お薦め本紹介

お薦め本紹介(2018年4月)

お薦め本紹介(2018年4月)
・語られる佐藤忠良
・国立景観裁判・ドキュメント17年
・治安維持法と共謀罪
・追及力
・民意と歩む

語られる佐藤忠良

彫刻・デザイン・美術教育
小川幸造・藤井 匡・前田 朗 編
語られる佐藤忠良
JCJ賞大賞のブロンズ像
その制作者の足跡をたどる

 生涯〝職人〟を自認した彫刻家=佐藤忠良さんの多彩な業績を各方面から探ろうと、企画実施された口座の記録である。
 第1部では、佐藤忠良の生涯をたどり、彼の彫刻の作品群を日本近代彫刻や西洋美術の造形史にどう位置づけるか試みられる。政策の姿勢は変わらぬと自称する忠良さんの作品も、時期により三つに分けられる。が、ロダンや朝倉文夫から連なる近代日本の新しいリアリズム潮流の中枢としての評価が提起される。
 日本ジャーナリスト会議(JCJ )が主宰するJCJ 賞の発足以来、大賞受賞者には、忠良さん制作のブロンズ像<柏>が贈られてきた。
 忠良さんは、また実に多くの絵本、表紙画、新聞小説の挿画美術の教科書などを残した。古くは戦中(1942年)に詩人の吉田一穂が編集者で、農村や港や船をテーマとした絵本を数冊描いている。戦後も「全農文化」「全蚕文化」など、働く人の雑誌の表紙絵を描き、船山馨の小説にはよく付き合っている。船山は札幌二中の後輩で、同じ絵画クラブのメンバーだった。
 70~80年代にも、児童文学や絵本・装幀などの仕事は多い。そのうち最も有名なのが、『おおきなかぶ』で、50年以上も読まれているロングセラーだ。構図とデッサン力がしっかりしているからだろう。
 第2部は、忠良さんの弟子や東京造形大学で学んだ彫刻家たちによる、忠良さんの教え方・忠良語録がまとめられている。「普通の生活を大切にする」「自然をよく観察する」「制作活動は自分の歩速で休まず歩き続ける」など、一見、造形や美術と無関係に見えるが、教え子や後輩たちは「それを守ってきたから、今日の私がある」と述懐する。何より忠良さん自身が実践者だから、教育御社として効果を発揮したのだ。
(桑沢学園3000円)

奥田史郎

国立景観裁判・ドキュメント17年

私は「上原公子」
上原公子・小川ひろみ・窪田之喜・田中隆編
国立景観裁判・ドキュメント17年
市民の景観保全運動とカンパで不当な判決を乗り越えた記録
 一橋大学や桐朋学園など、多くの学園が点在する閑静な文教都市、東京・国立(くにたち)市。JR国立駅南口から真っ直ぐ延びる大学通りなど、緑豊かなこの町は、「まちづくり」という言葉を誕生させた地ともいわれる。
 この地での高層マンション建設と美しい景観を巡る幾多の裁判は、最終的に上原公子市長(当時)個人に損害賠償約4500万円が課せられるという、極めて理不尽な結果になった。
 だが不当な司法判断に対する市民の怒り、「上原公子さん個人の責任にしない」という運動は、燎原の火のように全国で燃え広がった。わずか9か月間で5千万円を超えるカンパが集まり、第3者弁済するという成果に結実した。本書は、こうした17年間にわたる市民運動の足跡をまとめた、貴重な記録集である。
 この裁判を通して浮き彫りにされたのは、都市景観を守る権利の確立と運動が、欧州などに比べ大幅に遅れている日本、主権者たる市民の声ではなく権力の言いなりで自らの判断を回避する司法の残念な姿、その厳しい現実である。
 その一方で、本書が指摘するように、「判決や決定を乗り越えて『市民の拠出での解決を実現した市民の運動』は、(政治を変える)歴史的なたたかいのさきがけと言える」のは確かである。それはまた、憲法が希求する「地方自治の本旨」の具体的な実践例でもある。
 スラップ(恫喝)訴訟によって、市民運動や自治体の自立的な運営などの手を縛ろうとする権力側の企みが、一段と強まっている。そうした中でも、ひるむことなく前へ進もうとする市民たちに明日への展望と、大きなエールを送る1冊だ。
(自治体研究社1300円)

栩木 誠

治安維持法と共謀罪

内田博文
治安維持法と共謀罪
国民の人権と個人の尊厳を奪う「準戦時治安法制」の危険
 1941年、アジア・太平洋戦争に突入する前夜、天皇制政府は、治安維持法を全面改悪して、「非日本的な共産主義、社会主義、民主主義、自由主義、個人主義、反戦主義を根こそぎ奪う」ために、「国体の変革、「私有財産制度否認の目的の結社」のみならず、これを「準備する結社」「支援する結社」の「目的遂行のためにする行為」までも厳罰に処することにしました。こうして、「自由な言論も、自由な社会」もなくなりました。
 著者は、本書において刑法学の立場から、「歴史的なものを理論化する」方法論を用い、この戦前・戦中の治安維持法など戦時治安法を俎上にのせて、果敢にその運用を検証し総括します。
 そして、日本国憲法の下でも、違憲立法審査権、三審制、弁護権などが国民の人権と個人の尊厳を擁護し救済する機能を果たしていないことを、私たちの前に赤裸々に告発して、特定秘密保護法、共謀罪など「準戦時治安法制」のいっそうの危険を訴えています。
 著者は、別著(『刑法と戦争』みすず書房2015年)で、「量の民主主義(多数決)は「悪法」を作る」といい、人間の尊厳と少数者の権利を守るための「質の民主主義」をどう立ち上げるかと問いかけていますが、本書では、日本国憲法の保障する諸権利を行使して、反対し抵抗する意欲と力と勇気を持とうと結んでいます。
 平和、自由、民主、正義と真理を尊ぶ皆さんに是非ご一読をお勧めしたい一冊です。
(岩波新書840円)

増本一彦(治安維持法犠牲者国家賠償要求同盟中央本部会長)

追及力

権力の暴走を食い止める
望月衣塑子・森ゆうこ
追及力
今こそ大切なシンプルに核心を突くこと
 森友・加計問題、詩織さん事件…。安倍政権の「国家の私物化3点セット」疑惑に新聞記者、野党議員それぞれの立場で鋭く切り込む対談。
 「『追及力』は政治家や記者だけのものではない」と、2人が語る問題意識と姿勢は、立場を超えて共通する。それが本書を、国会の一強多弱に乗じて暴走する権力に抗す記者と野党議員の奮闘記に終わらないものにしている。
 序章「私たちの原点」から第一章「森友・加計の真実を求めて」、第二章「権力の暴走を食い止めるために」、第三章「問う技術」、第四章「『国難』の本質を衝く」、終章「出る杭として打たれても」の各章で語りあう内容は、この国を覆う歴史修正主義勢力がもたらした現実の生々しい証言だ。
 加計問題で菅官房長官への鋭い追及で注目を浴びた望月記者は、バッシングや脅迫、ネトウヨに加え一部の新聞にはネガティブキャンペーンの標的にされた。国会で加計問題を追及した森議員もまた、ネットで叩かれ、非通知電話やFAXで組織的な攻撃にさらされた。だが、2人はめげない。
 間違いを見つけたとき、それを糺すには勇気が必要だ。最初は孤独でも、頑張って声を出す。次第に弱気は克服され、シンプルにストレートに核心を突く力が湧いてくる。それが「追及力」だ。
 本書は「おかしいをおかしいと言い続ける大切さ」を教えてくれる。ジャーナリストを目指す若者から、暮らしの場で問題に取り組む多くの市民まで、何よりも主権者として、日本が民主主義の国であることを願う全ての人に、一読を勧めたい。
(光文社新書760円)

廣瀬 功

民意と歩む

議会再生
北日本新聞社編集局編
民意と歩む
綿密な調査報道と民意で地方議員の「政活費」不正を追及
 富山市議会の議員報酬を月額60万円から70万円に引き上げる「お手盛り」要求が、議会の総意として出された。その違和感と疑問が本書の全ての始まりだった。
 まず社会部の“別動隊”が調査を始めると、県議会副議長の政活費不正が発覚、北日本新聞の一面トップを飾る。富山市議からも不正が見つかる。さらに高岡市にも広がり、ドミノ辞職は18人に及んだ。その不正額は3議会で6525万円。
 新聞紙面に記者たちの精力的な取材と熱い思いがあふれ、詳細なデータと論評によって、読者との共感が広がった。前代未聞の議員辞職連鎖へと追い込んだのは、徹底した調査報道と読者・市民の共感があったからだ。
 住民が自治体や議会に要望を伝える手段としての「請願」にしても、議員の紹介が必要で、議題への「採択」は、議員採決に委ねられる。
 富山市議会への請願は4年間に41件、そのうち採択は2件。採択率はわずか5%。多数派議員に不都合な案件は、「却下」。この事態は市民の怒りを買う火種となった。
 議会の常識は住民の非常識─この言葉が実感となる。これを糺すには情報公開と住民たちの監視の目が不可欠だ。その第一歩はジャーナリズムの権力監視という使命である。改めて教えられる。
 北日本新聞とチューリップTVが先陣を切り、他社を巻き込んだ調査報道には、昨年、両社にJCJ賞が贈られた。いま永田町を軸に、民主主義が危うくなる事態に、地方から監視の灯を強める調査報道には頭の下がる思いだ。
(北日本新聞社1600円)

伊藤洋子(福井在住ジャーナリスト)