お薦め本紹介

お薦め本紹介(2017年8月)

お薦め本紹介(2017年8月)
・スノーデン、監視社会の恐怖を語る
・18歳からの格差論
・魂でもいいから、そばにいて
・結婚
・2015年安保、総がかり行動
・嵐を呼ぶ少女とよばれて
・日米安保と戦争法に代わる選択肢
・「旅する蝶」のように
・自発的対米従属
・農を棄てたこの国に明日はない

異常な「監視と格差」が進む日本の現実を衝く

山田厚史(デモクラシータイムス同人)



山田厚史
 テロ等準備罪処罰法が7月11日から施行された。犯罪を実行する前の共謀や準備で罪に問われる。立証するには「怪しい奴」を監視するシステムが不可欠だ。通信傍受、監視カメラに声紋、顔識別、所在確認など大量のデータを権力が握り、普通の市民まで網にかける。それが監視社会の特徴だ。
 小笠原みどり『スノーデン、監視社会の恐怖を語る』(毎日新聞出版)は、私たちへの警鐘である。2009年、来日したスノーデンは、米軍横田基地内にある国防総省の諜報機関・米国国家安全保障局(NSA)の契約社員として働いていた。その経験から、日本の監視システムや秘密保護法は米国のためにデザインしたものだという。
 日本政府や政治家は監視され、気付いても抗議することさえできない。スノーデンの証言は、「諜報活動による対米従属」の実態を、鮮明な姿で突き付けてくれた。私たちが置かれた状況や日米同盟の内実を知る一冊としてお勧めしたい。
成長なき時代のナショナリズム
 井手英策『18歳からの格差論』(東洋経済新報社)は、新自由主義とグローバル経済によって煽られた、格差の拡大を、財政を媒介にした所得の再配分で是正しようという提案である。日本では、将来不安への備えは、自己責任による貯蓄だといわれてきた。その仕組みが成り立つのは、所得拡大が可能な経済成長が前提である。しかし成長は鈍化し、貯蓄や雇用が脅かされる現状では、成立しない。
 著者は成長を前提としない「分かち合う経済」を提唱する。生まれ落ちた環境で貧富が決まるような、「運に支配された人生」ではなく、全ての人に尊厳のある暮らしを保証する、均質な行政サービスを政府の責任で提供すべきだと説く。
 だが最大の課題である「負担増」を、人々にどう求めるか。著者は、ユニバーサリズムという財政の仕組みを提案する。
 タイトルにあるように18歳の素人でも分かる平易な財政論だ。行き詰まりが見えたアベノミクスへの対案でもある。政界再編の一つの軸となるのではないか。

〈3・11〉後のぬくもりに満ちた不思議な体験

雨宮処凛(作家・活動家)



雨宮処凛
 東日本大震災から6回目の夏がやって来る。
 奥野修司『魂でもいいから、そばにいて─3・11後の霊体験を聞く』(新潮社)は、被災地の不思議な体験を集めた一冊。
 高校時代に待ち合わせていた場所にいつも立っている、津波で流されたはずの友人。震災から3ヶ月後、やっと兄の遺体が発見され、死亡届を書いている時に兄の壊れた携帯から届いた「ありがとう」というメール。行方不明の父が遺体で発見される前夜、同時刻にドンドンと何度も叩かれた家族や親戚の家のドア。
 多くの人が震災から2年頃までは、不思議な体験について「話せなかった」と語る。が、3年を過ぎた頃から、語られ始めるようになる。妻と娘を亡くした男性は、「愛する人がいない世界は想像を絶する地獄です」と話す。が、死にたいと思った時に、不思議な体験をするのだ。そんな経験がなかったら、生きられなかったかもしれないと彼は言う。
魂でもいいから、そばにいて
 だからなのか、本書で綴られる不思議な体験は、ぬくもりに満ちている。「やっと会えた」という再会や「見守ってくれている」という確信を持つ物語のなんと多いことか。
 そんなふうに「魂でも会いたい」と願う人がいる一方で、生きている人間の日常は時にくだらなく、馬鹿馬鹿しいことに満ちている。それを教えてくれるのが末井昭『結婚』(平凡社)。「読んだら絶対結婚したくなくなる本だったら書きたい」という思いから、もっとも身近な他人との生活が綴られる。
 何しろ、「食欲と性欲だけで生きている下等動物のような」父親と、近所の若い男性と不倫した果てにダイナマイト心中した母親を持つ末井氏である。最初の結婚生活から離婚に至る経緯、そして再婚してからの暮らしが赤裸々に綴られる。人間ってどうしようもない。だからこそ、愛おしい。
 そんなふうに思わせてくれる一冊だ。

総がかり行動─「同円多心」の運動論に学ぶ

清水雅彦(日体大教授・憲法学)



清水雅彦
 首相は憲法9条に自衛隊の存在を明記するという改憲案を提示し、7月の東京都議選で自民党が歴史的な大敗を喫しても、この改憲に意欲を示している。改憲勢力が国会内で3分の2を占めている間に、なんとか改憲をしたいのであろう。
 従来、改憲派は2項削除・改正を主張してきたので、「加憲」論は後退といえる。これは平和運動の成果でもある。「戦争法」は強引に制定されたが、この間の「戦争法」反対運動を牽引してきたのが、「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」である。
 この構成主要3団体の一つ、「解釈で憲法9条を壊すな!実行委員会」に属する高田健さんと菱山南帆子さんが、それぞれ単著を出版した。
2015年安保、総がかり行動
 高田健『2015年安保、総がかり行動─大勢の市民、学生もママたちも学者も街に出た。』(梨の木舎)は、まさに運動の当事者による記録として、貴重な一冊である。
 マスコミはシールズについては詳しく報じても、総がかり行動とは何かについて、あまり報じていない。連合系労組と全労連系労組が総がかり行動で共に運動するようになったことで、野党共闘も実現した。この接着剤の役割を果たした一人が「同円多心」の運動論を唱える高田さんだ。
 菱山南帆子『嵐を呼ぶ少女とよばれて-市民運動という生きかた』(はるか書房)は、この総がかり行動だけでなく、小学生の時の授業ボイコットや「君が代」拒否など、これまでの自身の「闘い」をまとめたものである。本書を読むと、こういう子どもがいてもいいと、大人にも考えさせてくれる。
 最後に、市民と野党の共闘で、安倍改憲論に対抗する一つの理論を提供するのが、渡辺治・福祉国家構想研究会編『日米安保と戦争法に代わる選択肢-憲法を実現する平和の構想』(大月書店)である。日米安保と自衛隊をどう変えていくかの道筋を、はっきり示している。

「旅する蝶」のように

ある原発離散家族の物語
岩真 千
「旅する蝶」のように
原発の恐ろしさと沖縄の悲しみ─ふたつを背負って苦闘する家族の重い記録
 ウェブサイト「マガジン9」に連載のコラムを、書籍化した一冊。こうしてまとまり精読するにつれ、そのインパクトの強さに圧倒される。
 サブタイトルに「ある原発離散家族の物語」とあるように、福島原発事故の放射能汚染を避けようと、勤務地の宇都宮を離れ、沖縄に逃れた家族の物語だ。とにかく子どもを放射能から守りたいという一念。だが、著者は大学教員の仕事を継続するため妻子を残して勤務地へ戻り、一家は離散家族となる。
 そこからが切ない。沖縄には著者の母と義理の父(米人)が暮らしている。ともあれ、一家はそこへ身を寄せる。しかし、妻はなかなか沖縄の地になじめない。そこから生じる夫婦間の軋轢。読むのが辛くなる部分だ。
 私は、原発にこだわり本も書いた。沖縄を何度も訪ね沖縄本も上梓した。だから、原発の恐ろしさも沖縄の悲しみも、自分なりに受け止めているつもりだ。だがそれは、あくまで自分の選択。ところが著者は、原発事故により、そのふたつの切なさを、自己の責任とは関係なく背負わされることになってしまった。過酷な運命というしかない。
 宇都宮で、いつしか壊れていった人間関係。それを補えるほどの他人との関わりを、残念ながら沖縄では持つことができない。住まいというより、他者との関わりを失っていくことの疎外感。そこから必然的に生まれる夫婦関係の崩壊。間で苦しむ子どもへの愛惜。沖縄という米軍が居座る島の現実に怯む。ひとりの人間が背負うには重すぎる現実を、著者は必死に切り抜けようと、ひたすら記録する。
 本書は記録文学の輝かしい到達点だと思う。
(リベルタ出版1700円)

鈴木耕(編集者)

自発的対米従属

猿田佐世
 安倍政権は、特定秘密保護法や集団的自衛権の行使容認、「戦争法」の制定、原発再稼働など国民の反対に耳を貸さず強行してきた。その追い風に「ワシントン拡声器」が送ってくる「アメリカの声」を利用した。
 その「声」を発信するのは、アーミテージ元国務副長官やナイ元国防次官補ら「知日派」と称する専門家だ。日本政府は彼らの分析や政策提言を、金科玉条の如く受け入れ政策化している。
 著者はこの「アメリカの声」が、実は「日本製の〝アメリカの外圧〟」である事実を暴き出す。日本政府や企業は米シンクタンクに資金を提供し、情報や発言の機会を与え、日本のメディアが「米政府の意向」と、大々的に伝える。
 日本政府と既得権益層は、自らの望む政策推進のために「ワシントン拡声器」を最大限利用する。米国で市民外交を展開する著者が「日米『共犯関係』とも言うべき、いびつな関係」を批判し、対米従属を絶対視する姿勢の転換を呼びかける。現場に立脚した提言は傾聴に値する。
(角川新書860円)

河野慎二

農を棄てたこの国に明日はない

野坂昭如
 「言っておきたい、いざとなったら金ではない。食いものがある国が生き残るのだ」。戦中・戦後と飢えの時代を生きた〝無頼派〟の野坂昭如が、心の底から発した最期のメッセージ。
 本書には、戦争の悲惨と平和への願いを訴え続けた彼が、新聞や雑誌などに執筆してきた農業や食糧問題に関するエッセイ・対談、手紙談議が収録されている。
 「日本人よ 飢えを忘れるな」「農業問題は、消費者がまず考えなければならない」「手紙談議 農を棄てたこの国に明日はない」と、3章立てになっている。
 とりわけ引きつけられるのが、亡くなる数日前まで書き続けた、農民作家、山下惣一氏との手紙談義である。「飽食とは農業蔑視の時代です」、「農業は『カネを稼ぐ手段』になったから衰退したのです」、「米離れが続けば、やがて日本人は飢えるだろう」―二人の談義は、日本農業の伝統と生産者たちの矜持を傷つけ、存亡の危機に追い込もうとする「安倍新農政」に対する痛烈な「警世の語」である。
(家の光協会1500円)

栩木 誠