お薦め本紹介

お薦め本紹介(2017年5月)

お薦め本紹介(2017年5月)
・これでもやるの? 大阪カジノ万博
・えほん 空襲
・続 下流老人
・キャスターという仕事
・あなたの隣の放射能汚染ゴミ
・大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A

これでもやるの? 大阪カジノ万博

賭博はいらない!夢洲はあぶない
カジノ問題を考える大阪ネットワーク編
これでもやるの? 大阪カジノ万博
昔の栄光と誇大な経済効果にすがるカジノ万博の欺瞞を正面から衝く
 2025年万博の大阪誘致が正式決定され、誘致活動が本格化する。だが、「いのち輝く未来社会」を掲げる博覧会の中身は、遺伝子データ活用の「万博婚」や死を体感するバンジージャンプなど空疎で悪趣味なもの。
 しかも博覧会事務局に提出する招致提案書では、万博とセットで進むカジノ計画には、一切触れないのだという。宗教上の理由から、ギャンブルをタブー視する国も少なくないからだ。
 こうした動きは、「万博にかこつけてカジノ」という本書の指摘を裏付けている。「健康と長寿の万博」は方便で、真の目的は賭博解禁、産廃の島・夢洲の開発、それに伴う巨大なインフラ整備と大企業の利益なのだ。市民の生活や福祉の向上は一切考慮されていない。
 本書では、各分野の専門家が、この計画に潜む数多くの問題点を列挙し、警鐘を鳴らしている。
 カジノ法案の拙速な審議と可決。地震が起これば津波と液状化に襲われる夢洲の防災上の欠陥。背景にある大阪湾岸開発失敗の歴史。ギャンブル依存対策がないまま賭博を解禁する危険性。本書に引用されている、パチンコ依存の母親に育てられた人の告白は痛ましい。
 そもそも万博がどれほどの意味を持つのか。都市の「成長戦略」や「経済効果」につながるのか。1970年の大阪万博は、高度成長期ゆえに成立した過去の神話に過ぎないのではないのか。
 昔日の栄光にすがり、誇大な経済効果を夢見て強引に計画を進める大阪政界と財界の欺瞞を正面から突く検証の書である。
(日本機関紙出版センター900円)

松本創(ノンフィクションライター)

えほん 空襲

1945年7月 高松
はねだ鉱造 著・杉村智子 絵
えほん 空襲
高松空襲を生き延びた市民10人の証言
 高松空襲は1945年7月4日未明、米軍のB29爆撃機116機が、焼夷弾800トン余を投下、死者1359人、被災者8万6400人に及んだ。当時の市域の8割が消失。同日、姫路・徳島・高知も空襲を受けた。
 絵がすばらしい。高松空襲を生き延びた市民10人の証言が、画面にそのまま現わされている。怖いほどの迫力で、見るものに迫ってくる。
 「まわりは火の海、ざっぷり水にぬらしたムシロを頭からかぶり必死で西へ走り…、ムシロに火がつき…足に火傷をしたが、…どうすることもできません」(佐々木芳子さん、当時32歳)。
 体験記はどれも生々しく具体的。逃げる際、母とつないでいた手が離れ、近くに何本かの焼夷弾が落ち、顔にその油脂がつき、燃えだした筧周三さん(当時9歳)は、見知らぬ男の人が防火用水の中に押し込んで水をかけ、女性がビール瓶にくんだ水を唇に垂らしてくれ、一命をとりとめた。
 日本軍が中国・重慶へ長期連続空襲を行った歴史、いまも世界で起きている空爆、私たちが戦争や空襲の歴史を語りつぎ、被害だけでなく、加害の事実も知るにつけ、「二度と戦争をしてはいけない」という思いが、憲法9条を守る努力に結びつき、体験記にある「だれの子どもも殺させない」との言葉につながる。
 この現代につながる視点が大切だ。37回続く「8・15戦争体験を語り継ぐ集い」などの運動から生まれた本書が、平和教育の教材として活用され、子どもたちや市民の平和を求める実践につながることを願う。
(本の泉社1000円)

孝岡楚田(JCJ香川支部)

続 下流老人

一億総疲弊社会の到来
藤田孝典
続 下流老人
「死ぬ直前まで働く」社会 高齢者に迫る過酷な現実を照射
 2年前、「一億総老後崩壊」の危機を鮮明に描き出して、社会的衝撃を与えた書の続編である。
 とりわけ、高齢者年齢の75歳への引き上げなど、安倍政権による「高齢者の切り捨て」策が鮮明になるときだけに、ますます本書が与える衝撃度は増している。
 ちょっと前までの現役時代には、ほのかに描いた「第二の人生」への期待は、「死ぬ直前まで働く社会」の到来によって、今やうたかたの夢になりつつある。
 地道なフィールドワークを積み重ねてきた著者は、「老後も働くことで、何とか生活を維持している高齢者が、予想以上に多い」ことに気付かされ、本格的な調査にはいった。
 前書に引き続き、さらに著者は実地調査を積み重ねながら、「死ぬ直前まで働く社会」の到来に対抗するため、実は矛盾なのだが、結果的に心身ともに極限まですり減らしながら懸命に生きざるを得ない高齢者の姿を描き出していく。その痛ましさは目に余る。
 「年金だけでは暮らせず、80歳近くになっても働く」など、一つ一つのケースは、私たちの現実であり、近未来の姿なのである。
 現実に警鐘を鳴らしながら、最終章で「世界一老後が過酷な国」=日本で「生きていくための‟解決策”」を見出そうと、いくつかの提言も行っている。
 前著を皮相的な「投資術・蓄財術」などに〝借用”された、苦い教訓のためでもある。その意欲は買えるが、「財源」の話に重点が置かれているきらいはある。第4章までの問題提起との整合性を考えると、より冷静で深い分析が望まれる。
(朝日新書760円)

栩木誠(常磐大学講師)

キャスターという仕事

国谷裕子
キャスターという仕事
「国谷裕子さんはキャスターにとどまっているべき人だ」─23年の奮闘記
 キャスターが百人いれば百通りのキャスター論がある。故・筑紫哲也さんがよく口にしていた言葉だ。昨年3月末で降板したNHK「クローズアップ現代」国谷裕子さん版キャスター論が本書だが、読み進むうちに思わず「そうなんだよね!」と膝を打つことが何度もあった。例えばインタビューに臨むにあたっては<準備は徹底的にするがあらかじめ想定したシナリオは捨てること>。実にインタビュー力は国谷さんの最大の武器だった。
 その上で国谷さんには凡百の同業者には希有であるdecency(品位)があって輝いていた。ひとつには国谷さんがD・ハルバースタムの警告「テレビが伝える真実は映像であって言葉ではない」に抗うように、言葉のちからを最後まで信じていることに品位の根拠があるのだと思う。彼女のあげるキャスターの役割(視聴者と取材者の橋渡し役。自分の言葉で語る。言葉探し。インタビュー)にもそれが滲み出ている。
 だからこそ国谷さんはキャスターにとどまっているべきだった。本書からも、彼女のジャーナリストとしての力量が、まさに世界の激動に立ち会った歴史的必然として「育まれてきた」事情が手に取るように伝わってくるのだ。彼女は全身全霊を注いできた。さぞ言葉にできぬ思いをされたことだろう。
<23年という長い間、番組に関わってきて…いつか自分から辞めることを申し出ることになるだろうとは思っていた。だが、そうなる前に辞めることになったのだった。ただ、その理由が、番組のリニューアルに伴い、ということになるとは想像もしなかった>
 言葉少ななのである。爽やかな読後感だ。ただそこがもの足りない。偏屈な同業の読者でごめんなさい。
(岩波新書840円)

金平茂紀(TBS「報道特集」キャスター)

あなたの隣の放射能汚染ゴミ

まさのあつこ
 読み終わって、とても心がざわつく本だ。読みながら途中で何度か放り出したい気分になったが読むのは止められなかった。それほど重要な中身のつまった本なのだ。
 なぜ、どうしてこんなことが罷り通るのか。この国は、いつからこれほどのデタラメが許されるようになったのか。一章ごとに、著者の怒りが読者に伝染してくる。
 福島原発事故で放出された放射能は広島原爆の168・5倍にあたる。この国は確実に汚染された。一度汚染されたモノは長ければ数万年にもわたって、国土を汚し続ける。ではその汚染されたモノはどこへ行ったか。
 第二章で、そのずさんな管理の実態が暴かれる。しかも「汚染許容」の基準がいつの間にか8000ベクレルという途方もない数値となった。それらの基準で放射能ゴミが処理されていくことは、人体への影響が確実に出る証にほかならない。しかもその基準値が、ほぼ密室で決められていたという事実。そして第五章で、著者の怒りは爆発する。公共事業にこの汚染ゴミを使おうというのが行政なのだ。読者である私の怒りも収まらない!
(集英社新書740円)

鈴木耕(編集者)

大学生のためのアルバイト・就活トラブルQ&A

石田真・浅倉むつ子・上西充子
 新入生諸君!高い授業料や生活費のやりくりで、アルバイトに懸命でしょう。でも労働法や雇用契約を知らずに働いていませんか。
 これでは店の売れ残りを買わされたり、店の皿を割ったときの弁償代が請求されたり、勤務シフトを勝手に変えられたり、ブラックバイトのトラブルに巻き込まれるのは必定です。
 まず本書を読んでトラブルに備えよう!授業や期末試験にさえ出席できないバイトから身を守ろう!
 さらに就活に臨む学生諸君! 就職ナビサイトに誘導されるな。まず募集要項の確認と客観情報の活用から始めよう。そのガイドが本書だ。
 初任給に固定残業代をまぜて、水増し表示しているケースが多い。インターンシップも要注意、安く都合よく使われる危険は高い。内定後の泊まり込み研修・入社前の資格取得の強要なども注意が肝心だ。
 大学生が直面する喫緊の問題43を厳選し、Q&A形式で解説する。親の世代も必読の書。
(旬報社920円)

萩山拓(ライター)