お薦め本紹介

お薦め本紹介(2018年11月)

お薦め本紹介(2018年11月)
・#黙らない女たち
・ブラックボランティア
・戦慄の記録 インパール
・水道の民営化・広域化を考える
・日本会議の野望

#黙らない女たち

インターネット上のヘイトスピーチ
・複合差別と裁判で闘う
李信恵・上瀧浩子
#黙らない女たち 女性や弱い者をいじめる
複合差別に抗した闘いの記録

 本書は、民族差別のヘイトスピーチと闘った二人の女性の記録である。
 李信恵は、在特会の会長・桜井誠(当時)、および「まとめサイト」保守速報の管理人・栗田香を民事裁判で訴え、勝訴した原告である。共著者の上瀧浩子は、その弁護人だ。李が差別に関心を持ったきっかけは、7年前の上瀧との出会いであり、その衝撃がいきいきと書かれ、後に訴訟代理人が上瀧となったのは、いわば時代の必然であったことがよくわかる。
 李と上瀧が勝訴した二つの裁判は、それぞれヘイトスピーチの不法性を問うたものだが、それが画期的だったのは、いずれにおいても複合差別が認定されたからである。
 「複合差別」とは、ある差別と別の差別が複合的に作用し、より大きな被害をもたらすことを言う。李の裁判では、民族差別と女性差別が複合し、原告をより苦しめた実態が真正面から問われた。
 過去の研究では、男性よりも女性のほうが、ヘイトスピーチの攻撃対象になり易いことが分かっている。民族差別においても、在日コリアン女性は在日コリアン男性よりも攻撃対象になり易い。
 ヘイトスピーチとは弱い者いじめをする言論をいう。その対象は外国人、異民族、女性、障害者、貧困者、マイノリティを問わず、多岐にわたる。在特会らネット右翼が、障害者や生活保護受給者を攻撃してきたのも、実は民族差別と地続きなのだ。本書は、その構図を実践(李)と理論(上瀧)の両面から詳述した好著である。
(かもがわ出版1300円)

野間易通(フリー編集者CRAC)

ブラックボランティア

本間 龍
ブラックボランティア 「感動詐欺」「やりがい搾取」
東京オリンピックの裏側

 やたらと腹の立つ本である。だから途中で放り出すかといえばそうじゃない。ジリジリと怒りを溜め込みながら、読了せざるを得ない本なのだ。
 私は、「東京五輪」そのものに反対なのだが、著者はその反対論に明確な根拠を与えてくれる。「原子力ムラ」があるように、どうも「五輪ムラ」とでもいうような所で、“五輪貴族”どもが利権を食い漁っているようだ。
 利権だけでは食い足りず、とうとうボランティアという美名に隠れて若者たちを食い物にしようとしていると、著者は指摘する。
 本来ボランティアとは①自発性:自主性・主体性 ②非営利性:相互性・相対性 ③公共性 に裏付けられるべきものだが、これが全く東京五輪には当てはまらない。
 なかでも②が問題だ。スポンサーからの協賛金とテレビ放映権などで運営される営利イベントなのだから、非営利性とは相容れない。しかもそこへ、日当はおろか宿泊費も交通費も出さない無報酬ボランティアの若者を“動員”しようというのだから、五輪貴族たちは坊主丸儲け。
 大学もそれに加担し始めている。「国際スポーツボランティア人材育成プログラム」などを開催して“学徒動員”を呼びかける。財界も「就活に有利」などと甘言で後押しする。もはや官民挙げての「感動詐欺」「やりがい搾取」だと、著者は怒りをもって告発する。
 本来、世界平和を目的に始まったはずの「近代五輪」が、いつの間にかカネまみれの商業五輪となり、その結果が酷暑の夏の「東京オリンピック」だ。
(角川新書800円)

鈴木耕(編集者)

戦慄の記録 インパール

NHKスペシャル取材班
戦慄の記録 インパール 補給なしの無謀な侵略戦争の実態
 インパール作戦は太平洋戦争末期に、日本陸軍が補給を無視して、インドの国境地帯の英軍を攻撃した無謀な作戦として知られる。
9万人の兵士のうち3万人が死亡して敗退した。なぜこれほど莫大な犠牲を生んだのか。その実態に新資料の発掘やデータ分析で迫っている。
 死亡日時、場所、死因が確認できる1万3千余人をコンピュータ解析した結果、6割が作戦中止後の撤退時に死亡し、ほとんどが「病死」だった。急峻な山岳・密林400キロを、わずか3週間で踏破するという無謀な作戦は失敗し、食糧の尽きた日本兵はヒルや雑草さえ口にし、マラリヤや赤痢などの疫病で次々と倒れた。死んだ者は褌まで取られ、雨季の高温多湿のもと数日で白骨化した。元兵士の語る「白骨街道」の惨状は、まさに生き地獄という他ない。
 本書のもう一つの焦点は、4カ月に及んだ惨憺たるインパール作戦の責任問題である。現地で指揮をとる第15軍の牟田口司令官が作戦案をつくり、大本営―南方軍―ビルマ方面軍の各機関の認可を得た。だが、各機関の司令官、参謀長、参謀、師団長など誰一人として責任はとらなかった。陸軍大学で同期だったなどの縁故・情実で作戦案が通されたからである。逆に参謀クラスで異論をのべて、更迭、転任、解任の目に遭った者は十数名にのぼる。
 補給・兵站の軽視、敵戦力の過小評価、作戦指導の曖昧な決定と現場への責任転嫁。インパール作戦が示すものは、兵士・人間の命を軽んずる侵略軍の本質である。
(岩波書店2000円)

菅原正伯

水道の民営化・広域化を考える

いのちの水をどう守るか
尾林芳匡・渡辺卓也編著
水道の民営化・広域化を考える あらためて水の大切さを考えよう
問われる水道法改正の狙い

 安倍政権が「働き方改革関連法案」や「カジノ法案」など、"悪法“を成立させた前期国会で、「重要法案」と位置付けながらも、継続審議になった法案がある。「水道法改正案」である。
 「押し寄せる老朽化」「水道クライシス」「水道料金値上げ続々。背景に老朽化、人口減」…近年、水道を巡る見出しが、メディアで踊る。
 「1990年代は水道民営化の10年」ともいわれるように、世界各地で、グローバル水道企業による民営化が進められた。しかし、欧州や中南米など世界各地で、水質悪化・料金高騰などの問題が表面化し、失敗が明白になった。今や「再公営化」の流れが強まっているのである。
 しかし、日本では世界的な教訓を学ぶことなく、未だ民営化推進の動きが続く。「水道法改正案」でも、地方公共団体が水道事業者ではあるものの、運営を民間事業者に任せる「官民連携」と、事業の「広域化」が2つの柱になっている。すなわち「庇を貸して母屋を取られる」ように、実質、民営化への道につながりかねないのである。
 本書は、「市民が止めた水道民営化」や「水源を守る運動」など、水道の民営化・広域化を巡る問題で、着実に成果をあげる、全国各地の住民などの実践例を追い、成果の分析をしている。
 そうした積み重ねの上に論点を明確に整理し、「民営化・広域化を前提としない、各地の水道事業への国の財政支援の拡大強化」の必要性を提言する。「21世紀は水の世紀」といわれる。「いのちの水」を守るためにも、まず改正案の成立を阻止し、国民的な議論を深めることが緊要になっている。
(自治体研究社1700円)

栩木誠

日本会議の野望

極右組織が目論む「この国のかたち」
俵義文
日本会議の野望 おそるべき9つの野望と改憲策動の暗流を照射する
 本書は、日本会議に対する系統的な監視を踏まえ、早くからその危険性を警告してきた著者の、前著『日本会議の全貌』(花伝社、2016年)に続く第二弾である。
 前著で日本会議の実態を、歴史・運動・組織などにわたって解明した著者は、本書で日本会議が何を狙っているのかを浮き彫りにしている。「これだけ悪政を続け、支持率が下がっているのに、なぜ安倍政権はつぶれないのか」─こうした問いに対する著者の答えが、本書に書かれている。
 まず日本会議が「改憲に突っ走る安倍政権」と一体となって、「草の根改憲運動」に〝猛進〟してきたかが明らかにされる。そのうえで、前著を要約するかたちで、「日本会議とは何か」、その本質が整理される。
 本書のハイライトは第4章である。「憲法改正」「教育」「防衛」「歴史の改ざんと歪曲した歴史認識の拡大」「靖国神社問題」「皇室崇拝と復古的天皇制の復活」「戦後レジームからの脱却で歴史をとりもどす」「女性の組織化と男女共同参画の否定」「国家主権の回復、国家意識の醸成」という9つの野望が順次紹介される。
 さらに道徳教育の教科化ともかかわる第2の野望「教育政策」が詳しく解明されるが、<子どもと教科書全国ネット21>事務局長をつとめてきた著者ならではの分析だ。
 続いて森友・加計学園問題の背後で、日本会議が暗躍している事実に加え、「日本会議の広告塔」としての櫻井よしこの役割が、鋭く明かされる。
 10月2日、第四次安倍改造内閣が発足した。安倍政治の狙いとその背後関係を見極めるためにも、日本政治の暗流を照射した本書は必読である。
(花伝社1200円)

大日方純夫(早稲田大学教授)