今週のひと言

この絶えられない、時代錯誤

 平気でうそをつく。知り合いをえこひいきする。敵とみたらたたきつぶす。言葉が空疎である――。安倍政権下で進行してきた漫画のような政治の風景を象徴するような自民総裁選への立候補表明だった。8月26日午後、安倍晋三首相は鹿児島の桜島を背に、生中継中のテレビカメラに向かってこう語った。
 「来年、皇位の継承、そして日本で初めてG20サミットを開催します。そしてそのさらに先には、東京五輪・パラリンピックが開催されます。まさに日本は大きな歴史の転換点を迎える。今こそ日本の明日を切り開くときです。平成のその先の時代に向けて、新たな国づくりを進めていく。その先頭に立つ決意であります」
 安倍首相は、山口=長州の出身である。明治維新を牽引した薩長を意識したのだろう、立候補表明直前に鹿児島選出議員が開いた会合の演説で、「薩長で力を合わせて、新たな時代を切り開いていきたい」と語ったという。
 戊辰戦争で薩長から「賊軍」のレッテルを貼られた会津の人々の子孫がこの映像をみたら、どう思うか。安倍首相にそんな想像力を期待するのはどだい無理だが、ここで言っておきたいのは、明治維新と現在を重ね合わせる時代錯誤である。
 安倍首相にとっては、日本国憲法の下で作ってきた「国のかたち」を憲法改正で作り変えること=「新たな国づくり」が、悲願である。幕藩体制を倒し、近代国家の道を歩み始めた明治維新が重なってみえて仕方がないのだろう。
 政治に求められているのは、「新たな国づくり」という空疎な言葉ではない。
 少子高齢化が進み、人口減に転じた日本社会で持続可能なセーフティネットをどう築いていくのか。未来の世代に押し付け続ける途方もない財政赤字をどうするのか。原発に依存しない社会をどう作るのか……。
 維新と今を重ねることで、真に向き合うべき課題から国民の目をそらす。そして、自らの政治的信念を満足させるため、国民にとっては優先順位の低い憲法改正に邁進する。
 漫画ではない。この絶えられない時代錯誤は、究極のプロパガンダなのかもしれない。