お薦め本紹介

お薦め本紹介(2017年10月)

お薦め本紹介(2017年10月)
・沖縄 鉄血勤皇隊
・中国ナショナリズム
・脱 大日本主義
・北星学園大学バッシング 市民は かく闘った
・信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体

沖縄 鉄血勤皇隊

人生の蕾(つぼみ)のまま戦場に散った学徒兵
大田昌秀 編著
沖縄 鉄血勤皇隊
92歳の誕生日に逝去された大田昌秀さん
学友の少年兵たちに捧げたレクイエム

 個人的な思い出で恐縮だが、私は『沖縄、基地なき島への道標』(集英社新書)という大田さんの著書の編集担当をして以来、ずっと大田さんには親しくしてもらった。
 沖縄へ行くたびに食事をご一緒し、たくさんのお話を伺った。その中でいつも大田さんが気にかけておられたのが、鉄血勤皇隊に召集され斃れていった学友たちのことだった。それが、まるで遺著のようにしてまとまった。奇しくも92歳の誕生日当日に旅立たれた大田さんの最期に間に合った…。
 大田さん自身が組み入れられた鉄血勤皇隊。だが、勇ましいのは名ばかり。まさに副題が切ない。ろくな武器も与えられずに戦場に放り込まれた15~18歳ほどの少年たちが、文字どおり蕾のまま花開かずに死んでいったのだ。
 ひめゆり部隊などの看護隊は映画でも有名になったけれど、男子学徒隊は沖縄の全12校から招集されながら、実態はあまり明らかにはならなかった。多くの学友を失った大田さんにとって、少年兵たちへの鎮魂は自分の人生の終幕までに、どうしても成し遂げたかった仕事だったのだろう。
 沖縄師範学校男子部本科2年生だった大田さんは、敗戦の色濃い1945年2月に召集され、情報宣伝隊の千早隊に入れられた。それがどういう任務だったのか、本書を読んでほしい。戦争というものが、結局は人間の使い捨て、命を木の葉のように軽く扱う残酷な歴史の一齣であることがよく分かる。終生をかけて反戦を訴え続けた大田さんに、7月、私は最後のお別れをしに、沖縄へ行って来た。
(高文研2000円)

鈴木耕(編集者)

中国ナショナリズム

民族と愛国の近現代史
小野寺史郎
中国ナショナリズム
<日本と中国>相互のナショナリズムが影響し合う歴史を見通して
 日本で中国ナショナリズムを語るのは難しい。中国ナショナリズムの芽生えと同時期に、日本は偽装化された古代宗教に支配原理を置く古代王政への回帰を唱え、ナショナリズムを強調する奇妙な歩みを始め、かつ工業化に成功したためである。ISが国家建設を実現したようなものだった。
 日本は中国近代化の手本の一つとなるが、中国侵略により日本への否定的感情が強まる。日本のあり方をふまえずに、この問題は考えられない。
 本書は、近代以降の中国ナショナリズムを、その前史から2010年代までに渡って要領よく説いている。しかし本書の性格上やむを得ないが、日本ナショナリズムへの言及が十分とは言えず、それが理解を難しくしていることも否めない。
 たとえば尖閣問題が顕在化する前年の09年、言論NPOの世論調査では、21・3%の中国人が日中間の懸念材料に「中国国民のナショナリズムや反日感情」を挙げていた。ところが日本人で日本のナショナリズムを挙げる者は2・7%に留まる一方、19・6%が「中国国民のナショナリズムや反日感情」を挙げていた。
 自らのナショナリズムを課題として認識する度合いは、日本よりも中国の方が高かった。その日本ナショナリズムが中国に影響を与える。
 著者は、領土問題や歴史認識問題への中国の激しい対応が「日本に暮らす者から見れば奇異に感じられる」点を挙げるが、軍国主義を正当化しようとする日本社会の動きには、欧米からも厳しい目が向けられている。
 問題はこのような前置きをしなければ、中国ナショナリズムを語れない日本社会にある。それをふまえてこそ本書の意義が増そう。
(中公新書860円)

河辺一郎(愛知大学教授)

脱 大日本主義

「成熟の時代」の国のかたち
鳩山友紀夫
脱 大日本主義
日本が進むべき東アジア共同体構想とは
 民進党(旧民主党)の混乱・低迷の引き金は、米国と日本経済界などが連携した民主党政権の初代、鳩山氏の首相引きずり降ろし工作であった。その一翼を担ったのが、大手マスコミである。
 本書は、鳩山氏が首相就任時に掲げた「東アジア共同体構想」を横軸、「明治以来の大日本主義的思考を棄て、中規模国家の道の選択」を縦軸にして、今後の日本のあるべき姿を論じている。
 安倍政権が目指す無謀な大日本主義の弊害と矛盾を、「大国への夢は幻に終わった」と厳しく指摘。対論として、「脱」大日本主義の重要性を強調する。さらに根拠なき「成長戦略」やグローバリズムへの幻想と米国従属、中国敵視を棄て、アンチテーゼの「成熟戦略」の下に、「東アジアでの提携を深めてゆき、中規模国家(ミドルパワー)として共同体の中心的プレーヤーになるべきだ」と、将来の国際社会における日本のあるべき姿を提唱する。
 凋落が顕著な元超大国・米国への過度な追随で完全に機能停止している「価値観外交」、格差と貧困の拡大など矛盾が一層鮮明になった「アベノミクス」。過熱した強欲資本主義が行き詰まりを見せる中で、日本がいかなる方向を選択するべきか。
 今後を考える上で、示唆に富む内容が散りばめられた1冊。鳩山氏との接触を積み重ねてきた思想家&武道家の内田樹氏が「豊かな国民資源をていねいに使い伸ばしてゆけば、これから先も日本は人口減や高齢化に耐えつつ、ミドルパワーとしてそれなりの存在感を示し続けられるはずである」と、骨太で肉付けのある解説がいい。
(平凡社新書800円)

栩木誠

北星学園大学バッシング 市民はかく闘った

「負けるな北星!の会」記録編集委員会
北星学園大学バッシング
マスコミと大学人というリベラル派の限界を突破した闘う市民の記録
 2014年、日本軍「慰安婦」を歴史から削除したい勢力が、三つの大学に、気にくわない教員をクビにするよう要求した。爆破、殺人予告もあった。神戸松蔭女子学院大と帝塚山学院大は、結果として要求を呑んだ。最後に残った札幌の北星学園大も陥落寸前だった。本書は、これを覆した市民運動の記録だ。
 教員は、元朝日新聞記者植村隆氏。1991年、元慰安婦・金学順さんの存在を報じた。これを「捏造」とする勢力の攻撃で、北星大の非常勤講師職を奪われそうになる。阻止のため市民が急遽作ったのが「負けるな北星!の会」だ。
 本書の第一の特徴は、運動の成果を誇るというより、頼りにしたマスコミと大学人というリベラル派が、いかに「弱虫」だったかを突いた点にある。原正衛北星大経済学部長は、学内リベラル派の実態を率直に報告している。①植村氏を守るため警察が学内に入る②すると自分の研究が国家権力の監視下に入る③だから植村氏に辞めてもらうしかない、といった論法がまかり通っていた。
 取材に当たった現場の記者たちも「あの手この手で書き直しても原稿はボツだった」と、自らの恥と罪を語っている。
 第二の特徴は、「本当の敵を見失うな」とするノーマ・フィールド米シカゴ大名誉教授ら60人を超す執筆陣。「札幌だから闘えた」(中野晃一上智大教授)などシンポジウムの記録もある。
(A4判247頁・頒価500円。注文はFAX011-351-5310かメール:makerunakai@gmail..comで。送料は着払い。本代はゆうちょ銀行振替口座02720-4 番号70218 マケルナ会に振り込む )

徃住嘉文(JCJ北海道支部)

信じてはいけない

民主主義を壊すフェイクニュースの正体
平 和博
信じてはいけない
既存メディアへの不信が嘘ニュースや情報をはびこらせる
 虚実をないまぜにしたフェイク(嘘)ニュースが世界を席巻している。昨年の米大統領選では「ローマ法王がトランプ支持」などのフェイクニュースが、ニューヨークタイムズやCNNなど、既存メディアと同程度の拡散規模となり、トランプ氏を大統領に押し上げた。
 フェイクニュースの影響力は深刻だ。「児童性愛にヒラリー・クリントン氏が関与している」という嘘ニュースを信じた男による発砲事件(「ピザゲート事件」)が、ホワイトハウスに近いレストランで発生した。
 トランプ支持のフェイクニュースについては、ロシアからの発信疑惑が米FBIの捜査対象になり、トランプがFBI長官を解任するなど、国際謀略戦の渦中にある。
 今年春のフランス大統領選でも、フェイクニュースがマクロン候補を攻撃した。攻撃を仕掛けた一人は「ピザゲート事件」を引き起こすフェイクニュースを拡散したトランプ支持の人物だ。
 だが、右派勢力の野望は、フランスメディアの連携した報道によって打ち砕かれた。ルモンドやリベラシオンなど、34の組織が作ったファクトチェック機関の「クロスチェック」が、フェイクニュースがマクロン追い落としの決め手とした文書が偽造であることを突き止め、ネットで速報。極右のルペン候補当選を阻止した。
 日本でも今後、フェイクニュースの跋扈が懸念される。著者はフェイクニュースが氾濫する背景に既存メディアへの不信があると指摘する。
 ジャーナリストはその指摘を真摯に受け止め、チェック体制を整える必要がある。
(朝日新書760円)

河野慎二