お薦め本紹介

お薦め本紹介(2018年6月)

お薦め本紹介(2018年6月)
・ここまできた小選挙区制の弊害
・「北朝鮮の脅威」のカラクリ
・公文書問題
・清流に殉じた漁協組合長
・13歳からの教育勅語

ここまできた小選挙区制の弊害

アベ「独裁」政権誕生の元凶を廃止しよう
上脇博之
ここまできた小選挙区制の弊害
民意を正しく国会に反映するためにいまこそ全国比例代表制の導入を
 国有地入払い下げをめぐる森友問題での決裁文書の改ざんや首相案件と明記された愛媛県文書で、再び火を噴いた「改ざん・隠蔽政局」。
 疑惑の続出にもかかわらず、首相は「膿を出す」と、人ごとのような発言を繰り返す。以前なら、とっくの昔に「自民党の中での政権交代」の動きが出るのだが、政治家まで「ヒラメ」になって反旗を翻さない。
 自民党の中に反乱がないのは、公認権と政治資金を握られ、「1強」に逆らっては当選できない小選挙区制にある。
 昨年10月の総選挙で、多くの国民が痛感したのは小選挙区制の弊害だ。死票は48%、自民党は47・8%の得票で74・4%の議席を獲得した。
 新聞やテレビで論じられた問題から、それをどうしたらいいかまで整理したのが本書である。「『小選挙区制』を何とかしないと、日本の政治は変わらない」との熱き思いが貫いている。
 著者は憲法の立場から「政治とカネ」に関わる選挙制度の問題点を明らかにし、憲法が予定している選挙制度とは何か、去年の解散は憲法違反である、と追求してきた。森友問題でも財務局と学園との交渉記録を情報公開するよう求めてきた。
 本書では、①衆参の選挙制度の仕組み②衆院小選挙区と参院選挙区選挙の問題点③立憲主義・民意の蹂躙、国民生活の破壊④憲法が禁止・要求している選挙制度⑤議員定数削減と改憲論批判、選挙制度改革試案―を体系的に解説、問題の所在と考え方を示している。
 衆院は定数600、参院は300の比例代表にし、供託金も大幅に引き下げ、比例立候補のための要件も改正を、とする筆者の試案は、まじめに検討する必要がある。
(あけび書房1200円)

丸山重威

「北朝鮮の脅威」のカラクリ

変質する日本の安保政策
半田 滋
「北朝鮮の脅威」のカラクリ
Jアラートによる避難訓練など、脅威キャンペーンの不毛を衝く
 3月6日に刊行の本書末尾は、「平昌冬季五輪をきっかけにようやく南北対話が再開された」と結ばれる。だが翌月には、もう「板門店宣言」が出され、「米朝首脳会談」への期待と共に「北朝鮮の脅威」に根源的な変化が訪れようとしている。
 この流れは、合意に至らなかったレイキャビック会談(1986年、レーガン・ゴルバチョフ会談)の再現に終わるか、それとも東西冷戦終結を謳ったマルタ宣言(1989年、ブッシュ・ゴルバチョフ声明)につながるか、現時点では不明だ。
 しかし東アジアに残された最後の冷戦遺構に終止符を打つ動きとなるのはたしか。だが日本は、いぜん「終わりの始まり」の外にいる。Jアラートによるミサイル避難訓練が、なお各地で継続され、敵基地攻撃能力をもつ新兵器導入など、「対話拒否・圧力一辺倒」の政策に基づく新年度予算が計上されている。防衛相は地上配備イージス・アショアを予定どおり建設すると明言した。
 なぜ、このような<周回遅れ>が起きたのか? 第1章で北朝鮮の核・弾道ミサイル開発史を辿り、日本が米国のミサイル防衛の第一線に位置づけられる過程を詳述する。
 第2章は安倍政権のもと<印象操作>による脅威キャンペーンが、国民を金縛りにしていった楽屋裏を説得的に解明し、第3章の「北朝鮮の脅威」にどう向き合うか─では「脅威対抗型安全保障」からの脱却を説く。
朝鮮半島情勢を理解するうえで役立つ情報が詰まったコンパクトな書。
(岩波ブックレット520円)

前田哲男(軍事ジャーナリスト)

公文書問題

日本の「闇」の核心
瀬畑 源
公文書問題
具体的な政治案件を俎上にのせ公文書廃棄への「抜け道」を追究する
 公文書管理とは何か、なぜそれが大切なのか。説明の分かりやすさで本書は抜きんでている。理由の一つは、具体的なニュースに即して、叙述されているからだろう。
 森友・加計両学園、陸上自衛隊の南スーダンPKO日報、特定秘密保護法、環太平洋パートナーシップ(TPP)協定交渉に始まり、内閣法制局が集団的自衛権行使を容認する憲法解釈変更の協議記録を残していなかった問題など、メディアを賑わしたニュースについて、公文書管理の観点から何が問題なのかを平易な言葉で説き明かす。
 たとえばPKO日報が「廃棄」後に見つかった事例や、当初は財務省が森友関連文書を廃棄したとする説明の背景に関しては、行政側が「軽微」と判断した文書は、事実上、自由に捨てることができる「抜け道」があると指摘する。
 「保存期間を『一年未満』『一年』『三年』といった短めに設定し、期間が満了したら『廃棄』扱いにする。そして『廃棄した文書』を、こっそり内部で抱え込むことで、公文書管理法や情報公開法の適用を逃れようとする手口。そうすれば、情報公開請求を受けても『廃棄済なので不存在』と『合法的』に言える」
 著者の「本業」は日本近現代史の研究者である。天皇制研究のために、情報公開制度を使ったことが、公文書問題に興味を持つきかっけとなった。
 本書にも随所に歴史的な視点がちりばめられ、深く理解するうえで助けとなる。何より公文書管理や情報公開制度について、利用者として、あるいは主権者としての視点が貫かれているところに、本書の分かりやすさの根底があるように思う。
(集英社新書740円)

日下部 聡(毎日新聞記者)

清流に殉じた漁協組合長

相川俊英
清流に殉じた漁協組合長
アユが生息する清流にダム建設 痛ましい結末の背景に迫るルポ
 哀しい本だなあ…。読後の感想である。ひとりの男が自死した。なぜ自死したのか、ジャーナリストが背景を追う。そこに露呈するのは、あまりにありふれたこの国の公共事業の姿だった。
 山形県の最上小国川(もがみおぐにがわ)はアユ釣りの本場として名高い清流である。その上流に「水害対策」としてダム建設案が浮上する。アユ釣りの聖地として、この清流を守るべきと考える漁協組合長は、ダム建設に反対するが、その途上で自死する。ダム賛成派と反対派の板挟み。
 だが結局、裏に潜むのは行政のある種の裏切り。切り崩され孤立していく反対派の人々。むろん、巨大公共事業に絡むさまざまな疑惑も吹き出す。
 この国の公共事業には、必ずつきまとう賛成反対両派の分断による地域感情の対立。それは原発立地自治体で、嫌になるほど見せつけられたお馴染みの光景だ。そして結局は個人の苦悩に収斂され、時にはこんな痛ましい結末を迎える。
 最終の第10章「ごまかしと穴だらけの地方創生」で、著者は行政(山形県)の7つのウソを激しく追及する。
 山形県が作成したチラシには「流水型ダムがアユ等の生息環境に影響が小さいとしても、これまでの『ダムのない川』以上の清流・最上小国川を目指し総合的な取組みを進める」という、ほとんど日本語とは思えない意味不明の文章が躍る。
 実態を誤魔化そうとすれば、実体のない言葉を羅列するしかない。
 著者は口の重い現地の人たちを丹念に訪ね歩き、執拗に地方自治の在り方を問い続ける中で、抱いた怒りが直に伝わってくるルポルタージュである。
(コモンズ1600円)

鈴木耕(編集者)

13歳からの教育勅語

国民に何をもたらしたのか
岩本 努
13歳からの教育勅語
御真影─〝天皇教〟が強いた数多(あまた)の悲劇
 敗戦の年7月3日深夜、姫路市は米軍戦略爆撃機の大空襲を受ける。市内が炎に包まれる中、城陽国民学校の校長と教諭は奉安殿に駆けつけ、御真影と教育勅語を取り出し、避難場所へ向かう。
 途中、焼夷弾が校長の腹部を直撃、「御真影を頼む」と言われ教諭が代わって背負うが、ひん死の校長はなおも虫の息で「御真影は、御真影は」と問い続ける。やむなく御真影をおろして抱かせると「畏れ多くも御真影を包みし白布はために真紅に染まる」…。
 以上はその教諭による手記の一部だ。このように空襲下、御真影と教育勅語を守って殉職したケースは11件に上ると著者は記す。
 帝国憲法で天皇の「神聖不可侵」が確定されて以降、文部省は天皇・皇后の肖像写真「御真影」と教育勅語を全国の学校に下付し、儀式のたびに掲げ、朗読することを定める。以後、校長にはこの二つを命に代えても守る責任が課された。その実例は早くも明治29年、三陸大津波で示され、その後も断続的に続く。
 昭和期に入ると学校の敷地内にミニ神殿が造られ、御真影と教育勅語はそこに安置される。学校が、御真影を神体とし最大の布教の場とされた。
 本書には教育勅語のなりたちや内容も平明に解説されている。しかしその三分の二は、先述のような御真影と教育勅語謄本を守って殉死した教員の叙述に割かれている。
 そのことが近代日本の天皇崇拝がまさに〝天皇教〟だったことを実証すると著者が考えているからであろう。
(かもがわ出版1600円)

梅田正己(歴史研究者)