お薦め本紹介

お薦め本紹介(2019年2月)

お薦め本紹介(2018年2月)
・「表現の自由」の明日へ
・私説 集英社放浪記
・出版の崩壊とアマゾン
・武器としての情報公開
・自衛隊の闇組織

「表現の自由」の明日へ

一人ひとりのために、共存社会のために
志田陽子
「表現の自由」の明日へ 歌う憲法学者が提起する「表現の自由」獲得への道
 威嚇的なネトウヨ、ヘイトスピーチの跋扈、一部の脅迫を理由にした香山リカ・立教大学教授の講演会中止問題など、表現の自由が大きく脅かされている。民主主義の土壌となるべき「表現の自由」を巡る日本の危機的状況は、安倍政権が民意に敵対して強行した秘密保護法などの施行後、一段と拍車がかかっている。
 本書は、「歌でつなぐ憲法の話」など、地道な講演活動を続けている著者が、「表現することの楽しさ、素晴らしさ、さまざまな他者との共存の道を探ること、この二つを同時に追求することが、(自分と世界の関係)をより豊かにする道に、そして明日になる」との信念を発露した1冊。
 憲法第21条「表現の自由」を中心に、表現の自由に関わる諸ルールと社会問題について、わかりやすく解説している。それだけに、「九条俳句公民館だより不掲載事件(さいたま市)」など、「表現の自由」の獲得のために闘ってきた先人たちの具体的事例の検証も加えながら、幅広い人々にその大切さを再認識させてくれる″入門書″でもある。
 体制への批判を躊躇し、社会的諸問題についての議論にも積極的に踏み込もうとしない現象が、若者など各層に広がりつつある現代社会。「自由」を守るための総力戦では、委縮すれば敗北につながる。真に、「自分たちの社会は自分たちで作っていかなければならない」のである。
 今、重要なことは、私たち一人一人が「自由」をどのように・どれだけ実践しているか、しようとしているか、である。それが私たちの今後、そして次の世代を担う人々の生き方を左右することにもなる。
(大月書店1700円)

栩木とちぎ

私説 集英社放浪記

「月刊明星」「プレイボーイ」から新書創刊まで
鈴木 耕
私説 集英社放浪記 「出版は紙つぶて」と信じる編集者の手に汗握る冒険譚
 一九七〇年に集英社に入社し、「月刊明星」編集部に配属された著者は、その年の秋、三島由紀夫の割腹事件に出くわす。だが、現場に駆けつけたものの芸能誌では仕事に結び付けられない。その無念さが八年後に実を結ぶ。七八年、陸自幹部に宛てた三島の私信を入手した「PLAYBOY」編集長に「手伝ってくれないか」と声をかけられ、同幹部へのインタビューを行い、特集「三島由紀夫 憂国の建白書 全文公開」を三号連載したのだ。
 この経験が著者を編集者として鍛えたのだろう。八二年には「月刊明星」の読者頁欄で、内申書裁判を闘う青年・保坂展人の連載を独断で始める。副編集長には怒られたが、読者アンケートでアイドルグラビアに交じって三位を獲得し、人気連載企画となる。これ以降、快進撃が続く。
 「週刊プレイボーイ」編集部に異動した著者は、ベルリンの壁崩壊の現地に取材班を送り込み、破格料金の電事連広告を蹴って原発特集を頻繁に組み、さらには特集「敦賀湾原発銀座『悪性リンパ腫』多発地帯の恐怖!」を四週連続でぶち上げる。
 福井県知事から猛抗議を受け、集英社の社長はテレビ局から直撃される事態となり、福井県や科学技術庁などと数カ月にわたる攻防となったが、取材データには自信がある。訴訟が提起されることはなかった。そんな編集者に味方する上司もいれば、煙たがる上司もいる。それゆえ著者は二〇〇六年に退職するまで十回以上異動を繰り返す。
 「出版は紙つぶて」と信じる編集者の手に汗握る冒険譚。一気に読み終えたが、著者は退職後も「マガジン9条」創刊、市民ネットTV「デモクラシータイムス」の立ち上げなど、益々意気軒高だ。
(河出書房新社1600円)

盛田隆二(作家)

出版の崩壊とアマゾン

出版再販制度<四〇年>の攻防
高須次郎
出版の崩壊とアマゾン 「出版敗戦前夜」から「戦後復興」への道を探る
 4つの妖怪が世界を彷徨っている、GAFAという妖怪が。00年にはA(アマゾン)、09年にはG(グーグル)、2隻の「黒船」が相次ぎ来襲、この国の出版界に激震が走った。後者の「大規模書籍無断スキャニング事件」については、『グーグル日本上陸撃退記』など、同じ著者の先行著作があるので、ここではほぼ割愛されている。
 アマゾン上陸後の出版界の凋落ぶりは目を覆うばかりだ。18年ほどの間に販売金額を半分近くも減らし、「もはやきりもみ的な墜落局面に突入」している、と著者は見る。書店数も出版社数も激減、取次店も立ち行かなくなってしまった。
 問題の根底には出版再販制をめぐるせめぎあいがあるのだが、それを入念に後づけながら「敗戦前夜」からの出版再生の道を探ろうとするのがこの本である。長らく出版協(流対協)会長を務め、いささかもたじろぐことなく再販擁護の論陣を張り続けてきた著者だけに、説得力は抜群。
 刮目すべきは、「敗戦の責任」を政府や公取委、アマゾンなどの外的要因だけに求めず、「ほとんど戦わずして落城前夜をまねいた出版業界、出版社団体や出版社の内部」に厳しい目を向けていること。そうした視点から提起される「戦後復興」への7つの提言(以下参照)は、真剣に検討されてしかるべきだろう。
 ①紙と電子の一体的出版契約、②電子出版についての著作権法の見直し、③電子出版の価格拘束、④取引条件の改定、⑤大手取次のダウンサイジング、⑥非再販契約書店には再販商品を流さない、⑦租税回避型総合ネット通販の規制。
(論創社2200円)

田悟恒雄(出版部会)

武器としての情報公開

権力の「手の内」を見抜く
日下部 聡
武器としての情報公開 開示文書の「のり弁」にめげず、真実を明かす調査報道への跳躍台
 記者は情報を取るため取材相手に食い込み、時には「仲間」になる必要が生じる。それが嫌なら情報は貰えない。この葛藤は、著者が学校時代から苦しんだ「同調圧力」と地続きではないか。
 転機となったのは、週刊誌「サンデー毎日」での取材。超高額な海外出張等で批判を浴びた当時の石原都知事を取り上げた。知事とは何の人脈もない著者は情報公開制度を活用し、2004年1月から「石原慎太郎研究」を6本連載した。
 公開情報は、誰に媚びることなく入手できる。著者は「目から鱗(うろこ)が落ちる思いだった」と振り返る。
 2015年6月、横畠内閣法制局長官が国会で安保法制について「法制局内には反対意見はなかった」と答弁。著者はこの答弁に疑問を抱き、文書を情報公開請求したが、開示されたのは「意見はない」とする文書1枚のみだった。
 著者は取材拒否した長官を除く当事者を取材し、同年9月「法制局、経緯公文書残さず」とスクープ記事を書いた。「法の番人」として築いてきた内閣法制局への信頼が揺らぐ実態に衝撃が広がり、朝日や共同が1面トップ級で後追い取材した。著者ら毎日新聞の取材班に、2016年度のJCJ賞大賞が贈られている。
 著者は17年から1年近くロンドンで、英国の「情報自由法」と取材の関係などを研究し、情報公開請求と調査報道は同じ取材戦略が必要という確信をつかんだ。
 黒塗りの開示回答があっても、諦めてはならない。公開情報の向こうには、調査報道の肥沃な大地が広がっている。
(ちくま新書820円)

河野慎二

自衛隊の闇組織

秘密情報部隊「別班」の正体
石井 暁
自衛隊の闇組織 脈々と継承される旧軍のDNAを追う
 昨年10月に刊行された注目の新書なので、お読みの方もおられよう。だが未読のJCJ会員にはぜひお勧めしたい一冊。読後、ジャーナリストとは何者であるのか、あらねばならないか、痛感させてくれること必定だ。
 氾濫するフェイクニュースとは異次元の“記者魂”に、あなたは身震いするはずだ。いまどき、取材源から「ホームで電車を待つ時は、最前列で待つな」や「痴漢のでっち上げに注意しろ」などと“忠告”される記者がいるだろうか?
 自衛隊に旧軍のDNAが脈々と受け継がれている事実が、さまざまに語られる。ドイツ連邦軍ではナチス礼賛の秘密グループが摘発されたというし、日本でも、幹部自衛官が国会議員に 「お前は国民の敵だ」と暴言を浴びせる事件があった。安倍政権下での「いずも空母化」をはじめ、旧軍回帰現象はこと欠かない。
 それでも本書を読むと、そんな表面的事象だけなく「陸軍中野学校」に発する自衛隊の闇組織が「運用支援・調査部別班」(現名称)の名で温存され、なお活動中という事実に直面させられる。
 冒頭、筆者の特ダネ「陸自、独断で海外活動 首相、防衛相にも知らせず 自衛官が身分偽装」にはじまる「中野学校」の後継組織、「別班」の秘密活動。それが調査学校~小平学校~情報学校(18年新設)と変転しつつ、なお暗躍しているという裏面史が克明に辿られる。
 本書は「影の自衛隊史」である。中野学校出身者が指導した三上智恵の映画『沖縄スパイ戦史』と重ねると、読者は、過去・現在の不気味な相似に慄然とするにちがいない。
(講談社現代新書800円)

前田哲男(ジャーナリスト)