お薦め本紹介

お薦め本紹介(2018年1月)

お薦め本紹介(2018年1月)
・Black Box
・ユニクロ潜入一年
・「日米指揮権密約」の研究
・ルポ沖縄 国家の暴力
・沖縄のアイデンティティー
・新聞記者
・亡国の武器輸出
・戦争と農業

伊藤和子
2017年 読書回顧─私のいちおし

伊藤和子(弁護士/「ヒューマンライツ・ナウ」事務局長)

性暴力被害に屈せず闘い続ける強い矜持


 今年6月、デイビッド・ケイ国連特別報告者は日本の表現の自由に関する調査報告書を国連に提出、報道の自由を確保するよう勧告した。
 彼は「日本のメディアは政府からの圧力を跳ね返す力が弱い」とし、記者クラブ制度など報道機関と政権の癒着に疑問を呈し、ジャーナリストの横の連帯、調査報道の環境醸成を訴えた。この提起は主要メディア内では、必ずしも掘り下げられなかったが、現状を打ち破る新しい動きが起きた。
新聞記者
 まず東京新聞の望月衣塑子記者による政権追及だ。著書『新聞記者』(角川新書)には、記者を志した軌跡、官邸会見で追及する心の葛藤や熱い想いが綴られている。
 多くの記者が政権幹部に踏み込んだ追及をしなくなる中、あえて質問を重ねる勇気を支えるのは権力監視というジャーナリストとしての強い使命感だ。「前川さんや詩織さんがたった一人でも戦おうとし、社会的に抹殺されるかもしれないリスクと背中合わせで疑惑を追及している。2人の勇気をだまって見ているだけでいいのか」と問う。

Black Box
 その詩織さんは、首相に近い元テレビ記者による性的暴行被害を告訴、逮捕状執行が直前で見送られ不起訴に。検察審査会でも「不起訴相当」。それでも諦めず記者会見で被害を実名告発し、伊藤詩織『Black Box』(文藝春秋)を出版した。
 屈せずに闘い続ける動機は「自分の中で真実に向き合えないのであれば、私にこの仕事をする資格はないだろう」というジャーナリストの強い矜持にある。性暴力被害者に泣き寝入りを強いる日本の社会的法的システムを、実体験から克明に問題提起した価値ある一冊だ。
 最後に横田増生『ユニクロ潜入一年』(文藝春秋)を挙げたい。企業内部の過酷労働の実態を追及するため、自ら働き、潜入調査するという究極の調査報道姿勢に心から敬意を表したい。圧巻のルポだ。彼らに孤独な戦いをさせてはならない。社会が、そしてジャーナリストの横の連帯がこれを支え、真実に迫り権力を監視する報道が強まることを期待する。

吉田敏浩
2017年 読書回顧─私のいちおし

吉田敏浩(‘17JCJ賞受賞者/ジャーナリスト)

戦争する国へ導く「米日統合司令部」を暴く


 北朝鮮の核・ミサイル問題で、トランプ・安倍両政権は軍事的圧力、武力の威嚇を強めている。
 日本海などで米軍の空母や爆撃機と自衛隊の艦船や戦闘機が、共同訓練を繰り返している。安保法制=戦争法制による米艦防護まで実施した。
 武力の威嚇は憲法違反だが、強引な解釈改憲で違憲の集団的自衛権の行使容認に踏み出した安倍政権にとっては、戦争体制づくりの規定路線であろう。
 それは米国の世界戦略に従って、地球的規模で米軍の戦争に自衛隊が協力し加担する体制の構築と結びついている。
日米指揮権密約
 末浪靖司『「日米指揮権密約」の研究』(創元社)は、そうした恐るべき米日軍事一体化の流れを、占領時代からの米国による日本再軍備の策動の歴史に遡って検証し、核心を抉り出している。
 著者が米国立公文書館に通い、膨大な米国政府・軍の解禁秘密文書を精査した末に明らかになったのは、戦時に自衛隊は米軍の指揮下に入るという、1952年、当時の吉田茂首相とクラーク極東米軍司令官との口頭による「指揮権密約」だ。
 以来、自衛隊は米国製兵器で武装し、米軍事顧問団の指導を受け、米軍と共同訓練・演習を重ねてきた。米軍と自衛隊の基地の共同使用も拡大し、横田・横須賀・キャンプ座間の各基地では司令部機能の統合も進む。
 2015年の「日米防衛協力のための指針」により、米政府高官・米軍幹部と日本政府高級官僚・自衛隊幹部から成る機関「同盟調整メカニズム」、事実上の米日統合司令部も機能している。戦力も情報力も米側が格段に上で、「指揮権密約」もあり、米軍が自衛隊を指揮する統合司令部だ。
 まさに日本は再び海外派兵をし、米国の下で戦争をする国に変貌しつつある。その危険な動きを止めるのは、戦争体制反対の世論の高まりしかないという著者の問題提起は実に重い意味を持つ。

米倉外昭
2017年 読書回顧─私のいちおし

米倉外昭(「琉球新報」文化部記者)

沖縄メディアで奮闘する2人の情熱と使命感


 「新聞記者をしながら本を書く」ということがどれほど大変なことか、私には、正直なところ実感できていない。今年、2人の畏友がそれを実行した。
沖縄のアイデンティティー
 沖縄タイムスの阿部岳『ルポ沖縄 国家の暴力』(朝日新聞出版)が8月に発刊された。そして11月、琉球新報の新垣毅『沖縄のアイデンティティー』(高文研)である。
 阿部は北部支社報道部長として基地問題の最前線を担当。副題は「現場記者が見た『高江165日』の真実」である。全国から機動隊を動員してヘリパッド(オスプレイ発着場)の建設工事が強行された「戒厳令下」の現場を、軍事基地に反対する住民の立場に身を置いてリアルに描写。「政府の暴走を本土の無関心が可能にしている」と指摘する。
 名護市安部海岸のオスプレイ墜落など、大事件が相次ぎ、忙殺されている阿部が本を出したと知った時は驚いた。あとがきに、半年間、休日を全て執筆にあてたとある。日本全国に伝えなければという強い情熱と使命感ゆえであろう。
 ネトウヨの攻撃にもさらされている沖縄メディアには、多くの「本土」出身記者がいる。東京生まれの阿部は「沖縄に対する本土という多数派、加害者の側にいる者として」「責任の果たし方は、これからもずっと問われていくだろう」と記し、本土出身という「十字架」を背負って現場に身を置くことの決意を示した。
 一方、新垣は「沖縄人」としてアイデンティティーを正面から問うた。東京支社報道部長の新垣は、沖縄と「本土」がぶつかり合う第一線である東京で多忙な日々を送る。そんな中で、20年前の修士論文を基に、その後の取材や変化を踏まえて加筆・修正したという。
 記号論、言説(ディスコース)理論、ポストコロニアリズムなどの用語は、ややとっつきにくいが、「うちなーんちゅとは何者か」と自問自答しながら、格闘してきた成果を結実させた。これも情熱あふれる一冊である。

新聞記者

望月衣塑子
新聞記者
記者は「傍観者でいいのか」この自問が事実に迫る原動力
 記者として「自分にできることは何か」を考え現場に向かう。菅義偉官房長官の会見で「東京新聞、望月です」と切り出し、舌鋒鋭く質問を畳みかけた女性の声を覚えている方は多いだろう。官邸記者の横並び主義に殴り込みをかけた社会部記者。
 その原動力を生い立ちから綴る著者は、ジャーナリスト志望の理由や仕事への思いを率直に記す。
 たとえば滑舌のよい凛とした声は、子ども時代に熱中した演劇で磨いた。徹底的に粘り強く聞く姿勢は東京地検特捜部を担当してスクープを放ち、特捜部から事情聴取を受けても書き続けたスタイルと繋がる。
 彼女にしてみれば積み上げてきた取材スキルを、「総理のご意向」と記された文科省文書に揺れる加計問題で発揮したにすぎないのだが、他の記者たちは彼女を批判、個人攻撃といえる中傷記事を放つ者すらいる現状に、読者は何を思うだろうか。大きな声援と渦巻くバッシング、そのストレスから体調を崩したことも。
 それでも彼女は権力の不正を告発する人々に向き合い、「自分の中で燃え盛ってくる。こうなってくるともう私のペース」と自身を突き動かす。多忙を極める取材と各地での講演、そして2児の子育てを担う姿は、ペンを手にしたアスリートを思い出す場面も多い。
 彼女が追い求めてやまないのは、権力が隠そうとする真実と国民が知るべき事実。傍観者でいいのか?と自らに問いかけ、個の記者の力を信じて現場に立つ望月記者。その思いを全国の記者が共有できたなら、暴走気味のこの国が少しはマシになるのではないかと思えてくる。
(角川新書800円)

斉加尚代(毎日放送報道局ディレクター)

亡国の武器輸出

池内了+青井未帆+杉原浩司編
 2014年4月、安倍政権は「防衛装備移転三原則」を閣議決定。武器輸出三原則が撤廃されて武器の輸出が全面解禁になった。「平和国家」から武器輸出を国家の「成長戦略」として政策が転換されたことで、大物防衛利権フィクサーが再び蠢動している。
 秋山直紀氏だ。彼は防衛利権に絡む事件で約1億円の脱税容疑により11年10月、懲役3年執行猶予5年の有罪判決が確定した人物。彼の復活を印象づけたのは16年5月都内ホテルでの現職国会議員と防衛官僚による講演会の仕掛け人として名前が挙がったからだ。
 自ら理事を務める国際平和戦略研究所の代表理事・久間章生元防衛相を呼びかけ人として講演会の開催を企画した。だが講演会は、直前に中止となった。本書執筆陣の一人であるジャーナリストの田中稔氏は、その理由を有罪になった人物が関係する会合で国会議員らが講演するのはまずいと防衛省などが判断したと指摘している。
 本書は武器輸出の問題点を、15人が多面的に摘出した好著。
(合同出版1650円)

橋詰雅博

戦争と農業

藤原辰史
 「農作業を効率的にしたい。その思いが20世紀の農業技術を飛躍的に発展させ、同時に、その技術が戦争のあり方を変えた。トラクターは戦車に、化学肥料は火薬になった。逆に毒ガスは平和利用の名のもと、農薬に転用される」─この一節に筆者の問題意識が投影されている。
 本来、人々の生命を守り、生活を豊かにするはずの食の生産が、技術の発展と共に人間と自然の相克を生みだした。さらに「農業にも兵器にも使える技術」によって、人々の争いを加速させる世界を作り出した。
 その行きつく果てが、「飽食」と「飢餓」の共存という矛盾に満ちた現代社会である。競争原理に基づき経済の活性化を図るシステムは、破たんしつつある。
 農業もその流れに翻弄されている。筆者が各所で食や農業の歴史について述べてきた内容を凝縮させたのが、本書である。相反するはずの「農業」と「戦争」の関係を歴史的に検証しながら、「この不条理な状況」を変革するために私たちに何ができるかを問いかける。
(インターナショナル新書720円)

栩木誠