにされてきた。
 もし予定通り移転していたなら、即日、市場機能は混乱を来たし、その後は永遠に機能回復しない可能性もあったのだ。
 いわゆる「のり弁」と揶揄される黒塗りの行政開示書類を読み解きながら、欠けたジグソーパズルのピースを組み合わせ、最終的にその実態を詳らかにしていく経緯が、まるで遺跡発掘や事件捜査のようなノンフィクションドラマみたいに小気味よく、時にユーモアも交えながら展開していくのも本書の魅力である。
(大月書店1200円)

森山高至(建築エコノミスト)

どアホノミクスの正体

佐高信+浜矩子著
どアホノミクスの正体 放送法の弱点につけ込む安倍政権
 売り出しから賞味期限切れなのに、次々アドバルーンを揚げ、国民に「やってる感」の幻想を与え続けるアベノミクス。その欺瞞性と危険性を希代の辛口論客2人が、一刀両断。過去の日銀の金融政策などとも比較しながら、「大メディアの報道では絶対にわからない どアホノミクスの正体」を分析し、徹底批判する。
 自由な対談だけに、取り上げられた問題は多岐にわたる。個々について十分には掘り下げられてはいない。しかし、その視点は明確で指摘も具体的で歯切れ良い。
 「怒れないのは知性の荒廃」など、読む側の覚醒を促す言葉が散りばめられている。とりわけ「単なる記録装置になった記者」など、ジャーナリストに向けられた批判は鋭く重い。「アメリカの大統領がトランプになって、この本は、一層、その重要性を増した」。浜は本書の冒頭でこう強調した。安倍政権の“朝貢外交”ぶりが際立った2月の日米首脳会談を見ると、その言葉が一段と現実性を帯びてくる。現下の重要問題を俯瞰し、頭を整理するのに好適な1冊。
(講談社+α新書840円)

栩木誠(常磐大学講師)

失われたもの

斉藤貴男
失われたもの 幼少期の原風景や成長譚を綴りつつ
移り行く社会の変化を読み解く

 風はどこから吹いてくるか/風は過去のほうから吹いてくる…。そう詠った詩人がいたが、本書を開くと、確かに過去からの風を感じる。温かく少し甘酸っぱい感傷をはらみ、そして未来への希望の芽を内包した風。
 もはや少数派になってしまった「抗うジャーナリスト」の最先端に位置する著者が、珍しく自らの幼少期からの成長譚を綴ったのが本書だ。
 1967年、やや体の弱い小学3年生の著者は、千葉の内房海岸にあった「東京都豊島区立竹岡擁護学園」という全寮制の小学校に“放り込まれた”。池袋という大都会で育った子どもには、頭が真っ白になる体験だった。
 しかし、そこがやがて「楽園」になる。竹岡学園には4カ月だったというが、そこがどうも著者の原風景であるようだ。
 やがて中学・高校・大学と進み成長していくが、その背景には、いつも池袋という戦後の「自営業者共同体の街」があった。 著者の父はシベリア抑留生活を11年間も強いられた過酷な体験を持ち、帰国後は鉄屑を商う小さな店を営んだ。近所には同じような小規模商店や町工場が軒を連ねていたという。まさに、戦後の復興期。そこから少年がいかにジャーナリストへの道を切り拓いたか。
 好きだった漫画の思い出、ことに最終章のちばてつや氏との話がいい。また、創価学会員だった母とそれを嫌った父の存在。生い立ちを語りながら、現在の政治や社会状況を読み解いていく。その意味で、本書は少年の成長物語に託した移り行く社会の緻密な分析書でもある。
(みすず書房2700円)

鈴木耕(編集者)