お薦め本紹介

お薦め本紹介(2018年12月)

お薦め本紹介(2018年12月)
・危ない「道徳教科書」
・検証 自衛隊・南スーダンPKO
・袴田事件 これでも死刑なのか
・戦後史のなかの安倍改憲
・国権と民権

危ない「道徳教科書」

寺脇 研
危ない「道徳教科書」 「考え議論する道徳」への逆行
道徳を「教え込む」発想の危なさ

 長年、文科省の官僚として教育行政にかかわってきた著者が、検定教科書で道徳を「教え込む」という発想は、「考え、議論する道徳」とは逆行するので、道徳の教科化には反対する。
 まず6年生の教科書にある「星野君の二塁打」という話を紹介している。星野君は監督のバントの指示に従わず、思い切りバットを振って二塁打を放ってチームが勝ち、市内の選手権大会への出場を決めた。しかし、監督はサインを無視した星野君に、選手権大会への出場停止を言い渡す。
 この話は学習指導要領の「よりよい学校生活、集団生活の充実」と関連して取り上げられている。著者は、それを前提に議論させれば「監督の指示は絶対、守らなかった星野君が悪い」という意見が、多数を占めるのは明らかだと懸念する。
 なぜこのようなことがおきているのか。その理由は、道徳が「教科」に決まってから、教科書を作るまでの時間があまりにも少なく、多くの出版社は2014年に文科省が作成した、「私たちの道徳」に掲載された事例を参考にして、教科書を作ったからだという。
 また、正式な「教科」となれば、生徒の学習に対して、「評価」をしなければならない。点数評価はしないことになっているとはいえ、教師用の「評価文例集」が出回っているだけでなく、中学生では内申書にも影響する危惧が指摘されている。
 本書は、第2次安倍政権下で進められてきた「道徳」の教科化の実相を知るうえで、貴重な解説書であり一読すべき好著。
(宝島社1400円)

清水正文(元教科書編集者)

検証 自衛隊・南スーダンPKO

融解するシビリアンコントロール
半田 滋
検証 自衛隊・南スーダンPKO 自衛隊派遣の裏で動く「貸し」と「名代」の危険な狙い
 本書は、自衛隊の南スーダンPKO派遣を、東京新聞論説兼編集委員の半田滋記者が徹底検証した一冊である。著者は1992年に防衛庁(当時)担当になって以来、四半世紀にわたって自衛隊の取材を続けてきた大ベテランだ。本書には、防衛省・自衛隊の内部に深く食い込んで取材してきた著者ならではの〝気付き〟が随所にちりばめられている。
 日報隠蔽問題について、私は現地で発生した戦闘の事実を隠さなければ成立しないロジックで派遣している政府の方にこそ問題があると考えてきたが、著者は自衛隊にも厳しい視線を向ける。政府の意向を忖度し、真実を隠して政府に「貸し」をつくることで、自衛隊の主張を政治に反映させようとする幹部たちの思惑が働いているのではないかと警鐘を鳴らす。このような視点は、市ヶ谷(防衛省)の外からは、なかなか窺い知ることのできないもので貴重である。
 安倍政権がアフリカへの自衛隊派遣にこだわる背景に、アフリカを舞台にした日米と中国のつばぜり合いがあるとの指摘も重要である。ソマリアでの失敗以来、PKOへの部隊派遣を止めている米国に代わり、その「名代」として自衛隊を派遣しているというのである。ソマリア沖での海賊対処活動の拠点として整備したジブチの基地の恒久化も、この文脈で捉えることができる。
 安倍政権が進めるグローバルな日米同盟の強化と自衛隊の「軍隊化」は、自衛隊の内外で様々な矛盾を顕在化させている。本書が多くの国民に読まれ、自衛隊のあり方に関する議論が深まることを願う。
(岩波書店1900円)

布施祐仁(ジャーナリスト)

袴田事件

これでも死刑なのか
小石勝朗
袴田事件 これでも死刑なのか 突出した冤罪事件─あらゆる事例を見ても、警察と検察の捏造を示す
 黒か白。正義か悪。敵か味方。真実と虚偽。右 か左。まるでマニ教的な二元化が、世界中で進行している。
 ならば言わなくては。世界は複雑だ。多面的で多重的だ。視点によって現象は猫の目のようにくるくる変わる。
 でもこれを身上とする僕も、この裁判についてはあきれる。拷問そのものだった取り調べ。逮捕時にはなかったのに、なぜか事件のときについたとされた脛の傷。そして傷に合わせたように作られたズボンの損傷。有力な証拠とされた(社長宅から袴田死刑囚が強奪したとされる)18枚の紙幣は、なぜか記号番号が記載されている個所が都合よく焼かれて消失していた。焼かれた理由は何か。残していて照合されれば、強奪した紙幣ではないとわかるからだ。そして何よりも、逮捕から一年二カ月後に味噌樽から発見されたとされる五点の衣類の不自然さとDNA鑑定の結果。
 あらゆる事例が、警察と検察の捏造を示している。ここにはグレイゾーンなどない。明らかに真っ白だ。でも袴田死刑囚は、今も「死刑囚」の肩書を外せない。
 この十数年、僕は死刑制度について考え続けた。多くの死刑囚に会った。教誨師や刑務官にも話を聞いた。海外の事情も調べた。多くの人が考えるよりも冤罪は多い。でも袴田事件は突出している。あまりに露骨なのだ。捏造のレベルではない。稚拙すぎる。
 その状況に対する苛立ちと怒りは、本書のタイトルに現れている。組織は個に対してこれほど冷酷になれるのか。きっとあなたも怒るはずだ。
(現代人文社1800円)

森 達也(映画監督・作家)

戦後史のなかの安倍改憲

安倍政権のめざす日本から憲法の生きる日本へ
渡辺 治
戦後史のなかの安倍改憲 「立憲的改憲論」の欠陥は何か
市民と野党が共闘する意義を解く

 本書もそうだが、著者の手による「戦後史もの」は、『日本国憲法「改正」史』(日本評論社)や『戦後政治史の中の天皇制』(青木書店)など、いずれも重厚長大である。当面する問題を、その歴史的脈絡、社会的背景を含めて考察してこそ打開の道筋が見えてくるという著者ならではの洞察のなせる業といえよう。
 書名と同名の第Ⅰ部は、戦後の改憲問題の歴史を振り返る中で、9条が現に日本の軍事化を阻む壁となってきたこと、それに命を吹き込んだのは9条改憲に反対する国民の運動とそれに支えられた野党の働きであることが論じられている。70余年の戦後史のなかで横行する9条を掘り崩す法や政治の動きから、「9条は死んでいる」、「憲法が権力の歯止めとなるための改憲(立憲的改憲)を」などの議論も生まれているが、第Ⅰ部は、こうした議論の陥穽を説得的に解明している。
 第Ⅱ部「安倍改憲を阻む」は、安倍政権下での改憲策動の展開過程を分析し、とりわけ2017年の「5・3改憲発言」のねらい、特徴、問題点を明らかにしている。また、これを阻む力の源は市民と野党の共闘にあるとして、そうした力を無視、過小評価する「立憲的改憲論」の欠陥を暴き出している。
 安倍改憲を阻止することの意義とそれが切り拓く展望を扱う第Ⅲ部は、平和と非核化の動きが始まった米朝関係や朝鮮半島の動向も見すえつつ、安倍政権に代わる野党連合政権の必要性・緊急性を論じ、さらには安保廃棄・米軍撤退から自衛隊の縮小・解体への道筋を提示する。安倍改憲阻止の運動に役立ててほしい。
(新日本出版社1800円)

小沢隆一(東京慈恵会医科大学教授)

国権と民権

人物で読み解く 平成「自民党」30年史
佐高信+早野透
国権と民権 リベラル衰退が招いた保守政治の危機
 これは保守リベラル復権への淡い? 期待を込めた対談である。第一線の政治記者として保守政治の真底の闇を垣間見た早野透氏と、リベラルを標榜するがゆえに保守政治家とも親交を結んだ佐高信氏という、ともに敗戦の年に生まれたふたりの、流れるようなやりとりに魅了される、まことに稀有な新書だ。
 「人物で読み解く」と副題にあるように、議論は「加藤紘一の死」「田中秀征の民権思想」「山崎拓の国民的民権」「小沢一郎の革命」と人物評論のかたちをとるが、その人物たちの背後に見え隠れするのが田中角栄である。
 もっとも読みごたえのあるのが、第一章の加藤紘一論。ふたりの論客は、現在の安倍政治の劣悪さを嘆くことから、加藤の早すぎる死を惜しみ、もし加藤が生きていれば…と歴史のタブーである「もし」にさえ踏み込む。
 評者が目を開かされたのが田中秀征という人物の底深さ。あまり政治の表舞台での派手な活躍はなかったものの、その思想の奥深さに、この本で初めて気づかされた。新発見である。
 辻元清美の評価も高い。「辻元というのも大した政治家だ。加藤のほうも、辻元という市民政治運動の中から出てきた本物の市民派を認めて付き合った」(早野)。だから、その師匠であった土井たか子を惜しむ。ただし、小泉純一郎の評価を巡っては、ふたりの意見はかなり食い違う。人間観の違いかもしれないが、そこがこの対談の面白いところだ。
 さらに第六章の民権の概観が、この本に一層の深みを与えている。
 戦後73年、“今そこにある危機”を読み解くには最適の本である。
(集英社新書800円)

鈴木耕(編集者)