お薦め本紹介

お薦め本紹介(2017年9月)

お薦め本紹介(2017年9月)
・「軍学共同」と安倍政権
・検証 アベノメディア
・原爆死の真実
・富山市議はなぜ14人も辞めたのか
・謀叛の児

「軍学共同」と安倍政権

多羅尾光徳、池内了、山崎正勝、西山勝夫、河村豊、土井誠、竹内真 著
「軍学共同」と安倍政権
科学を軍事に利用する予算の急増
その狙いを浮き彫りにし警鐘を鳴らす

 日本の軍事化にまい進する安倍政権。その学問・研究版が、軍(防衛省)と学(大学や研究機関)との共同研究を目指す「軍学共同」である。
 科学・技術の成果を「軍事にも民生にも利用できる両義性(デュアルユース)」を打ち出し、学術の世界を「軍」の下請け機関にする動きが加速。
 その転機になったのが、2015年7月に募集が始まった防衛省技術研究本部による「安全保障技術研究推進制度」だ。初年度の3億円が翌年度は6億円、2年後には110億円と急増。ここには、大学予算が年々削られ、研究費確保に苦しむ研究者たちを、カネの力で軍事研究に誘い込む狙いが秘められている。
 本書は、危険な「軍学共同」の動きに対し、いち早く警鐘を鳴らし、その企みに反対する活動をけん引してきた池内了・名古屋大学名誉教授など、研究者による共著。
 ここには、「軍事研究を加速させる二つの技術戦略と『軍・産官学』体制へと進む動き」など、科学が戦争に加担した戦前の負の遺産を学び、今起きている問題と危険性を浮き彫りにした7つの論文が収められている。
 さらに‟学者の国会„日本学術会議が3月24日の幹事会で決めた「軍事的安全保障研究に関する声明」と報告も収録。こうした積極的な反対行動により、「安全保障技術研究推進制度」の応募数を、大幅に減少させるなど、実を結びつつある。
 今や常態化してしまった「産学共同」の苦い経験に学び、学者・研究者と共に「軍学共同」の狙いや企てを報道することは、ジャーナリストの責務でもある。
(新日本出版社2000円)

栩木誠

検証 アベノメディア

安倍政権のマスコミ支配
臺 宏士
検証 アベノメディア
政権の巧みなダメージ回復操作
取り込まれるメディアを検証

 「それは印象操作です」。森友、加計両学園問題の国会追及で安倍首相がいらだち〝口撃〟するたびに、ひも解きたくなったのが本書である。
 自身の疑惑で今、政権支持率は低下したが、「安倍一強」を下支えてきたのは何か? 筆者は「政権の巧みなダメージコントロール」に着目する。特定秘密保護法や安全保障関連法の成立直後に高い支持率は落ちるが、翌月にはポイントを上昇させ、回復する。
 昨年はオバマ、プーチン両大統領の来日、リオ五輪閉会式での安倍マリオなど、読者や視聴者を意識した外交イベントを演出。成果は二の次の「やった感」の印象操作が大きいが、報道のあり方に問題はなかったのか。
 筆者は毎日新聞時代、辛口のメディアウオッチャーで鳴らし、安倍氏の動向も追ってきた。「恫喝」と「懐柔」でメディアへの介入と分断を試みる一方で、一部経営陣が近寄ろうとしているようにも映る奇妙な共存関係に疑問を感じ、メディアの置かれた全体状況を本の題名にして検証した。
 四部構成で、高市総務相の停波発言や籾井会長下のNHK、戦時報道体制、改正通信傍受法や「共謀罪」と表現の自由とのかかわり、沖縄報道などさまざまな事例から分析する。いずれ避けられない報道機関の自己検証にも役立つだろう。
 本書は2月に刊行され、その後の両学園問題でテレビなどが名誉挽回とばかり首相や周辺を追い込んでいく。が、「忖度報道」「自主規制」体質から本当に脱したのか?権力監視はぶれないか?官邸の巻き返しや共存関係に変化は?…など興味は尽きない。先々の続編が待ち遠しい。
(緑風出版2000円)

野呂法夫(新聞記者)

原爆死の真実

きのこ雲の下で起きていたこと
NHKスペシャル取材班
原爆死の真実
被爆直後の2枚の写真を分析し、「非人道兵器」の酷さに迫る
 米軍が撮影したきのこ雲の写真はあるが、8月6日に広島市中心部で被爆した人々を撮った写真は、世界に2枚しかない。中国新聞社の松重義人カメラマンが、原爆投下の3時間後に、爆心地から2・3㌔離れた御幸(みゆき)橋で撮った避難民の写真がそれである。
 Nスペ取材班は、この2枚の写真を徹底調査し、御幸橋の惨状を最新のCG技術で映像化し被爆の実相を後世に伝えようと番組を制作。本書はその経過をまとめたドキュメント。原爆がいかに人間を残酷に殺す「非人道兵器」であるか、怒りをこめて告発している。
 取材の過程で新しく解明された点をあげれば、1つは原爆特有の「フラッシュ・バーン(閃光熱傷)」と呼ばれる熱傷が大量に発生したメカニズムである。原爆による熱光線で体内の水分が一瞬にして水蒸気となり、膨張して皮膚を大きく裂き、真皮層がめくれ上がるので激痛に襲われる。「必要以上の苦痛を与えた上で、命を奪う」残忍な殺し方だった。
 2つめは、最大の犠牲者が中学生だったこと。8月6日に亡くなった人のうち、男女とも12歳と13歳の割合が群を抜いて高い。中学生は学徒動員で「建物疎開」の作業に当たっていた。6日に爆心地から2㌔圏内いた中学生は約8千人、その7割が亡くなった。無差別爆撃でも、酷すぎる。
 御幸橋の写真の調査は難渋した。もともと後ろ姿が多く、性別や年齢も定かでなかった。それをわずかの手がかりをもとに「事実に基づいて映像化する」方針で、一つひとつ究明していく姿勢は、調査報道の原点を想起させる。スタッフ全員が広島放送局の勤務経験をもつ執念と熱意の労作だ。
(岩波書店2000円)

菅原正伯

富山市議はなぜ14人も辞めたのか

政務活動費の闇を追う
チューリップテレビ取材班
富山市議はなぜ14人も辞めたのか
地域メディア各社が連帯して取材
いかに調査報道が重要か─その実践報告

 本書を教科書にして調査報道の講座を開いたら実り多い議論ができるなあと、イメージを膨らませている。取材し報道する意味について、誰もが素直に理解し共感できる〝実践報告〟だからだ。
 「富山市議会における政務活動費の不正を明らかにした調査報道」で今年のJCJ賞を受賞したチューリップテレビ(富山県)の取材班が、どのように取材したのか、素直に自らの手の内を明かし、緊迫した取材時の緊張や不安なども含めて詳述している。
 本書で気付かされるのは、富山の地域メディア各社が情報公開制度を使ってそれぞれ独自の調査・取材を重ね特ダネを抜いたり抜かれたり、しのぎを削りながらも、議員の不正を浮き彫りにし追及する点では連帯して取材している姿である。
 ジャーナリズムの理念などが特に書いてある訳ではないが、若い記者たちの取材への意気込みなどから、ローカルメディアが今、地域にとっていかに重要な役割を担っているのかが実感できる。
 冒頭に「調査報道の教科書」と述べたが、実は一方で、本書を全国の自治体職員や議会関係者にも熟読してほしいと強く期待している。各地で議会改革が叫ばれ、相次いで議会基本条例が制定されたが、形だけに終わっている現状があるだけに、二元代表制である地方議会の在り方、行政との関係などを変えていく起爆剤としても、本書をぜひPRしてほしい。
 さて、この本を読めば実際のニュースや番組が見たくなる。次に、映像DVD付き書籍にして販売できないだろうか。
(岩波書店1800円)

鈴木賀津彦(東京新聞)

謀叛の児

宮崎滔天の「世界革命」
加藤直樹
謀叛の児
中国こそが世界革命の導火線─孫文らと描いた滔天33年の夢を追う
 文学賞に「評伝文学部門」があれば、今年の大賞は本作で決まり。克明に宮崎滔天(寅蔵)という稀有な人物を追ったノンフィクションというだけでなく、人間性と時代と、そして何よりも「革命」の意味を追求した文章は文学の名に値する。
 ノンフィクション作品と銘打ちながら、登場人物が平気で小説のような会話を交わす描写が続くまがいものが多い中で、資料に依り正確を期した本作の文体は、最後まで揺るがない。
 宮崎滔天といえば、私なども戦前の「大陸浪人」のイメージを持つのだが、滔天がなぜそういう連中と付き合わざるを得なかったか。「中国革命こそ世界革命につながる」という滔天の強い想いの故だったというのだ。
 明治維新前後の混乱からアジアでの最初の先進国に成り上がった日本が、中国をどう扱おうとしたか。民権派から生まれた社会主義者たちの革命観が西欧中心であり、遅れた中国を指導するとの意識だったのに対し、滔天は中国こそが世界革命の導火線であり革命の真の同志と考える。孫文らと結び、中国革命のためには犬養毅などの政治家や、黒龍会、玄洋社など右翼結社との交友も辞さない。
 九州熊本の旧家である実家を食い潰し、妻子を困窮させてもなお革命を夢見る。さらには浪曲師となって資金を得ようとまでする。だが、社会は滔天の夢のようには動かなかった。日本政府は中国侵略にのめり込み、滔天の同志だった人々も中国権益に狂奔。その中で滔天は1922年、53歳の生涯を閉じる。読書の愉悦を堪能した本である。
(河出書房新社2800円)

鈴木耕(編集者)