今週のひと言

ケストナーと井上ひさし

 動物たちが世界の子どもたちの平和のために立ち上がる――。ドイツの詩人・作家のエーリヒ・ケストナー(1899~1974年)の絵本をもとにした音楽劇「どうぶつ会議」が東京の新国立劇場・小ホールで上演されている(2月3日まで)。ケストナーの生誕120周年を記念した「こまつ座」主催の公演で、劇作家の故井上ひさしさんが約半世紀前に手がけた戯曲がよみがえった。
 キリンやライオン、ゾウなど北アフリカの動物たちが、戦争や貧困から子どもたちを守るために結集し、政治家らに要求を突きつける。原書は49年に出版され、5年後に邦訳本が岩波書店から刊行された。
 ケストナーを愛読していた井上さんは、子ども向けの舞台として戯曲を手がけ、劇団四季が1971年に初演した。「人間が人間を信じられなくなったらおしまいさ、ということを、ケストナーは自分の書くものに込めているのだよ」。井上さんが残した言葉を、三女の麻矢さん=現「こまつ座」社長=は覚えている。
 人間はすばらしい生き物だが、同時に嫌な面も持ち合わせている。「嫌な面ばかりが表に現れている人が権力を持ったら、世の中はあっという間にひどい有様になってしまう。そんな世の中になりつつある今、ケストナーの精神を皆さんに伝えたい」。そんな麻矢さんらの思いが今回の上演につながった。

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 安倍首相が1月28日の衆院本会議で行った施政方針演説は、まさに権力側の都合だけで出来上がった内容だった。厚生労働省による毎月勤労統計の不正調査問題について「国民のみなさまにおわび申し上げる」と陳謝。消費税率10%への引き上げについて、「10月断行」の方針を示した。「全世代型社会保障制度の実現」を掲げてはいるけれど軍事費重視をベースにした財源の分配を見直すことなく、市民に負担をかけるという構図だ。
 この国を変えるのは主権者である市民だ。そしてメディアが時の政権の実態をきちんと伝えてこそ民主主義が成り立つ。