お薦め本紹介

お薦め本紹介(2018年8月

お薦め本紹介(2018年8月)
・陸軍中野学校と沖縄戦
・戦争とこころ
・ゲッベルスと私-ナチ宣伝相秘書の独白
・面従腹背
・ファシスタたらんとした者
・職業としての編集者
・東学農民戦争と日本-もう一つの日清戦争
・福沢諭吉著作集・第8巻
・飯舘を掘る
・広告が憲法を殺す日

いま戦争を問う、その代償を払うのは誰?

大矢英代(ジャーナリスト)



大矢英代
 ドキュメンタリー映画「沖縄スパイ戦史」の劇場公開が始まった。私と同じ琉球朝日放送出身の三上智恵さんとの共同監督作品だ。砲弾が降り注ぐ沖縄本島南部の地上戦ではなく、その背後で繰り広げられた裏の戦争「秘密戦」に迫った。
 川満彰『陸軍中野学校と沖縄戦–知られざる少年兵「護郷隊」』(吉川弘文館)は「秘密戦」の担い手にされた沖縄の少年兵たちの実態を明かす。
陸軍中野学校と沖縄戦
 彼らにゲリラ戦、スパイ戦を仕込んだのは「陸軍中野学校」のエリート将兵たちで、沖縄戦に送り込まれたのは全部で42人。秘密のベールに隠されていた任務から、軍隊が住民を作戦に利用し、銃を取らせて戦わせた沖縄戦の真の姿が浮き彫りになる。
 沖縄戦・精神保健研究会『戦争とこころ』(沖縄タイムス社)は、地獄の戦場を生き抜いた人たちのトラウマやPTSDについて、14人の医師、研究者、記者、体験者たちの視点を通して伝える。
 戦場で死体を踏んでしまった感触が戦後も足裏に残り続けるおばあちゃん。日本兵に壕を追い出された時の心の傷。私たちが「戦後73年」と言っている間も、戦争体験者たちには一度たりとも戦後は訪れていない。
 だが、ここで私たちは問わねばならない。民衆を苦しめる戦争は、一体誰が起こすのか。
 同題映画の原作を翻訳した『ゲッベルスと私-ナチ宣伝相秘書の独白』(紀伊国屋書店)は、その問いを直に私たちに投げ掛ける。本書はナチス政権の中枢、ゲッベルスの秘書を務めたドイツ人女性の回顧録である。
 「私たちは何も知らなかった…罪はない」という彼女の言葉を社会学者ハイゼン氏はこう批判する。「彼女が確信的ナチだったかどうかは、この際、重要ではない…倫理的には見ないふりをすることだけでも罪がある」と。
 胸に手を当てて考えてみる。目を瞑ることも、耳を塞ぐことも私たちの自由である。先の戦争から教訓や体験を学ばないという選択もある。しかしその代償を払うのもまた、必ず私たちなのだと。

自分の思いを一個の人間として貫く「重さ」

寺脇 研(京都造形芸術大学客員教授)



寺脇 研
 この一年、わたしが最も多く付き合ってきたのは、昨年1月に天下り問題で、文部科学省事務次官を辞任した前川喜平さんである。
 退官後、加計学園問題で敢然と政府批判に立ち上がり、連日のように各地の講演などで大胆な発言を繰り返している。その人気はたいへんなもので、千人を超す聴衆を集めるのはざらだ。
 文部省(当時)に4年先に入省したわたしは、彼の入省時からずっと親しく付き合ってきた。その流れに沿って、彼が声をあげた昨年来、共に戦列を組んで活動している。
面従腹背
 初めての単著が前川喜平『面従腹背』(毎日新聞出版)だ。役人として在職当時、政治家や組織に服従したように見せつつ、可能な限り自分の思いを通してきた職業的信条がタイトルになっている。
 綴られるのは加計問題にとどまらず、憲法や教育に対する自身の考え方、さらには社会の中での己の生き方にまで及ぶ。
 また、河合隼雄と並んでわたしが「人生の師」と仰いできたのが西部邁だ。ご両人とも、思想上というよりは人の生きる術を学ばせてくれる存在だった。
 左翼サイドからは「転向者」呼ばわりされ、右翼サイドからも異論を唱えられることが少なくなかった。それは、左翼でも右翼でもなく一個の人間として自分の考えを貫き通したからだろう。
 遺著の西部邁『保守の遺言』(平凡社新書)や『保守の真髄』(講談社現代新書)にも、彼の思考は深く滲むが、人間・西部邁を一番深く刻んでいるのは、西部邁『ファシスタたらんとした者』(中央公論新社)だろう。
 自伝の形で幼少時からの思想遍歴を辿ることが、敗戦から60年安保闘争、高度経済成長、バブル、バブル崩壊、そして新自由主義が跋扈する現在に至る、この社会の現代史と鮮やかに交錯していく。刺激的な一冊だ。

韓国民衆の背景には東学農民軍の闘いがある

梅田正己(歴史研究者)



梅田正己
 いま話題の『君たちはどう生きるか』の著者には、吉野源三郎『職業としての編集者』(岩波新書)の一冊がある。
 「編集者の仕事」「ジャーナリストとして」ほかの数編で構成されるが、圧巻は敗戦の年の暮れに創刊された雑誌『世界』の初代編集長となって遭遇した一件を述べた「終戦直後の津田先生」だ。
 戦時下、出版法違反(皇室の尊厳を冒涜)で起訴され、日本神話の虚構を論証した『神代史の研究』以下4冊が、発禁処分を受けた津田左右吉の『世界』原稿をめぐって書いた一編である。
 進歩と反動がぶつかりあう時代の激流の中、進歩派の期待を裏切るこの大先生の原稿を受け取って、吉野編集長がとった行動は、ジャーナリストのあり方についての示唆を、深い共感とともに伝えてくれる。吉野さんは1955年、JCJ創立時の初代議長である。
東学農民戦争と日本
 中塚明・井上勝生・朴孟洙『東学農民戦争と日本-もう一つの日清戦争』(高文研)に書かれた歴史的事実は、ほとんど知られていない。だがそれは一般の歴史観と朝鮮観をくつがえすほど重い。
 日清戦争は清国との戦いだとされている。実は日本軍は朝鮮人民とも戦ったのだ。朝鮮に出兵した日本軍に対し朝鮮全土で蜂起した農民の数は三百万とも。その結果、日清戦争で最大の戦死者を出したのは日本でも清国でもなく朝鮮だった。
 ソウルの都心を数十万の蝋燭デモで埋めて、私欲にまみれた朴槿恵政権を引きずりおろした韓国民衆の背景には、農具を武器に戦ったこの東学農民軍の壮絶な歴史が横たわっているのである。
 『福沢諭吉著作集・第8巻』(慶應大学)をすすめるのは「時事小言」が含まれているからだ。
 福沢の実像は、この20年の間に徐々に知られてきたが、先駆的民主主義者のイメージは今なお強い。だが福沢は『文明論之概略』を書いてほどなく帝国主義者へと転身した。「時事小言」は明治政府の「強兵富国」を先導した帝国主義論である。

飯舘を掘る

天明の飢饉と福島原発
佐藤昌明
現在と過去を丹念につなぐ取材で浮き彫りになる「飯舘の苦悩」
 福島県飯舘村は、東京電力福島第一原発から北西に30キロほど離れた田園地帯にある。原発で働く人も少なく、原発交付金を受けているわけではない。原発とは縁の薄いのどかな山村だった。
 そこに2011年3月11日、東日本大震災による原発事故が起きる。放射性物質が北西への風に乗って、飯舘に流れ込み、全村避難という手痛いダメージをこうむった。
 飯舘村出身で、長年、仙台市の新聞社で記者を務めてきた著者にとって、原発事故は衝撃だった。仕事の傍ら、小中学校の同級生ら村の人々から聞き書きを続けた。突然の災難に対する村民の肉声が盛り込まれている。
 「(原発事故の)あの日を境に、私の人生全てが変わった。でも愚痴は言わない」とつぶやく同級生の言葉が、重く響く。
 冷害が続く土地で米作に代わって始められた酪農。その肉牛や乳牛も、多くが殺処分となった。酪農家の同級生が「これから何で生計を立てるのか」と嘆く。現在の話ばかりではない。江戸時代には、越後から多くの入植者が飯舘に来て、開墾が進められたことなど、村の「苦難の歴史」も詳述されている。
 福島出身の私も、飯舘には何度か取材に訪れた。東京から取材に入った知り合いの記者が「アルプスの少女・ハイジが出てきそうな村」と話していたが、その飯舘が無残にも壊されたことに怒りを感じたのは、私ばかりではないだろう。
 故郷をこよなく愛するベテラン記者は、怒りを抑えつつ、丹念に証言を集め、歴史をひもといた。そうすることで、原発事故の理不尽さが際だってくる。声高ではないが、「飯舘の苦悩」が浮き彫りになる労作だ。
(現代書館1600円)

星 浩(ニュースキャスター)

広告が憲法を殺す日

国民投票とプロパガンダCM
本間龍 南部義典
自民党と電通の密接な関係が、「改憲」への起爆材となる危険!
 改憲を目指す「国民投票法」の欠陥が、対談によって暴かれる。南部氏は、かつて民主党の議員秘書として国民投票法の作成に深く関わってきた。本間氏はプロパガンダ広告に詳しい。
 「国民投票法」をめぐる二人の対話が興味深い。当時、民主党は「闊達な言論空間」の創成を主張した。できあがったのが「投票日前14日以後のCM」のみを禁止するという国民投票法だった。
 それも「私は賛成(反対)します」などのCMは規制外にする抜け道を残していた。これでは公平どころか政党助成金で潤う自民党の宣伝が、他を圧してテレビ画面を埋め尽くすことにもなりかねない。
 多くのヨーロッパ諸国では、国民投票の際のCMは禁止している。本間氏も国民投票発議後のCM禁止を提案している。
 本著のメインテーマは自民党と電通との密接な関係である。自民党の広告を一手に扱う電通にとって、国民投票はまたとない儲け口であり、その広告宣伝費は膨大な企業収益となる。
 一手受注となれば、あらゆる媒体で「電通専用枠」がものを言う。とりわけ地方局に対する電通の支配力は圧倒的である。自民党がスポンサーとなれば、メデイア各社ではいっそう営業優先となり政権批判の報道は手控えられるだろう。
 今国会では国民投票法の上程が見送られたとはいえ、9条改憲は自民党結党以来の党是である。2000年に向けて、燃やす並々ならぬ執念は軽視できない。本著は数々の事例を挙げて警鐘を鳴らす。広告に依存するメデイアの経営が、ジャーナリズムに与える影響に注目したい。
(集英社新書720円)

坂本陸郎(JCJ広告支部)