今週のひと言

「人命第一」が上滑っていないか

 北海道胆振地方で9月6日未明に最大震度7を観測した地震では、安倍晋三首相が誤った死者数を公表していた。7日朝の関係閣僚会議で、安倍首相は「死者17人」と述べたが、この時点の死者は9人で、心肺停止の7人を合算していた。7日午後に菅義偉官房長官が訂正して陳謝した。「死亡」と「心肺停止」には厳然とした違いがある。日本で人の死を判定できるのは法律上、死亡診断書を作成する医師と歯科医師だけ。心臓、呼吸がともに停止し、蘇生が絶望的であっても、医師が判定するまでは死亡ではない。心肺停止と死亡との混同は、人命軽視に等しい。
 安倍政権は行政上の不始末の実質的な責任を、官僚に取らせる例が目立つ。今回の誤集計も事務方の責任にされそうだが、果たしてそうか。安倍首相は6日の地震発生当日、「政府としては人命第一で、政府一丸となって、災害応急対応に当たっていく」と話していた。本当に首相自らが「人命第一」で臨み、その姿勢が政権、政府内に貫徹されていれば、「死亡」に「心肺停止」を足してしまうような信じられないミスは起きないだろうし、仮に起きてももっと早くに気付き、訂正することができたのではないか。
 実は前日の6日午後にも、警察庁が「死者5人、心肺停止4人」としていた時間帯に、安倍首相は「死者9人」と公表していた。7日朝、関係閣僚会議が開催される前の段階で、死者数は「9人」と「5人」の二つの数字が報じられていた。客観的にも、首相自身がミスに気付くべき機会があったと言える。危機管理をアピールし自民党総裁選を有利に戦おうとの「私心」から、「人命第一」が上滑りしていたのではないか。
 さて、この誤集計を東京発行の朝日新聞、毎日新聞、東京新聞は8日付朝刊の1面で報じた。驚いたのは、読売新聞と産経新聞だ。産経新聞は記事なし。読売新聞は、地震に伴う様々な動きを時刻とともに羅列した社会面の「ドキュメント」の中で、わずか4行触れただけだ。気付かなかった読者が多いのではないか。官房長官が公式の場で陳謝した政権の不祥事であり、広く社会で共有されるべき情報だ。いくら安倍政権に好意的だとはいえ、権力者への過ぎた忖度は、マスメディアとして自殺行為だ。