お薦め本紹介

お薦め本紹介(2018年7月)

お薦め本紹介(2018年7月)
・内部告発てんまつ記
・国体論
・96歳 元海軍兵の「遺言」
・しあわせの牛乳
・地図から消される街

内部告発てんまつ記

原子力規制庁の場合
松田文夫
内部告発てんまつ記 原子力規制庁の実態と不正入札を告発
 原子力規制委員会と、その実務部隊である原子力規制庁の実態を内部から描いたドキュメント。入札をめぐる著者の内部告発が、ぞんざいに扱われた様子を縦軸に、意思決定の状況と人々の仕事ぶりが具体的に描かれる。
 著者は企業を経て、原子力安全・保安院に採用され、規制庁の技術参与に就いていた時に、本書をまとめた。技術参与とは定年後の職員の再雇用ポストだそうだ。
 規制庁は2012年に発足した約千人の組織。看板こそ変わったものの、内実は福島原発事故が起きる前に、原子力規制を担ってきた保安院や原子力安全委員会、原子力安全基盤機構(JNES)を「寄せ集めた」組織だという。
 うちJNES出身者が約4分の1と最多を占め、内部告発の対象となったのもJNESが母体の部局だ。著者は、その仕事ぶりをこんな戯れ歌にしている。「あふれ出る原子力村の不用者を収容するためJNESができた」。
 福島の子どもたちに甲状腺がんが多く見つかっている。原発事故が原因と認めようとしない「福島の医者と役人」を強く批判し、「私のいる規制庁も、同じ恥ずべき列に並んでいる」という。その「罪」もあって、規制委、規制庁が原発再稼働を認めている姿勢は、正しくないと断ずる。
 「真摯に規制業務に取り組む職員が、階層・年代を問わず存在する」事実も触れている。しかし、大事故を引き起こしても、日本の原子力規制組織は、少しも変わっていない。そこに原子力村の腐敗の深さを実感した。
(七つ森書館1800円)

添田孝史(科学ジャーナリスト)

国体論

菊と星条旗
白井 聰
国体論 菊と星条旗の結合を通して対米隷属・日本の「国体」が誕生
 正直に言って、私は「国体」など考えたことがなかった。敗戦と同時に消え失せたものとばかり思っていた。天皇が「統帥権」を喪失した段階で、国体は「国民体育大会」の略称に萎んだはずだった。ところが本書を読んで考え込んでしまった。
 現代日本の対米隷属のあまりの惨状を読み解くには、ピッタリな言葉がこれだったのだ。なぜ日本がかくまで星条旗に跪くのか。それを誰も不思議に思わぬばかりか、沖縄の米軍基地強化にみられるように、なぜ次々に貢物を差し出すのか。「天皇」の代替に「米国」を数式に代入してみれば、その疑問は解けていく。だが事は単純じゃない。
 天皇自身が、現在の政権(安倍と言い換えても可)への闘争宣言ともいえる「お言葉」を、なぜ発しなければならなかったか、解読が鮮やかだ。
 明治という近代国家の形成期を過ぎ、天皇と臣民という疑似家族がつくられ、やがてそれは「国体」として絶対服従のシステムの構築に至る。統治機能の絶対化である。
 ところが敗戦により、もろくも崩れ去る。「第四章 菊と星条旗の結合」で、「戦後の国体の起源」という新しい視座が示される。この辺りから、私は目が離せなくなった。
 つまり「アメリカの日本」としての「戦後の国体」という選択こそが、この異様なほどの対米隷属日本の在り様に、そしてついに「発狂した奴隷たち」と、為政側にある人達への痛烈な批判に辿り着く。いま憲法9条と日米安保体制の狭間の矛盾が火を吹きだしている。
(集英社新書940円)

鈴木 耕(編集者)

96歳 元海軍兵の「遺言」

瀧本邦慶(聞き手:下地 毅)
96歳 元海軍兵の「遺言」 今も昔も戦場に行かされるのは若者「国にだまされるな」─美辞麗句の裏側
 敗戦時に20歳だった若者は、今年で93歳になる。95歳以上の人口比は0・38%にすぎず、軍人の戦争体験者は、ほとんどいなくなる。本書はその貴重な証言だ。
 著者の瀧本さんは、1939年に17歳で佐世保海兵団に志願入隊。以来、空母「飛龍」の艦上機の整備兵として、真珠湾攻撃(41年12月)やミッドウェー海戦(42年6月)などの歴史的な現場に立ち会い、戦争末期には南洋群島のトラック島に送り込まれ(43年12月)、米機動部隊による大空襲を体験した。
 本書の特徴は、武勇伝が全くないうえに、最下級の四等水兵から下士官になった一平卒の目で、戦場の実態が、リアルに語られていることだ。
 下士官と古参兵の世話に追われる「内務」生活、軍人勅諭と海軍刑法での絶対服従といじめ、ミッドウェー大敗を隠す大本営発表と生存者の監禁・南方戦線への送り出し。
 内地から食糧補給が途絶した後の栄養失調・飢餓地獄。推定140万人の兵士が餓死したという。国や海軍は下っ端の兵卒を人間扱いせず、いくらでも補充がきく備品とみていると、著者は喝破する。
 復員後、著者は自分の戦争体験を熟考し、天皇の戦争責任や憲法9条を考え抜く。そして80歳をこえて「語り部」の活動を始めた。第一次安倍内閣以後の戦争への道への危機感からだ。
 「国にだまされるな」―これが著者の若者への「遺言」である。戦場に行くのは若者であり、国は「美しいことば」で若者をだます、と。
(朝日新聞出版1400円)

菅原正伯

しあわせの牛乳

佐藤 慧・文
安田菜津紀・写真
しあわせの牛乳 大自然の中で牛を育て放牧酪農に励む男の姿に迫る
 「牛乳が幸せになる」?表題に首を傾げた人も、牛乳を出す牛が「幸せになる」と分かれば納得。
 プロローグで「牛乳はどうやって作られる?」と問う。答えは「日本の牛たちは狭い牛舎で暮らし、牛乳パックの絵にある光景は見られない」と明かす。日本の牛は圧倒的に不幸せなのである。
 そんな不幸せな牛に比べ、「自由に大自然の中で暮らしている」牛が、岩手県の牧場にいる。そこが、放牧酪農・山地(やまち)酪農の牧場、この本の舞台である。
 牧場長・中洞(なかほら)正さんは、1952年岩手県宮古市の生まれ。高校1年の時、埼玉の牧場を見学し、百頭もの牛が、狭い牛舎で外に出ることもなく暮らすのが近代酪農だと教えられた。
 しかし、1965年には「アニマルウェルフェア(動物福祉)」の考え方が、すでに英国で提唱されていた。また中洞さんが東京農業大学に入り、映画「山地酪農に挑む」を見たのもその頃だ。
 卒業後、5ヘクタールのジャングル牧場を始め、1982年には7千万円も借金し、50ヘクタールに広げ、「なかほら牧場」が産声をあげた。
 だが理想の実現は簡単ではない。気温零下20度の放牧、乳脂肪3・5%の壁など難問が続いた。何とか、しぼりたて牛乳の訪問販売を試み、購買客を増やした。
 さらに低温保持殺菌法を取り入れ、ガラス瓶容器を導入するなど、様々な工夫が功を奏し、1992年に「なかほら牧場牛乳」が誕生した。
 これで、「牛もしあわせ!おれもしあわせ!」が始まり、「しあわせの牛乳」が出来上がる物語となった。
(ポプラ社1200円)

酒井憲太郎(フォトジャーナリスト・元朝日新聞写真部記者)

地図から消される街

3.11後の「言ってはいけない真実」
青木美希
地図から消される街 福島復興と帰還─その背後に潜む偽装除染という病巣を抉る
 被災から7年、福島の復興は遅々として進まず、問題が山積み。その原因は、原発を巡る歪んだシステムにある。
 この闇に包まれた病巣に切り込み、真実を知ろうと戦った一人の新聞記者の記録が本書である。
 今、福島県では避難した住民を、元の自治体に帰還させようと、嵐のような風が吹いている。
 原発を推進した国が、住民に危険の残る地域へ帰れと迫る、恐るべき構図。その根にあるのは、原発を残すという国の大方針であると、著者は気がつく。
 ここから大方針を堅持するために配置された、いびつな装置の実態に順番に切り込んでいく。
 除染とは、帰還を進める目的のアリバイ作りではないのか。その揚げ句に生まれた偽装除染。
 2013年、南相馬市一帯の水田の米から、放射能汚染が見つかる。福島第一原発のがれき撤去の影響ではないか。いぶかる農民たちに、国は可能性を否定し続ける。
 安全確保の番人として生まれた原子力規制委員会も、実は原発政策を進める経済産業省の意向を受けていた。ある学者が「それでも安全」と主張する当時の田中俊一委員長に投げ付けた言葉は強烈だ。「学説を査読付きの論文にまとめて、世界に問うたらどうだ」
 また「経産省は、東京電力を必ず存続させる」と告白した元経産官僚もいた。「東電が破綻すれば、賠償責任を経産省が負うことになるからだ」
 著者は、偽装除染をスクープした朝日新聞の取材班の一員として、新聞協会賞を受賞している。まさに地べたを這うような取材を積み上げる手法には、定評がある。
(講談社現代新書920円)

坂本充孝(東京新聞編集委員)