今週のひと言

特捜検察の事件とメディアの役割

 特別背任などの罪で起訴されている日産自動車のカルロス・ゴーン前会長が3月6日、東京拘置所から保釈された。昨年11月に東京地検特捜部に逮捕されてから身柄拘束は108日に及んだ。特捜部の捜査は続いており、前会長は起訴事実をすべて否認。公判前整理手続きも始まっていない。その中での保釈は異例だという。これまでも特捜検察の事件では、長期の身柄拘束が伴う「人質司法」が批判されてきた。ゴーン前会長の事件で国際的にも批判を浴びたことが、裁判所の判断に影響を与えたのでは、との指摘もある。保釈翌日の7日付の新聞各紙の社説では、朝日新聞や日経新聞のほか多くの地方紙が「人質司法を脱する契機に」と説いた。
 特捜部の捜査にはほかにも検証が必要なことがある。例えば昨年11月に最初にゴーン前会長を逮捕した際の発表だ。容疑は、日産自動車の有価証券報告書に前会長の報酬を約50億円少なく記載したとの内容。普通に受け止めれば、前会長は手にした報酬のうち約50億円を隠蔽していたのだろうと考える。しかし、実際には未払いで、検察の発表の中でそのことは明らかにされなかった。「50億円は未払い」と分かっていれば、事件と前会長について一般の人が当初抱いた印象は異なっていたかもしれない。なぜそんな発表になったのか、踏み込んだ検証記事は今に至るまで見当たらない。
 逮捕直後から日産自動車は前会長の解任に動き、「社内調査」についての情報発信も積極的だった。結果として詳細も真偽も不明のまま「金に汚く、会社を私物化したゴーン」の印象が広まった。そのことがその後の捜査の追い風になった観は否めない。前会長の逮捕に向けて、特捜部と日産自動車の間でどんなやり取りがあったのか。ハードルは高いかもしれないが、検証は不可欠だ。
 かつて特捜検察は、厚生労働省官僚だった村木厚子さんを逮捕(後に無罪確定)した事件で、大阪地検特捜部の主任検事が証拠を改ざんするという不祥事を引き起こした。捜査機関として極限までの堕落。その最大の要因は特捜検察のおごりだが、メディアも「巨悪を眠らせない」などと無批判に特捜検察を持ち上げ続けていた。メディアは今一度、その反省に立って、検察の捜査を監視し、検証すべきだ。