お薦め本紹介

お薦め本紹介(2017年11月)

お薦め本紹介(2017年11月)
・ポピュリズムと民意の政治学
・ルポ 沖縄 国家の暴力
・十五歳の戦争
・「反戦主義者なる事 通告申上げます」
・「大学改革」という病
・わけあり記者

ポピュリズムと民意の政治学

3・11以後の民主主義
木下ちがや
ポピュリズムと民意の政治学 公共空間で実現してきた民主主義の危険性と可能性を省察する
 タイトルから感じられる予測に反し、本書は重厚な政治学・社会学書であり、腰をすえて読まないと理解に苦しむ。
 しかし社会運動の視点から現代日本の実像に鋭く迫り、私達の社会が抱える危険性と可能性を深く理解するための格好の書となっている。
 著者によれば「ポピュリズム」という言葉には民主主義の「危機」と「機会」の両義が含意される。それは「同じ社会的・経済的・文化的条件から生ずる」からである。
 より具体的には「第二次世界大戦後に作り上げられた社会経済的秩序の収縮、労働のフレキシブル化、生産のアウトソーシングを基軸とした、新たな階級分化とアンダークラスの形成」や「市場原理の席巻による個人主義の台頭」「安定的雇用・家族・コミュニティの崩壞」など、新自由主義が生み出した諸状況が、一方でトランプ米大統領やフランスのマリー・ルペンのような民主主義を危機に陥れるポピュリズムを生みだした。
 その他方で民主主義の「機会」を生むポピュリズムを育み、「抵抗の年」といわれる2011年以降の世界各地で展開された「大規模かつ民衆的な民主主義的政治運動」―エジプト・ムバラク打倒運動、米国のオキュパイ運動やサンダース支持運動などである。
 日本では3・11後の反原発運動、反秘密保護法運動、反安保法制運動など、従来とは異なった運動である。
「これらの運動がみな公共空間における大規模集会を志向し、実現してきたのは、多種多様な人々を『人民の集合体』に結実させ、かつて左翼・リベラル勢力が領有していた公共空間における陣地を奪還するため」と指摘されている。(大月書店2400円)

吉原功(明治学院大学名誉教授)

ルポ 沖縄 国家の暴力

現場記者が見た「高江165日」の真実
阿部 岳
ルポ 沖縄 国家の暴力 米軍ヘリパッド建設─反対する住民を暴力で排除する現場で闘う記者魂
 10月11日、沖縄県東村高江区の人家から、わずか300メートル離れた私有地に米軍の大型ヘリが墜落した。この事故を沖縄の記者たちは、どんな思いで受け止めたか? 本書の著者である「沖縄タイムス」の阿部岳記者の心の中は、あの高江だからこそ、煮えくり返らんばかりだったろう。
 那覇からは車で高速道路を使っても、2時間以上かかる沖縄本島北部の静かな村。その中心部から、さらに離れた高江という、わずか150人ほどが住む集落を取り囲むように、6カ所の米軍ヘリパッドが造られた。
 静かな住民の暮らしを根底から破壊するもの以外の何物でもない。しかも、あの危険な欠陥機オスプレイの訓練に使用されることすら、住民には事前に説明されなかった。当然、長い反対運動が始まる。
 沖縄県民でさえ聞いたこともないような僻地での孤独な闘いに、沖縄の記者たちは通いつめる。そしてそこで見たもの、体験したことこそ、初めて目にするほどの異様な「国家の暴力」だった。
 日本全国から投入された機動隊の荒々しさ。記者を拘束し、住民に「土人!」と罵声を浴びせ、抵抗者は逮捕。微罪で5カ月も長期勾留された山城博治さんの事例など、本書は「国家の暴力」そのものを抉りだす。
 私は阿部記者とは少し面識がある。冷静沈着で温和なジャーナリストだ。その著者がこれほど檄した文章を紙面に叩きつけざるを得なかったところに、沖縄の怒りと悲しみが見える。圧政とデマと偏見に抗して闘う記者魂に胸が熱くなる。
(朝日新聞出版1400円)

鈴木耕(編集者)

十五歳の戦争

陸軍幼年学校「最後の生徒」
西村京太郎
十五歳の戦争 叩きこまれた軍国教育から戦争を問う
 トラベルミステリーの大御所が、戦後70年を経てから、しきりに戦争を題材にしたミステリーを書くようになった。2015年刊の著書は大多数が戦争に絡むものだ。
 人気作家が、なぜいま戦争を問うのか。その真意を伝えるのが本書である。エリート養成機関である陸軍幼年学校で、徹底した軍国主義教育を受けた著者だからこそ書ける証言がつまっている。
 1945年4月、八王子市にあった東京陸軍幼年学校に入学。高い塀に囲まれた、病院まである閉鎖的な世界だった。市民との交流も禁じられ、「強い使命感」を植え付けられた。空襲の日々、緊張の連続だった学校生活、本土決戦を前にした心境など、生々しく伝える。「本土決戦になったら、楯になって、天皇陛下をお守りするのだ」と思っていたと振り返る。
 後半は、戦後の食糧難や占領下の世相などを記している。
 そのうえで、「日本人は戦争に向いていない」と結論づける。理由として、日本人は「国内戦と国際戦の違いがわからない」「現代戦では、死ぬことより、生きることが大事なのに、日本人は、死に酔ってしまう」等々、7点を指摘している。
 昨年、御本人にインタビューをする機会があった。印象深かった言葉を紹介しておく。
 「怖いのは、戦争になると死を恐れなくなること。戦争のための教育をたたきこまれたから、死ぬのは全然怖くなかった」
 「世界中が戦争になっても日本だけは、たたかわない方がいい。たたかわない国が、一国でもないと、まずいんだ」
(集英社新書760円)

金子 徹(「赤旗」記者)

「反戦主義者なる事 通告申上げます」

反軍を唱えて消えた
森永 玲
結核医・末永敏事
「反戦主義者なる事 通告申上げます」 投獄・尾行・弾圧にめげず反戦を貫いた生涯を掘り起こす
 戦前、反戦・反軍を唱えたため、その生涯を抹殺されていた結核医の存在が戦後70年経った今、初めて明らかにされた。その人の名は末永敏事(すえながびんじ)。
 長崎県島原半島の旧北有馬村(現島原市)出身の医師、若くしてアメリカへ留学、大きな業績を残して帰国後、内山鑑三を師と仰ぎ、キリスト者として「非戦論」を貫く。
 本書は、地元でも忘れ去られ「実在する人物なのか」とすらいわれた末永の生涯を、著者である「長崎新聞」の森永玲氏(編集局長)が、同紙に78回にわたって執筆した長期連載(2016年6~10月)に、その後の調査を加えて出版された。
 著者はわずかな手がかりを頼りに、徹底した取材で跡づけ、その生涯の全体像に迫っている。
 タイトル「反戦主義者なる事 通告申上げます」は、末永が医師として茨城県知事宛てに「軍務を拒否する旨」通告した文言からとられた。
 彼は「日支事変は日本の侵略戦争」「政治の実権は軍部が握っている」等と公言したため、「陸軍刑法違反・不敬罪」により水戸刑務所に投獄される。出所後、特高警察、憲兵による徹底した尾行と弾圧を受けるが、太平洋戦争期の1943年頃以降、45年8月死去までの消息は、今日も不明のまま。
 評者は、一昨年、遺族の依頼を受けて末永敏事の調査を手がけ、彼の治安維持法被弾圧者としての側面に光をあて、『治安維持法と現代』誌2015年春季号に紹介した者として、秘密保護法、戦争法、共謀罪法下の今日、本書を推薦し、多くの人々に読まれることを期待したい。
(花伝社1500円)

藤田廣登(治安維持法国賠同盟常任理事)

「大学改革」という病

山口裕之
 大学の法人化が導入されて以降、全国の大学で「大学改革」という競争政策が強行されている。
 政財界主導の「改革」と表裏一体で、大学を取り巻く環境は悪化の一途をたどる。大学予算は年々削減され、教員は教育・研究に力を注げず、研究費確保に追われる。若手研究者は雇用の不安定と過当競争による将来不安に直面している。
 本書は、学問の自由、財政基盤、競争主義などをキーワードに、「大学改革」の問題点を整理、検証する。そして、大学が危機に瀕する今こそ、「(学びと対話の場である大学で学生が)調べ、知り、考察し、話しあい、共有できる知識を作っていくこと」の意義を明快に説く。
 大学が日本の社会制度と有機的に結びついているだけに、大学だけを取り出して議論することは危険である。トップダウンによる国家(政府)の押しつけでなく、民主主義社会を支える組織である大学の根本的な在り方について、国民的な議論を広げることが緊要である。「学問の自由、大学とは何か、今後どうあるべきか」を考えるうえでの必読書である。
(明石書店2700円)

栩木誠

わけあり記者

三浦耕喜
 今年の正月、東京新聞に書いたコラムが反響を呼んだ。これが本書を上梓するきっかけになった。
 <世の「わけあり人材」よ胸を張れ。わがもの顔で仕事せよ。介護、子育て、病気など、いろいろな「わけ」があっても、それだからこそ、あなたにしかできない仕事がある。あなたにしか出せない知恵がある。日本人がこの先も生きていくためには、「わけあり人材」を生かすほかない>
 このコラムを書いた三浦記者自身、三つの「わけあり」を抱える。
 政治部にいた5年前、過労で倒れ、うつ病になり5カ月間休職。復帰した今も治療を続ける。二つ目は両親の介護。実家に近い名古屋に転勤し介護を続けているが、今度は自身が難病のパーキンソン病と診断され、闘病生活をしながら取材に励む日々だ。
 いま三浦記者が書く新聞連載「生活部記者の両親ダブル介護」は、当事者だからこそ伝えられる内容で好評だ。
 本書に書かれた彼の仕事ぶりは、誰もが「わけあり」に陥る危険性のある今、マスメディアが当事者メディアとして、その役割を果たさねばならぬ意味を、あらためて問うている。
(高文研1500円)

鈴木賀津彦(東京新聞)