お薦め本紹介

お薦め本紹介(2018年3月)

お薦め本紹介(2018年3月)
・戦争と放送
・ぼくたちはこの国をこんなふうに愛することに決めた
・終活期の安倍政権
・東電原発裁判
・日本列島の全原発が危ない!

戦争と放送

竹山昭子
戦争と放送
膨大な資料を駆使して戦時下の放送の実相を明かす
 NHKの歴史を追求してきた著者が、研究の総まとめとした著作。太平洋戦争中NHKは、軍国政府の強烈な宣伝機関の役割を務めてきた。その実態を、発掘した膨大な原史料から明かす。
 冒頭の「序」は、著者が追い続けてきた「”公共放送”の名のもと、NHKが戦時下に果たした役割」を集約的に活写している。
 第1章「戦争プロパガンダの実相」はナチスドイツのラジオ政策の研究とその実践的活用が語られる。「調査時報」(NHK内部誌)が、いかに熱心にドイツ事情を調査したかは驚嘆すべきものがある。
 第2章は「放送への国民の反応」。NHKのラジオ放送に対する、国民の圧倒的賛美と、終戦直前から現れる批判の両面を描きながら、民意の反映が希薄だった点が立証される。情報局が最も重視した政府要人・軍人の講演集「国民に次ぐ」に対する聴取者の反応の冷やかさは注目に値する。
 第3章は「㊙敵性情報と原爆投下」。外国放送傍受によって正確に事態を把握、内閣情報局に提供したにも関わらず、敗戦への動き、原爆投下とその被害について、報道ではほとんど伝えられることがなかったことも明らかにされた。
 第4章「戦争の終結と放送」では、「玉音放送」の計画から実践までの経緯が詳細に記述される。著者は多数の文化人の証言から、玉音放送が「戦争を終結させる儀式だった」と結論づける。戦後NHKは180度転換、民主主義を鼓吹したが、「上からの指示待ち」の姿勢は温存され現在に至る。
 膨大な資料を駆使して戦時下の放送の実相を明かした本書は、ジャーナリストが座右の銘とすべき力作。
(吉川弘文館2592円)

隅井孝雄(NPO京都コミュニティー放送副理事長)

ぼくたちはこの国をこんなふうに愛することに決めた

高橋源一郎
ぼくたちはこの国をこんなふうに愛することに決めた
目がハッと見開かれる子供たちが作る「くに」の姿
 おもしろい! なんてったっておもしろい。子どもたちが「くに」を作っちゃうって話。「国」じゃなくて「くに」を。
 主人公はいちおうランちゃん。おとうさんは小説家で、おかあさんは昔、シブヤやショウナンではちょいと知られた存在。弟のキイちゃんは、ちょっとひ弱という家族。
 ランちゃんは、学校仲間のアッちゃん、ユウジシャチョウ、リョウマと4人で、なんと「くにづくりプロジェクト」を立ち上げちゃう。この子どもたちの学校ってのが、またおもしろくて、そんなプロジェクトを自由にやらせてくれるんだ。
 ここのおとなたち(先生)もステキだ。園長のハラさん、いつもヒマそうに居眠りしている。でもなんとなくいつでもみんなのそばにいてくれる。なんかあると必ずやってきて、別になにを話すでもなく、じっとその子の話に耳を傾けてくれる。
 それに肝太先生と理想先生。いいこと言うんだなあ。こんな学校があったら、だれだって入りたくなる。例えば運動会、整列も行進もなし。みんな一緒だけれど、みんな違うんだからそれでいい。いいでしょ?
 「くに」には「憲法」が必要。というわけでみんなで「憲法づくり」に精を出す。すると、憲法9条のことや無人島で争う尖閣諸島や竹島のもんだいも絡んできちゃう、という仕掛け。そして、4人だけだった「くに」に@アイと雪の女王ちゃんが連絡して来て、やがて「名前のないくに(仮)」が建国される。
 最後に書かれている「建国のことば」までたどりついたとき、読む人たちの目がハッと見開かれるのは間違いない。著者が言うように、これはいまの時代の『君たちはどう生きるか』なんだよ。
(集英社新書860円)

鈴木耕(編集者)

終活期の安倍政権

ポスト・アベ政治へのプレリュード
二宮厚美
終活期の安倍政権
アベノミクスの異常性を解明しどん詰まり政策へ終止符を打つ道
 とっくに賞味期限切れとなりながら、シールを次々と付け替え、国民を幻惑し続ける「アベノミクスの3本の矢(金融緩和、財政出動、成長戦略)」。その破たんは、多くの経済学者やエコノミストが厳しく指摘している。
 「安倍政権」がすでに「終活期」に入っている実態を理論的に証したのが本書である。2016年秋の総選挙後に第2ラウンドに突入した「終活期の安倍政権」の性格と構造を鋭く抉り、国民的攻防戦の構図を巧みな比喩を駆使して解き明かしている。
 著者は、安倍政権の異常(アブノーマル)を「アベノーマル」と喝破する。安倍政権の、まさにアブノーマル=異常性に迫ると共に、アベノミクスがどのような対策を講じてきたか、また今後いかなる対応策で逃げ切ろうとしているかを解明する。
 浜矩子・同志社大学教授が名づけた「どアホノミクス」など、アベノミクスの形容詞は数多い。著者もまた、安倍政権の政策は、不況の原因とデフレという結果の因果関係を取り違える「アベコべミクス」だと指摘する。
 初めから賞味期限切れであったアベノミクスを、いくらお色直し、再化粧したとしても、出口のない絶望の迷路と悪循環から脱することはできないのははっきりしている。
 本書は、再任が必至とされる黒田東彦総裁率いる日本銀行やアベノミクスの意味不明な「業界用語」の誇大包装を紐解き、金融政策と経済問題の本質、終活期の「アベ政治」の矛盾を明解に分析している。ポスト・アベ政治への「プレリュード(前奏曲)」を奏でる1冊。
(新日本出版社2300円)

栩木誠

東電原発裁判

福島原発事故の責任を問う
添田孝史
東電原発裁判
原発の津波対策をサボった東電の責任
 昨年6月、福島原発事故の東京電力の刑事責任を追及する唯一の裁判が東京地裁で始まった。原告は、福島県民ら1万4千人からなる「福島原発告訴団」。検察が2度不起訴処分にしたが、検察審査会の議決で、やっと公判の道が開かれた。
 本書は、事故後に政府や国会が行った調査やこれまでの裁判、著者自らの情報公開請求などで明らかになった資料を基に東電がどのように津波対策を先送りしてきたかを検証した調査報道だ。
 東日本大震災に先立つ2002年、政府の「地震調査研究推進本部」が福島県沖でM8・2前後の津波地震が30年以内に20%の確率で発生する可能性を公表した。2006年、原子力安全委員会は原発の「建築基準法」にあたる「耐震指針」を28年ぶりに改訂した。
 全国の電力会社で原発の耐震安全性を見直す「バックチェック」が始まった。2008年、東電の子会社が「地震本部」の長期評価に従えば、福島第一原発に約15メートルの津波が押し寄せると計算していた。
 しかし2007年に発生した新潟県中越沖地震で、東電の柏崎刈羽原発は全基停止。二期連続で赤字を計上した東電は津波対策の先延ばしを続けた。本書では国策のプルサーマル推進のため、政府機関が東電の「サボり」を見ぬふり、そう疑われる事例も紹介している。
 著者は元朝日新聞科学部記者のサイエンスライター。1997年から原発と震災の取材を続け、2011年からフリーランスに。福島原発事故の国会事故調査委で協力調査員として津波分野を担当した経歴を持つ。
(岩波新書780円)

川村フミコ(JCJ北海道支部)

日本列島の全原発が危ない!

広瀬隆 白熱授業
DAYS JAPAN 1月増刊号
日本列島の全原発が危ない!
原発を襲う大地震がいつ起きてもおかしくない日本沿岸のプレート
 次なる原発事故、核災害の予言の書。福島県沖から九州と日本列島を縦断する1千キロの巨大活断層「中央構造線」が地震激動期に入った。加えて津波、活火山、そしてテロの危険が迫る。原発や核燃料再処理工場の大惨事が日本のどこで起きてもおかしくない時代。
 著者は10年前に岩手・宮城内陸地震が「日本に原発を建設・運転できる適地はないことを知らしめ」たと指摘。国の原発政策、事業者の問題を挙げ、破局を避けるには原発を再稼働せず停止・廃炉にした上、応急処置として高レベル廃棄物を含んだ使用済み核燃料の乾式貯蔵をと説く。
 何もしなければ、最悪のシナリオ―施設爆発で高レベル廃液が全量放出され、「日本とアジア全土が世界地図から消える」と、センセーショナルな宣告をする。
 これまで予測が当たってきた理由を尋ねると「内心の恐怖と、地球規模で問題を見ているからだ」と著者はいう。九州の群発地震、台湾大地震が続いた。昨年9月に中南米で連続した地震と海底マグマの噴出は、日本の地震に影響を与える地球内部のマントルの動きであり、日本沿岸のプレートは、いつ大地震が起きてもおかしくない状態だとみなしている。
 福島第一原発事故から7年。高度な科学技術が容易に凶器になり得る現代、人間は生き残りをかけて、どんな直感と叡智で行動するのか。福島原発事故の避難者の存在が無視され、次の核災害まで避難の妥当性を認めないとしたら遅すぎる。あとがきの「重罪弾劾」は圧巻。「広瀬節」は絶好調。
(デイズジャパン2150円)

藍原寛子(ジャーナリスト)