お薦め本紹介

お薦め本紹介(2019年3月)

お薦め本紹介(2019年3月)
・慰安婦報道「捏造」の真実
・除染と国家
・麦酒とテポドン
・FEAR恐怖の男
・住宅の真下に巨大トンネルはいらない!

慰安婦報道「捏造」の真実

検証・植村裁判
植村裁判取材チーム編
慰安婦報道「捏造」の真実
明かされた右派の杜撰・欺瞞ロジック
 「捏造」したのは誰か─元朝日新聞記者・植村隆さんは、訴え続けている。「捏造記者」のレッテルを張られ、誹謗中傷を受けてきた。「植村裁判」は、植村さんの尊厳をかけた闘いだ。
 裁判の傍聴に通う中で私もまた問われているのだと感じた。不正義を前に沈黙は許されるのか、植村さんの叫びは、メディアに携わるすべての者に向けられる。
 27年前、元慰安婦だった女性が韓国で名乗り出た。植村さんは必要な裏どりを重ね、記事にした結果のスクープ。人権を蹂躙された女性の悲痛な叫びが初めて報じられた。
 だが、これを「捏造」だとしたのが、櫻井よしこ氏や西岡力氏をはじめとする右派系の文化人・メディアだった。様々な悪罵がぶつけられた。それらが原因となって、植村さんは職場を追われ、本人も、さらには家族も殺害予告などの脅迫を受けてきた。
 本書は、これら一連の経緯と、櫻井・西岡両氏、出版社を相手取って起こした名誉棄損訴訟を、ジャーナリストたちからなる「取材チーム」が徹底検証したものだ。一方的に植村さんの「捏造」を叫んでいた者たちの杜撰なロジックが暴かれる。
 「取材チーム」のひとり、長谷川綾さんは「資料をつまみ食いし、細部の齟齬で全体を否定する。その手法は<ガス室はなかった>と主張するホロコースト否定派を思わせる」と喝破する。そう、「植村裁判」は、日本社会を覆いつつあるヘイトな空気感との闘いでもあるのだ。
 詳細な検証記録によって、ようやく「真実」が浮かび上がってきた。
(花伝社1000円)

安田浩一(ジャーナリスト)

除染と国家

21世紀最悪の公共事業
日野行介
除染と国家
福島原発事故─偽りの処理と幕引き
危ない汚染土再利用の実態を暴く

 東京新聞・望月衣塑子記者に官邸が圧力をかけている。だが圧力をかけざるを得ない事態こそ、逆にジャーナリストの強靭さを示している。同様の記者魂を持った著者の渾身の一冊が本書だ。
 犯人を追いつめる名探偵ごときのスリルに満ちたノンフィクション。
 サブタイトルに「21世紀最悪の公共事業」とあるように、あの福島原発事故の偽りの処理の実態に迫る。つまり放射能に汚染された土壌を“除染”との名でごまかし、最悪の原発事故の幕引きを図ろうとする安倍政権への、新聞記者の怒りを込めた告発なのだ。
 汚染土を放置し、その責任を被災者に転嫁して恥じぬ行政の実態を、著者は次々に暴いていく。福島市など地方行政だけではなく、環境省や中央省庁の凄まじいばかりの隠蔽工作にも肉迫する。著者は情報公開制度を活用し議事録を入手するが、そこからは重要な発言が消されていた…。
 だがそこでめげるようでは記者じゃない。著者は当事者たちへの直撃取材に走り、核心に迫っていく。本書の白眉「第三章・底なしの無責任」「第四章・議事録から超えた発言」である。汚染土再利用という“21世紀最悪の公共事業”の実態を明るみに引きずり出す。
 原発ムラに組み込まれた官僚や学者らの、なんと罪深いことか。帯にもある「日本のためお国のために我慢しろといえないといけない」(環境省官僚)との言葉が、この国の暗い未来を暗示する。
 「お国」とはいったい何か。著者の切っ先はそこに向かう。調査報道とはこういうものだ!
(集英社新書840円)

鈴木耕(編集者)

麦酒ビールとテポドン

経済から読み解く北朝鮮
文聖姫
麦酒とテポドン
大同江テドンガンビールを飲みながら祖国の現状へ体当たりルポ
 本書は、知られざる北朝鮮の実情を伝える1級の報告だ。在日本朝鮮人総連合会機関紙「朝鮮新報」の記者として、また研究者として計15回も、訪朝の成果を盛り込んでいる。あっと驚くような地方にまで足を運ぶ。
 著者は在日2世の女性。拉致問題を機に「もうここでは書けない」と悩みを深め、組織を離れる。一念発起して東大大学院へ進み、博士学位論文「北朝鮮における経済改革・開放政策と市場化」を書く。本書はこの論文をベースにしながらも、あくまで祖国の現状を、つぶさに見た体当たりルポである。その記述は抑制が利き、脱北者の証言とも違うリアルさがある。
 元平壌特派員ゆえ、当局の信頼は得ているとはいえ、自由な取材は許されない。調査対象の市場では勝手に写真は撮れない。コメなどの価格のメモもダメ。だが、彼女はどこへ出かけるにも平壌焼酎をかばんにしのばせていた。相手の警戒心を解くには飲むに限る。記者のイロハだ。そうして一つ一つピースを組み上げ、彼の国に押し寄せる市場経済化の波を浮かび上がらせていく。
 コチェビといわれる物乞いの少年やホームレスもいた。貧しさを肌で感じた。ある朝、ローカル線で列車が止まった。どこからともなく人が集まり、線路はにわか市場になった。同乗していた若者は平壌で売るマツタケが傷んでしまわないよう線路で干しだす。夜にはなんと線路が歌や踊りの舞台になったという。満天の星の下、したたかに生きる庶民の息吹、そんなシーンこそ本書の一番の読みどころだろう。
(平凡社新書840円)

鈴木琢磨(毎日新聞)

FEAR恐怖の男

トランプ政権の真実
ボブ・ウッドワード著
ト伏見威蕃訳
FEAR恐怖の男
「正気ではない男」の素顔を明かす
リーダーと考える日本の異様さ

 レックス・ティラーソン米国務長官が辞任した時、日本メディはトランプ政権内の国際協調派が強硬派に駆逐された動きと報じた。かつ北朝鮮に対して厳しい対応をとるトランプ大統領の意思の表れであるとした。
 その報道について、ある討論の場で、「トランプ大統領に確固とした政策はなく、国際協調派か強硬派かなどの色分けで議論できない」と、私が発言したところ、同席した国際政治学者から、「あなたはトランプ大統領を誤解している」と言われた。つまり、トランプ大統領には確固とした政策があると言うのだ。
 どちらが正しいかは本書を読めばわかるが、ここに描かれている内情は、トランプ政権発足からの半年間、私自身がアメリカで見聞した以上の混乱ぶりだった。
 著者のボブ・ウッドワードは、ワシントン・ポスト紙の新人記者時代にウォーターゲート事件でスクープを連発し、その後も同紙一筋で記者を続けるアメリカで最も著名なジャーナリストの1人。
 2010年に彼の講演を聞いた時、彼は本を書く際のルールを明かし、カギかっこで会話を再現する場合は、本人もしくはその場にいた複数の証言を得た時に限るという。
 本書で、ケリー首席補佐官はこの大統領について、「彼は正気ではない」と語っている。マティス国防長官は「国防長官はつねに大統領を選べる立場にあるわけではない」と語っている。ともに政権を支えてきた高官だが、この本が出て間もなく政権を去った。
 いったい日本は、いつまで、この「恐怖の男」をまともなリーダーと考え続けるのだろうか。
(日本経済新聞出版社2200円)

立岩陽一郎(「ニュースのタネ」編集長)

住宅の真下に巨大トンネルはいらない!

丸山重威著+東京外環道
訴訟を支える会編
住宅の真下に巨大トンネルはいらない!
55年前から構想されていた1.6兆円の大深度地下トンネル
 2017年12月18日、国と東京都を被告として、東京外環道事業に関する処分の無効確認・取消しを求める訴訟が東京地裁に提起された。
 東京外環道とは、東京から放射状に外に向かう高速道路を結び、都心から約15kmを環状に連絡する。2000年に成立した大深度地下の公共的使用に関する特別措置法(大深度法)に基づき、住宅地の地下40m以深で直径16mもの巨大トンネルを掘り進める、1兆6000億円超(うち1兆円強は税金)の事業である。
 トンネル上の住民には、原則補償がないにもかかわらず、自動的に建築制限がかかり、売買も容易でなくなる。加えて、①地盤沈下の危険性、②シールド工法や地中拡幅工事の危険性、③環境への影響―地下水脈の遮断による地盤沈下・池涸れ・井戸涸れ、大気汚染の増大、地下水位の変動、地盤変動、開通後の振動・騒音―、③事業区域内や周辺の財産価値の低下など、起こりうる様々な問題が懸念されている。
 本書は、住民の声を細かく拾い上げながら、各問題を明瞭に解説していく。驚くのは東京外環道が、前回の1964年の東京オリンピック開催前から構想されていたことである。
 地元住民の反対で長年凍結されていたにもかかわらず、国と東京都は大深度法を初適用し、形骸化したPI(住民参画)を使って、2009年5月、事業化した。
 著者は、こうした政治・行政の姿勢は、辺野古基地建設や原発再稼働を進める、今のそれと相通ずるものがあると評する。全く同感である。
(あけび書房1600円)

大坂恵里(東洋大学教授)