お薦め本紹介

お薦め本紹介(2017年4月)

お薦め本紹介(2017年4月)
・スノーデン、監視社会の恐怖を語る
・「日米合同委員会」の研究
・沖縄 抗う高江の森
・原発に抗う
・対話する社会へ

スノーデン、監視社会の恐怖を語る

独占インタビュー全記録
小笠原みどり
スノーデン、監視社会の恐怖を語る
「日本で成立した秘密保護法は、実はアメリカがデザインした」
 ジュリアン・アサンジによるアメリカの戦争をめぐる秘密情報の暴露(ウィキリークス・2010年)に続き、かつてCIAの職員だった、エドワード・スノーデンによる米NSA(国家安全保障局)の世界同時監視の実態暴露(2013年)も、国際的に大きな衝撃を与えた。
 本書は、そのスノーデンとのインタビューの記録である。なぜそうしたインタビューを思いつき、実現することになったかを著者が述懐する序章が、まず興味深い。
 朝日の若手女性記者だった著者は、自衛隊出動体制整備のための「新ガイドライン関連法案」・「周辺事態法案」などと共に、盗聴法や住民基本台帳ネット=国民総背番号制の仕上げを急ぐ政府の動きや、至るところに監視カメラが増える社会の変化を追い、国民全部が権力にすっかりプライバシーを奪われていくことに危惧を深めてきた。
 ところが、そうした感度が鈍磨した社内の出来事に遭遇、失望するに至って退社を決意、カナダの大学に留学、監視社会の研究に本格的に取りかかったのだ。本題とは逸れるが、メディア内の危機感の衰えという問題も、実は今、たいへん重たい意味を持つ、と思えるのだ。
 著者は、スノーデンが横田基地にもいたことを知り、当時の工作活動の内容にも興味を持ち、モスクワに亡命中の彼を大学のビデオ会議室のスクリーンに呼び出し、約二時間半に及ぶインタビューを実現した。
 その内容は、現代の監視社会の危うさを証す重要な情報を多く含んでおり、実に参考になる。「日本で近年成立した秘密保護法は、実はアメリカのデザイン」という証言には、愕然としながらも、否応なく納得させられてしまった。
(毎日新聞出版1400円)

桂敬一(元東京大学新聞研究所教授)

「日米合同委員会」の研究

謎の権力構造の正体に迫る
吉田敏浩
「日米合同委員会」の研究
傍若無人にふるまう米軍 その秘密のベールを剥ぎとる
 米軍はこの日本で憲法や法令を無視して自由に振る舞っている。それは、米軍への憲法の適用を拒否する最高裁とともに、日米合同委員会での密室協議に支えられている。それほど重大な役割を果たしている日米合同委員会だが、これについて書かれた本は出てこなかった。それには理由がある。
 米占領下に作られたこの機関は、米軍司令部が実質的に支配しており、完全な秘密のベールに覆われている。そのベールをはぎ取ったのが本書。
 たとえば冒頭に一九七二年の沖縄市役所の文書が出てくる。これにより著者は、米側委員が日本大使館参事官を除き、すべて軍人であることを突きとめた。米軍人が日本政府を動かす機関なのだ。政府公表の分科委員会・部会一覧には米側委員は書かれていない。
 本書を読むと、情報公開法による資料請求権も駆使し、厳重に閉ざされた秘密の扉をこじ開ける著者の執念が伝わってくる。著者は犯罪米兵を免罪する刑事裁判権、航空管制による空の支配、基地管理権など具体的事実で、それを明らかにする。
 著者はこれまで米軍の秘密を明らかにする多くの著書を書いてきた。合同委員会にメスを入れることができるのは、そうした蓄積があるからだ。
 日米合同委員会の重要な事実は、米国の解禁文書にもほとんど出てこない。なぜなのか。国立公文書館でアーキビストに尋ねたら、最近は軍事関係の重要な文書はこないという。それだけに日米合同委員会を通じての米軍支配の仕掛けを明らかにした本書の価値は高い。
(創元社1500円)

末浪靖司(ジャーナリスト)

沖縄 抗う高江の森

なぜ世界の宝を壊すのだ!
山城博明写真
伊波義安解説
沖縄 抗う高江の森
60年余も虐げられてきた沖縄の人びとの抵抗の記録
 やんばる…。沖縄本島北部全域を亜熱帯の照葉樹林が覆う。イタジイの下には巨大シダ(ヘゴ)が林立する。高江のヘリパッド周辺では絶滅危惧種・貴重種に指定される植物、1313種が確認されている。動物ではノグチゲラや飛べないヤンバルクイナなど、5種の絶滅危惧種が細々と生きる。
 70年代から沖縄を記録してきた写真家・山城博明は、もともとは読売新聞の写真部員であった。後に琉球新報に転じ、2015年以降はフリーとなった。本書は、60年余の写真報道をまとめた抵抗の記録である。
 彼は、辺野古の人々、壊されるやんばる、米軍・北部演習場という三つの角度から沖縄を見据える。ヤンバルは南ベトナムの森に似ている。当時米軍はそこをベトナムでの訓練の場とした。森に「ベトコン」村が作られ、村民として高江の住民が駆り出された歴史もある。
 北部訓練場が部分返還される代わりに、6つのヘリパッドが高江に作られる。既設とあわせれば28ヵ所。そこをオスプレイが飛び回る。昨年暮れ、米海兵隊中将が「不時着だ、沖縄は感謝せよ」との傲慢な発言をした墜落機も山城はいち早く撮っている。
 本書の記録は、虐げられた沖縄の歴史を反映する。機動隊に抗う非暴力の人々の表情も印象的である。年初に東京MXTVが沖縄の運動を「金で雇われている」とデマ放送したのは許しがたい事件であった。虚報はジャーナリズムではない。
 今年末からはオスプレイが本土上空のコースを飛ぶ。沖縄はまさに日本全体の問題なのである。
(高文研1600円)

中村梧郎(フォトジャーナリスト)

原発に抗う

「プロメテウスの罠」で問うたこと
本田雅和
原発に抗う
読むのが苦しいほどの<哀しみと怒り>
 私は時間と体調さえ許せば、毎週金曜日の夕方、首相官邸~国会議事堂前の反原発デモに参加する。そのデモの場で何度か不思議なものを見た。鉄骨で造られた牛の像だ。その異様な像を乗せたトラックから「被曝した牛を飼い続ける哀しみと怒り」を語る野太い声が響いていた。それが本書の主人公のひとり「希望の農場」の吉沢正巳さんだった。
 本書は、評価の高かった朝日新聞の連載「プロメテウスの罠」の中から、原発事故に翻弄されながらも、意志を捨てずに“抗い続ける人たち”を取りあげたルポルタージュ。凡百の小説を超える迫力と哀切に満ちている。
 中でも胸に突き刺さるのは、被爆牛の命を守ることで国家に異議申し立てをし続ける吉沢さんの姿だ。立ち向かおうとすれば過激といわれる。だが、真の過激こそが人を動かす。この生き方は凄いとしか言いようがない。
 小学生の時に「原子力 明るい未来のエネルギー」の標語を作った大沼勇治さん。事故後、この標語が書かれた双葉町の看板が、撤去されることに怒り、「原発事故の痛みを伝え続けるために残すべき」と主張し続ける。その標語の陰で展開された双葉町の原発を巡る政治の変遷。反対派のリーダーが容認派の町長になる葛藤。
 また自死した妻への謝罪を求め続けた渡辺幹夫さんの東電と国との闘い。花好きで陽気な妻のはま子さんは、なぜ追い詰められたのか。読むのが苦しい。それは他の人たちにも共通する。原発とは人間を破壊するシステムだという著者の呻きが響く。
(緑風出版2000円)

鈴木耕(編集者)

対話する社会へ

暉峻淑子
対話する社会へ
自分の体験・思考・感情に基づく言葉が豊かな人間社会を築く原動力
 本書は、「対話」という行為が人間および人間社会にとって本源的なものであり、この本源的行為を失いつつある現在、人間が、社会がいかに危険な状況に陥っているかを具体例で示し、その再生を「対話する社会へ」という形で提起する。
 1 思い出の中の対話、2 対話に飢えた人々―対話的研究会のはじまり、3 対話の思想―なぜ人間には対話は不可欠なのか、 4 対話を喪ったとき、5 対話する社会へ という構成そのものが著者の意図を十分に示す。
 「対話」とはなにか。「基本的には一対一の対等な人間関係のなかで、相互性がある個人的な話し合い」であり「個人の感情や主観を排除せず、むしろその人の個性とか人格を背景に、自己を開放した話し方」を特徴とし、「勝ち負け、意図的な結論」を目標にするのではなく、「お互いにとって自然な発見があり、大きな視野が開ける」コミュニケーションと説明される。「自分の体験と思考と感情に由来する自分の言葉を語り、相手に対して、ぴったり当てはまる言葉を選んで話そうとし」そのような「言葉のやり取りなので、考える内容は奥深くなる」とも。
 このような「対話」が、家族、学校、職場、一般社会で喪失している。これは政策的に、あるいは技術の発達によってもたらされている現状に慄然とする。同時に「対話」によって問題を解決した教師の努力、市民運動、労働組合の事例に希望を見いだすことができる。
 子育て中の父母、学校の先生、市民運動をしようとする人、行政を担う人びと、すべての人びとにとって、貴重な示唆を与えてくれる本である。
(岩波新書860円)

吉原功(明治学院大学名誉教授)