今週のひと言

ろう者の視点で寄り添う

 音のない世界に生きる、ろう者の心情を描いた仏のドキュメンタリー映画「ヴァンサンへの手紙」の監督で映像作家のレティシア・カートンさんが今週、来日した。表現豊かな手話を禁じられ、厳しい口話教育を受けて「話すこと」を求められるなど、聴者社会のなかで苦しんできた人々が、自分たちの「ろう文化」を取り戻そうと懸命に生きる姿を追っている。
 フランスでも「耳が聞こえない家系を絶つために」と、ろう者の子どもを産んだ母親が不妊手術を強制される実態があった。映画に登場する活動家は、ろう者の団結を示そうとパリからミラノまでのデモ行進を企画した。プレスリリースをつくり、記者会見も準備したものの、会見に現れた記者は一人もいなかった。
「ろう者の尊厳や権利の問題には関心がない。あるいは優先順位が低い。それが私のマスメディアに対する評価です」とカートンさんは話す。
 友人のろう者の男性が自ら命を絶ったことが、ろう者の内面に向き合うきっかけとなった。その男性の名前がヴァンサンだ。3年前に完成し、フランスでの観客動員数は2万人以上。日本での公開は10月で、ろう者の映画監督、牧原依里さんがクラウドファンディングなどで資金を集め、映画の買い付けを行った。
「この映画は私の人生そのもの」と牧原さん。
 原題の邦訳は「ろう者の視点であなたに寄り添う」。自分と異なる世界に生きる人々の心を思い、違いを受け入れる。メディアの記者たちが、この社会を見つめ、報道するときにも必要なことだ。