お薦め本紹介

お薦め本紹介(2018年4月)

お薦め本紹介(2018年4月)
・9条の挑戦
・安倍政治 100のファクトチェック
・中央銀行 セントラルバンカーの経験した39年
・放射能測定マップ
・沖縄県知事 翁長雄志の「言葉」

9条の挑戦

非軍事中立戦略のリアリズム
伊藤真・神原元・布施祐仁著
9条の挑戦
9条が切り開く「平和の展望」その大きな可能性と実現性を解く
 憲法に自衛隊の存在を書き込む安倍改憲の策動が強まっている。また護憲派の陣営にも、憲法に自衛隊を明記したうえで、その任務を個別的自衛権の行使に限定するという「立憲的改憲論」なども登場している。
 こうした改憲論に弁護士(伊藤、神原)と平和活動家(布施)が3者3様のアプローチで「挑戦」したのが本書だ。
 伊藤氏(第1章)は安全保障の前提問題として「軍隊をもつのか持たないのか」の選択を検証する。「国民の生命と財産を守るために」「隣国の軍事力増強に対抗するため」など、あまたの「軍隊必要」論をとりあげ、噛んで含めるように反論。満州でも沖縄でも軍は国民を守らなかったし、明治以降、日本は朝鮮・中国に何度も侵攻したが逆はない、と。これまでの軍事力中心の「常識」が次々に覆されて小気味よい。
 一方、神原氏(第2章)は、9条を政策学の視点からとらえ、戦後憲法学の成果を検証する。小林直樹氏(1975年)、深瀬忠一氏ら(1987年)などの憲法学者が提起した自衛隊や安保条約の廃止・再編をふくむ安保提言は、今日の「非軍事中立」戦略にも参考になると指摘する。
 布施氏(第3章)は、日米同盟と「専守防衛」の関係(矛と盾)を、より軍事的視点から分析。米軍との一体化が進んだ結果、専守防衛はますます「米軍防衛」に変質し、敵地攻撃能力の保有や空母の導入など、「盾」からの脱皮さえ進んでいることを告発している。
 異なった視点から中国や北朝鮮への誇大な「脅威」論のリアルな分析も興味深い。憲法9条が切り開く平和の展望の大きな可能性と現実性をしめす一書である。
(大月書店1600円)

菅原正伯

安倍政治 100のファクトチェック

南 彰 望月衣塑子著
安倍政治 100のファクトチェック
権力のウソを見抜く「メディアの検証」の大切さ
 1月6日に放送のNHK「日曜討論」で、安倍首相は名護市辺野古の新基地建設に伴う埋め立てに関し「土砂投入に当たって、あそこのサンゴは移している」と、事実と違う発言をした。
 現在、土砂が投入されている区域で、サンゴは移植されていない。埋め立て海域全体では約7万4千群体の移植が必要だが、終了したのは別区域の9群体のみ。県民の意向を無視し、違法を重ねての強行工事の実態から国民の目をそらすため、意図的に印象操作を図っているのではないか。
 本書は、朝日新聞で2016年からファクトチェック報道に携わる記者と、官邸から狙い撃ちで質問妨害に遭う東京新聞の記者が取り組んだ成果の結晶である。
 あまりに分かりやすいのは森友学園への国有地払い下げへの安倍首相夫人・昭恵氏の関与だ。首相は、昭恵氏付きの職員が「自発的にやったもの」と説明していた。
しかし後に出てきた財務省の交渉記録には、職員が財務省に対し「(学園側から)優遇を受けられないか総理夫人に照会があり、当方からお問い合わせさせていただいた」と伝えたことが書かれていた。本書は森友・加計学園問題、アベノミクス、安全保障法制など、政権側のウソを丁寧に検証していく。
 ウソを検証して誤りを指摘するのは時間と労力がかかる。先の財務省の交渉記録は約1年も隠蔽されていた。メディアが検証を怠れば、権力の暴走を許す。権力の印象操作を見抜く目を養う上でも本書の役割は大きい。

(集英社新書840円)

島 洋子(「琉球新報」経済部長)

中央銀行 セントラルバンカーの経験した39年

セントラルバンカーの経験した39年
白川方明
中央銀行 セントラルバンカーの経験した39年
日銀の異常な緩和政策を追究し「物価と金融システム」安定への提言
 今や破たんが明白な「アベノミクス」。安倍首相による大いなる失敗の共犯者が<アベクロコンビ>と称される、黒田東彦日本銀行総裁である。
 その前任者が本書の著者・白川氏。日銀一筋だった「セントラルバンカー」が、自身の軌跡をたどりつつ、バブル経済以降、「異次元金融緩和」の弊害に翻弄され続ける、今の激動期を中心に、金融政策を巡る動きを丁寧にまとめたものである。
 著者は、日銀総裁時代(2008年~13年)、「インフレ・ターゲット」の設定を求める政権や自民・民主両党の議員らの圧力を、頑として拒否する硬骨漢でもあった。
 本書では、「異次元金融緩和」など、<アベクロコンビ>が強行してきた異常な政策の問題点を、理路整然と指摘する。
 さらに物価と金融システムの安定に向け、「独立性が担保されるべき」中央銀行の果たすべき役割について、多面的に論じている。
 特に安倍政権が「異次元金融緩和」など、中央銀行に過大な政策を押し付けたが故に、その副作用が顕在化している現状への懸念は的を射ている。
 「大門(実紀史氏、共産党参議院議員)や加藤(紘一氏、元自民党衆議院議員)のような議員がいなければ、金融政策に関する国会論議はバランスを欠き、一方向に偏ったものになったということも事実であった」など、ヴィヴィッドなエピソードも豊富に盛り込まれ、760頁もの大著でも、読みやすい。
 「孫の世代が社会の中核となる頃の日本経済や世界経済の姿に思いを馳せながら」と、記す本書は、日本の現代経済史を検証する上でも貴重な一冊。
(東洋経済新報社4500円)

栩木誠

図説・17都県 放射能測定マップ+読み解き集

みんなのデータサイト編
放射能測定マップ
福島事故による汚染の実態を4千人の市民が測定した成果
 福島事故から8年、汚染水の海洋放出計画や除染で集めた汚染土壌の道路再利用など、放射性物質の処分をめぐる政府の無節操な方針に、強い憤りを感じる。この間、政府は放射能汚染の影響を軽視し、正確な実態調査を怠ってきた。
 昨年11月、刊行された本書は、多くの読者から強い指示を受けている。これは福島事故の放射能汚染の実態を、深く知りたいと思う人が少なくないことを示している。
 本書の特徴は、東日本の17都道府県3400地点の土壌サンプルを測定し、地図上に分かり易く、色刷りでマッピングし、併せて各県毎に解説を加えていることだ。
 福島事故で各地域がどれだけ汚染され、時間と共にどれだけ減衰していくか、現在値と事故20年後の数値および百年後の汚染状況を推測し、地図上に表している。チェルノブイリとの比較も示され、著者たちの汚染の推移や影響を知らせたいとの思いが伝わってくる。
 国は空間線量を測って公表しているが、長期に放射線の影響を調べるには、土壌の汚染データは欠かせない。また被曝の危険性を示す食品データも気になる。検出限界以下のデータが並ぶ中、思わぬ場所から汚染キノコ等のデータも見つかる。
 放射性物質が環境にどのように移行するか、その説明を読むと、汚染の実態を自分の目で確かめることができる。政府、公的機関がやらない調査を4千人の市民が実行した成果に拍手を送りたい。
(みんなのデータサイト出版2315円)

後藤政志(NPO法人APAST)

沖縄県知事 翁長雄志の「言葉」

沖縄タイムス社編
沖縄県知事 翁長雄志の「言葉」
翁長さんの言葉の重さを噛みしめる
 ひとこと一言が、直に胸に沁み込んでくる本である。昨年8月、惜しまれながら世を去った前沖縄県知事・翁長雄志さんの、折に触れて発した言葉を集め、沖縄タイムスが編んだもの。
 翁長さんの言葉と、それが発せられた背景を小文で解説する、とてもシンプルな編集なのだが「政治家とは言葉の闘士」であることが、これほど明快に示されている本も珍しい。例えば、国を相手取っての訴訟の際に翁長さんはこう語った。
<その後ろ姿を見せることで、子や孫がその思いを吸収し、彼らなりに沖縄の将来を担っていくことにつながる。私たち責任世代の役割はそこにあるのではないか>
 親が子に向けるまなざし。まさに沖縄の世代のつながりを見る思いだ。だから、そのつながりを守ろうとするとき、翁長さんは闘う顔になる。
<大臣の是正支持は、かけがえのない自然と生態系への破壊指示であり、地方自治の破壊そのものではないでしょうか>
 高江のヘリパッド建設現場での、市民へ向けた機動隊員の“土人発言”には怒りをあらわにした。
<侮辱的な言葉が飛んできた。そういう言葉は人と人の絆を壊す>
 言葉の怖さを真から知る政治家だったのだ。だから、怒りは言葉を失った司法にも向けられる。
<あぜんとした。裁判所は政府の追認機関であることが明らかになった>
 そして、この叫び!
<ウチナーンチュ、ウシェーティナイビランドー(沖縄の人をないがしろにしてはいけない)>
 巻末に付記された記者たちの文章が切ない。
(沖縄タイムス社1000円)

鈴木耕(編集者)