お薦め本紹介

お薦め本紹介(2018年9月)

お薦め本紹介(2018年9月)
・トランプ王国の素顔
・戦争経済大国
・追跡 日米地位協定と基地公害
・刑務所しか居場所がない人たち
・コンビニ外国人

トランプ王国の素顔

元NHKスクープ記者が王国で観たものは
立岩陽一郎
トランプ王国の素顔
市井の人々の声を聴き会話を重ね、米国が抱える悩みや本音に迫る
 愚かな裸の王様か型破りの改革者か。トランプ大統領への論評は数多いが、「結論ありき」で書かれたものが大半。本書は貴重な例外である。トランプ政権の米国を捉えるうえで、偏りない出発点を提示してくれる。
 なぜ米国はトランプを選んだのか。著者は米国各地に足を運び、大統領の就任式会場からデモ現場、路線バス内まで、先入観や政治信条を白紙にして、年代や階層を問わず、率直な質問をぶつけて彼らと対峙する。
 沈黙する人も、怒り出す人もいる。おそらくそんな真摯な姿勢をとらなければ、会話が成り立たなかったのだろう。
 本書で紹介されるコメントはすべて実名だ。会話の文脈やニュアンスも生き生きと伝わる。取材不足の新聞記事にありがちな「関係者によると」という曖昧な主語や都合のよいコメントの切り取りは皆無だ。読者は著者と米国の人々の会話を追体験しつつ、今の米国が抱える悩みや本音に触れることになる。
 もしあなたがトランプ政権の誕生を「教養乏しい白人労働者たちの暴走」とか「ロシアからの選挙介入が生んだ番狂わせ」などと解釈しているなら、その印象は変わるかもしれない。私自身、トランプの支持層を、どこか見下していた気がする。考えを改めさせられた。
 米軍海兵隊について書かれた第9章は新鮮な驚きだ。著者のNHK沖縄放送局記者時代の取材経験も交え、海兵隊の独特の位置付けとメンタリティーが叙述されている。トランプ政権との関係だけでなく、日本の沖縄問題を考えるうえでも貴重な手掛かりになるだろう。
(あけび書房1600円)

植松正史(日本経済新聞記者)

戦争経済大国

斎藤貴男
戦争経済大国
米国の戦争で築いた日本の繁栄 戦後平和の虚妄を鋭く問う
 日本経済は1955年から73年まで、飛躍的な成長を遂げ、「奇跡」の高度成長と言われた。
 この奇跡は米国の戦争によるものだった。朝鮮戦争特需を足掛かりに、ベトナム戦争特需を跳躍台とし、日本企業は「他国の人々の不幸に乗じて儲けた」のだ。戦争経済の実態を明かし、虚構の戦後論を覆すため、著者は本書を世に問うた。
 歴史の再考を促す熱意は、足を使った取材の分厚さに表れている。ベトナム戦争と日本経済の関係を掘り下げた研究は少ない。著者は企業や官庁の当事者を訪ね歩き、資料を丹念に掘り起こす。
 総合商社の元社員はベトナム戦争に感謝した同僚の発言を回想する。「おかげさまで合成ゴムの全体が儲かる」。米兵の履く熱帯仕様のブーツが日本製だったためだ。貿易政策の中心にいた通商産業省(現経済産業省)の元キャリア官僚も証言する。戦争で「突然マーケットが開いた」と。
 当時「死の商人」を非難した市民団体、労働組合も取材対象にしている。権力による弾圧や謀略もあった。挫折や堕落、過激派の行動にも大きな紙幅を割き、また過ちや後退からも教訓を汲みあげようと努めている。
 著者は「憲法9条を本物にしなければならない」と語る。自身を含む護憲派の思想と行動を、もう一段高める決意が、底流にあるからだ。
 「もう戦争する時代じゃない」。米国の戦争で財を成した沖縄企業の元会長が、あっけらかんと発する言葉に、新しい経済への転換に向けたヒントが垣間見える。
(河出書房新社1800円)

杉本恒如(「赤旗」経済部記者)

追跡 日米地位協定と基地公害

「太平洋のゴミ捨て場」 と呼ばれて
ジョン・ミッチェル著
阿部小涼訳
追跡 日米地位協定と基地公害
いま現実に沖縄では野放し!米軍・化学兵器汚染の実態
 沖縄の返還軍用地が抱える土壌汚染問題を調べていると、「わからないことは惨めだ」と実感する。辺野古や高江を始め、米軍絡みの事件、事故に振り回される沖縄。長く埋もれていた軍用地汚染を表に引きずり出したのは、無名の外国人ジャーナリストだった。本書の著者、ジョン・ミッチェルだ。
 ミッチェルは2012年、沖縄に駐留していた退役米軍人たちが、米国政府を相手に、枯れ葉剤被害を訴えている事実をスクープした。それはフェンス一枚隔てた所で暮らす人々の命と健康も脅かされているという告発だった。
 本書は、米国情報自由法(FOIA)を駆使して入手した1万2千ページもの公文書に基づいている。米軍占領下、演習場近くの中学校で異臭がし、生徒たちが体調不良を訴えた。また本島北部では、牛が突然死した。
 しかし当時は原因が判明せずうやむやに。そんな県民の記憶の片隅に残る奇妙な事件が、実は米軍の化学兵器などに由来していた事実を、本書は指摘する。だが重大なのは、危険が過去のことではない、いま現実にあるということだ。
 日米地位協定4条で、日本は米国に対して、返還軍用地の原状回復義務を免除している。島は今も米軍が汚したい放題の土地なのだ。
 ミッチェルは今、沖縄県民から最も信頼されるジャーナリストの一人となった。彼が突き付けるのは、日米両政府に都合よく使われ、切捨てられる沖縄だ。しかし県民は知っている。本当に惨めで怖いのは、知らないことである。本書を手に取る人たちには、考えてほしい。沖縄に誰が何を押し付けているのかを。
(岩波書店1900円)

島袋夏子(「琉球朝日放送」報道制作部)

刑務所しか居場所がない人たち

学校では教えてくれない、障害と犯罪の話
山本譲司
刑務所しか居場所がない人たち
「最後の避難所」で進む想像を超えた実態に迫る
 これ、知ってた? 「受刑者の10人に2人は知的障害者の可能性」があるんだって。そりゃ驚くよね。受刑者の最終学歴も中卒が40%、高卒が30%、大卒はわずか5%。つまり、義務教育すらまともに受けていない人たちの割合が、受刑者の中では圧倒的だってこと。
 だから、学ぶ機会を制限され、さらに知的障害を持った人たちが、刑務所の中では、とても多いということになる。そうすると刑務所はどうなるのか? それを、実体験をもとに書いたのが、本書である。
 実は著者の山本さんは元衆議院議員。ところが秘書給与詐取事件を問われ、実刑でムショ暮らしを経験した。そこで著者が見たのは、想像を超える刑務所の実情だった。
 普通の人なら忌まわしい過去の記憶は封印し、別の生き方を探す。でも山本さんが選んだのは、受刑者たちと共に生きる道だったのだ。
 本書の帯にあるように「塀の中は、社会の中で行き場をなくした人たちの最後の避難所」であることを、山本さんは真正面から受け止めた。刑務所という世間から隔絶された場所で進行している「福祉施設化」とは、どういうことか。行き場を失った人たちが、小さな犯罪を重ねて獄中へ戻ってくる。塀の外では生きられない、いわゆる「累犯者」たちだ。そのうちの障害者や高齢者の割合の多さに驚く。生き延びる場所が塀の中にしかないというこの国の哀しさ。でも最後には希望の灯も。
やわらかな筆致の文章だが、本書はとても重要な問題を提起しているのだ。
(大月書店1600円)

鈴木耕(編集者)

コンビニ外国人

芹澤健介
コンビニ外国人
100万人を超す外国人労働者 安く使う政府・業界の身勝手さ
 しばしば立ち寄るコンビニエンスストアで、「流ちょうな日本語を駆使する」外国人店員と接した人は多いだろう。大手コンビニ3社で働く外国人店員は全国で4万人超。実にスタッフの20人に1人の割合になる。
 彼らの多くが、日本語などを学びに来た私費留学生である。深刻な人手不足に悩むコンビニ業界にとって、原則「週28時間」の範囲で働く彼らが、もはや「なくてはならない存在」になっている。
 移民への門戸を厳しく閉ざす日本だが、その実、世界第5位の「外国人労働者流入国」になっている。この10年、日本で働く外国人労働者は約2・6倍となり、2016年には100万人を超えた。
 「移民は受け入れないが、安い労働力はほしい」という政府や産業界の本音を投影するように、コンビニに限らず居酒屋チェーンなどの外食産業、さらには農業、建設業など広範な分野で、外国人労働力抜きには廻らない「ビジネスモデル」が出来あがっている。
 政府は、「留学生30万人計画」を掲げながら、留学生を支援・救済するセーフティーネット作りや就職へのケアをすることもなく、将来も日本で働きたいという希望者に「高い壁」を築く。一方で、「外国人技能性実習制度」などを活用して、「安価な」外国人労働力の一層の流入を企図しているのである。
 長年日本在住の外国人問題を取材してきた著者は、「文句も言わず辞めずに真面目に低賃金で働く」コンビニ外国人を様々な角度から見ていくことによって、日本の実相や課題を浮きぼりにする。
(新潮新書760円)

栩木 誠