今週のひと言

「ありえない」発言への追随、ありえない

 「元徴用工への賠償、命令 韓国最高裁、日本企業に 安倍首相『あり得ない』」。韓国人の元徴用工4人が新日鉄住金を相手に損害賠償を求めた訴訟の判決で、韓国大法院(最高裁)が同社に1人あたり1億ウォン(約1千万円)を支払うよう命じると、朝日新聞はこんな見出しを掲げ、翌日(10月31)の朝刊1面トップで報じた。
 「ありえない」は、「判決は国際法に照らして、あり得ない判断だ」と述べた安倍晋三首相の言葉からとっている。
 驚いたのは、「朝日」から「産経」までふだん社論の異なる各紙がこぞって、国際的な合意を覆す、日本側に不利な内容の「トンデモ判決」というニュアンスで大法院判決を伝えたのだ。テレビのニュースやワイドショー、そしてあのリベラルなTBS『サンデーモーニング』の放送まで同じようなトーンで貫かれていた。
 「国益」がからむと、日本のジャーナリズムがいかにもろく、弱いかを端的に示す現象だった。
 裁判の争点は、1965年の国交正常化に伴う請求権協定で元徴用工への補償問題で個人請求権がなくなったのか、どうか。日本政府や企業側は、「補償問題は解決済み」という立場をとる。しかし韓国最高裁は、「強制動員被害者の日本企業への慰謝料請求権」は協定では消滅していないと、別の解釈を示した。
 冷戦終結後の1990年代、日本の侵略戦争や植民地支配で苦しんだ被害者が次々に戦後補償裁判を起こし、「補償問題は解決済み」という壁に挑んだ。日本の最高裁は被害者の訴えをはね返したが、法を様々に解釈できるからこそ、訴えが可能だった(常識である)。
 法の唯一絶対正しい解釈など「ありえない」。にもかかわらず、唯々諾々と政府の言い分を伝えるメディアの劣化の具合は深刻だ。