お薦め本紹介

お薦め本紹介(2018年10月)

お薦め本紹介(2018年10月)
・九条の会
・もう「ゴミの島」といわせない
・朝鮮民主主義人民共和国
・紛争地の看護師
・creation:

九条の会

新しいネットワークの形成と蘇生する社会運動
飯田洋子
九条の会
60年・70年の安保世代が政治的立場をこえ築いた組織
 九条の会は、2004年、大江健三郎氏など9名の文化人が発した声明に賛同して、多くの人々が全国各地で会を立ち上げ、憲法九条を変えさせない市民運動の組織としては、いまや日本最大の規模を持つ。
 本書は、ハワイ大学に提出した博士論文の翻訳をベースとしている。九条の会の発生から現在までを、調査・分析し、なぜ7500もの九条の会が全国で生まれ活動を続けているか、社会運動研究の視点解明している。
 各地で九条の会を立ち上げたのは、世代的には60年・70年の安保反対闘争にかかわった人たちだと指摘する。地下水脈として溜められていた憲法九条への思いが、あの9名の「九条の会」声明に触発されて、40年の時を経て、次々に誕生したと分析している。
 事実、マスコミ九条の会も各地の九条の会も60年・70年安保世代が中心となり発展させてきた。しかし、その世代は安保後も労働運動に参加した世代である。この書はその部分に触れていないのが残念である。
 9人の呼びかけに学び、政治的立場をこえ、「九条改憲反対」の1点で会を運営し、活動の幅を拡大してきた。こうして生まれた各地の九条の会が横につながり、市や県の連絡会が作られていく経緯を詳しく分析する。
 九条の会は各種の運動と連携し、安倍政権の自衛隊派兵など、「戦争する国」へ踏み出す策動にストップをかける運動へと成長している。3選後の安倍総理は九条改憲の国会提出を狙っている。阻止する力は、まさに九条の会など市民運動の結束にある。
(花伝社1500円)

三枝和仁(マスコミ九条の会)

もう「ゴミの島」といわせない

豊島産廃不法投棄、終わりなき闘い
石井 亨
もう「ゴミの島」といわせない
43年の闘いで産廃90万トン撤去!
 美しい瀬戸内の島「豊島」に、産廃が不法投棄され、これに抗議・撤去を求める島ぐるみの戦いは、1975年から始まった。その全住民の闘いと著者の歩んだ人生記録である。
 1960年、島に生まれた著者は高校卒業後アメリカで2年すごし「思うところあって過疎地で人生をおくりたい」と島に帰ってきた。「挫折をくり返しながら……、無添加の平飼養鶏を始めた頃」、豊島産廃不法投棄事件に遭遇する。
 「手伝うてくれんか。これから長引くことになると思うんじゃ」─自治会長からの一本の電話が、その後の県や国を相手にする闘いの全てにつながった。
 香川県議会議員2期も勤めた著者の生きざまが、人口1500、島の住民運動の進展と重ねて綴られる。
 いちご作りの農業者、産廃に海を追われた漁師、その暮らしからくる思いや意見の違いを、中坊公平弁護士を相談相手に、まとめあげた住民会議議長、香川県庁前スタンディング、100万県民との膝つき合わせての対話、選挙で力を出した女性委員会など、ときどきの姿が浮かびあがる。
 調停一年後に他界された安岐登志一議長の細身の姿は忘れられない。
 大量生産大量消費で利益を最大にするこの国の大企業、ならず者を使って大量の不法投棄に荷担した罪を糾弾する各界市民、研究者、ジャーナリストについても記されている。
 闘いばかりでなく、穏やかな内海にある豊島の歴史も大事な読みどころである。)
(藤原書店3000円

刎田鉱造(JCJ香川支部)

朝鮮民主主義人民共和国

米国との対決と核・ミサイル開発の理由
伊藤孝司
朝鮮民主主義人民共和国
朝鮮のリアルな姿と本質を綿密な取材と調査で浮きぼりに
 朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮という)の非核化をめぐる米朝交渉は6月の米朝首脳会談後、停滞している。著者はその理由をこう指摘する。
 「それは朝鮮の米国への強い不信と警戒心、米国による朝鮮への一貫した敵視にある。米国がそうした政策を続けてきた最大の理由は、朝鮮戦争で激しく戦ったことである」
 原点は朝鮮戦争にあり、停戦という不安定な状態のまま、米朝がにらみ合っている限り、非核化は難しいというのだ。朝鮮は、核とミサイルという強力な抑止力を持たなければ、米国から一方的に攻撃されたイラク、リビアの二の舞になると考えている。平和協定の締結がなければ、おそらく非核化は実現しない。
 著者の朝鮮訪問は36回。宋日昊・朝日国交正常化交渉担当大使とも会い「核は欲しくて持ったのではない。わが国がそうせざるを得なかった前提をなくして欲しい」の言葉を引き出している。
 米国寄りの報道が目立つ日本のメディアとは一線を隠した客観報道により、朝鮮半島の過去と現在がリアルに描写される。ほとんど知られることのなかった朝鮮戦争当時にあった米側の残虐行為なども詳細に語られる。
 返す刀で、朝鮮半島問題に何の存在感も示せない日本について、隣国との関係が悪いのは「日本外交の失敗。侵略や植民地支配の精算を不十分なままにしている」と指摘し、「日本が安全保障を軍事力強化と米国の『核の傘』に依存し、独自の外交努力を怠ってきた結果だ」と正鵠を射る。
 「外交の安倍」を信奉する人々にこそ、読んで欲しい良質のノンフィクション。
(一葉社1200円)

半田 滋(東京新聞論説兼編集委員)

紛争地の看護師

白川優子
紛争地の看護師
8年間・17カ所の紛争地から掬いあげた戦争被害者の叫び
 「なぜ紛争地へ行くのか?」─多くの人が疑問に思うだろう。紛争地へ赴く者への自己責任論が強まる日本で、20年以上戦争報道に関わってきた私自身も“なぜ?”の自問自答を繰り返す。
 本書は7歳で<国境なき医師団>を知った著者が、高校卒業後に国内外で看護の現場を経験、36歳で念願だった国境なき医師団の手術室看護師となり、8年間で17カ所の紛争地に派遣された足跡を記す初の自叙伝。
 終わりの見えない内戦が続くシリアやイスラム国掃討作戦が行われたイラクでは、最前線での医療活動に従事する。また病院が空爆されて満足な支援ができないイエメンや自衛隊が派遣された南スーダンでは、彼女自身が熾烈な戦火に巻き込まれながらも現地に留まり支援を行う。
 日本のメデイアが取材できない戦争当事者に寄り添ってきた看護師だからこそ、戦争被害者の心の叫びが、余すところなく掬いあげられている。
 私は著者を数ヶ月間、密着取材したことがある。彼女は決してスーパーウーマンでも聖人君子でもない。恐怖に怯え無力感を味わい、時には煩悩に苛まれることもある。「戦地で私が味わう苦しみなど失恋の辛さに比べたら、なんてことないです」と、過去の失敗談や失恋話を面白く、自虐的に語る。
 等身大の彼女を知ればこそ、冒頭の“なぜ?”が頭によぎる。だが、紛争地へ赴く彼女の目的は明確だ。「泣いている人々の痛みや苦しみを見過ごすことは、やはり私には出来ない」
 戦争はなくなるどころか、さらに長期化し複雑化している。今後も“紛争地看護師”の彼女の活動に注目していきたい。
(小学館1400円)

横田 徹(報道カメラマン)

creation:

前川貴行 写真
creation:
野生動物の不思議な営みをベストショットで捉えた写真集
 「動物ってなぜこんなに美しいの?」と聞かれ、「進化の中で機能も形態も洗練されてきたから…」と、曖昧な答をした記憶があるが、本書の主人公たちを見ると、あながち間違いではないと思う。
 極寒の雪原でまどろむホッキョクグマ、舞踊のように飛翔するタンチョウ、サバンナに緊張感を漲らせるライオン、遊泳するザトウクジラの親子の愉しげな姿・・・・・、ページをくるごとに、野生動物たちも「私たちは美しい」─そんな自意識をもって生きているのでは?と思えてくるのだ。
 我が日本列島のなかま、ニホンザルの面構えにしたって、彼らはこんなにも凛々しかったのかと、あらためて驚かされる。
 あるときは充分な距離を保った遠景で、自然環境を主体に、またあるときは限界まで近づいたアップで、動物の個体の迫力を表現する、それら一枚一枚がアートといえる映像である。画面からは行動する野生動物の息づかいが感じ取れ、まさに「地球の友」という身近な存在に見えてくる。
 神ならぬ地球の自然が数十億年かけて創造(creation)した多様な生物(creation)の世界、これこそ著者の表現したかったものである。自然への深い理解と共感なくして生まれない写真集だ。
 動物との出会いのドラマは、著者の前作『動物写真家という仕事』を紐解けば、さらに深くつかめよう。本書では進化の創造力に素直に感動し、いま私たち人類に何が求められているかに思いを致すことにしよう。
(新日本出版社7200円)

土居秀夫(元「アニマ」編集長)