お薦め本紹介

お薦め本紹介(2018年05月)

お薦め本紹介(2018年05月)
・アベノメディアに抗う
・「誇示」する教科書
・市民が支えたKBS京都の再建
・アンダークラス
・近現代日本史との対話

アベノメディアに抗う

臺 宏士
アベノメディアに抗う 「恫喝」と「懐柔」で操るマスコミ支配
それに抗する人々の奮闘を克明に追う

 メディアを使って独裁支配を進めようとしている安倍政権に、メディアはどう対峙しているか、それとも迎合したままなのか。
 マスメディアに限らず、情報が溢れている時代において、その流れを「岸辺」でなく、流れの中に入ってでも、観察し記録し分析することは、メディア研究者が避けて通れない道である。また、その困難さを、いかに克服するか、それは共通の課題でもある。
 本書は、毎日新聞社でメディアを取材していた著者がフリーになり、安倍首相のメディア戦略を「アベノメディア」と名付けて、2年前に上梓した前著『検証アベノメディア』に続く労作だ。 前著は、2016年ごろまでのデータから問題を検証し、本書は、その後の動きを中心に「闘い」に焦点を当てている。
 官邸記者会見の東京新聞・望月衣塑子さん、慰安婦問題の元朝日新聞の植村隆さん、「女たちの戦争と平和資料館」の池田恵里子さん、「メディアで働く女性ネットワーク」の松元千枝さんなどを紹介している。
 官邸記者会見問題では新聞労連の抗議声明を機に、運動はもう一回り広がった。植村問題も控訴審が始まった。問題はいまも続いている。
 インターネットの発達で、新聞、放送、出版など既成メディアが危機にあるいま、メディアが権力の情報に流されず、ジャーナリズム性を発揮して事実や真実を追究するのは、日本の民主主義にとって不可欠な仕事だ。
 これからも著者の「アベノメディア・ウオッチ」を期待してやまない。
(緑風出版2000円)

丸山重威(ジャーナリズム研究者)

「誇示」する教科書

歴史と道徳をめぐって
佐藤広美
「誇示」する教科書 歴史的事実の究明を阻害し、国家への忠誠を煽る危険と狙い
 まず著者は本書のタイトルについて、「日本の歴史や文化を強く押し出し」「ことさらに誇り、誇示する」教科書と定義する。
 具体的には、新しい歴史教科書をつくる会(「つくる会」)の扶桑社版・自由社版と日本教育再生機構の育鵬社版歴史・公民教科書、さらに同機構が作成した日本教科書の中学校道徳教科書が、「誇示する教科書」だと指摘。
 これらの歴史教科書は、「日本のアジア政策の記述から植民地主義を消し去り、アジア諸国に近代化をもたらしたのは日本のアジア政策であった」という考えに立って、日本の侵略や加害、植民地支配を正当化している。
 著者は、この教科書をつくった人々は、「日本の近現代史をパワーゲームに見立てて叙述し」「科学的な歴史研究(歴史的事実の究明)を国家への忠誠と日本人の誇りの涵養という教育目的に従属させる」ものだと批判する。
 また「再生機構」理事長の八木秀次氏が関わった公民教科書と道徳教科書には、「人権が無軌道な子どもを作り出す、人権が家族の絆を脅かす、人権がジェンダー・フリーを煽って女性を不幸にする」と主張するこうした考えが強く反映していると指摘している。
 実は、これら教科書の内容が安倍晋三首相の考えや「教育再生」政策と共通していることを明らかにしている。  本書の論述の基本は、著者が2003年~15年に雑誌『教育』などに掲載した論文を基に構成、出版に当たって加筆したものである。
 今日の歴史修正主義や「つくる会」系教科書の問題を掘り下げ、採択阻止、安倍教育政策反対の運動にも大いに役立つ好著だ。
(新日本出版社1700円)

俵 義文(子どもと教科書全国ネット21代表委員)

市民が支えたKBS京都の再建

京都放送労組の闘い
市民と放送を考えるフォーラム
市民が支えたKBS京都の再建 従業員自らが立ち上がり市民とともに経営乗っ取りに抗した24年の歩み
 KBSは日本最初の民放ラジオ局の一つとして1951年に発足、69年にはテレビ免許を取得。初期の民放は新聞社に免許が下りるので、京都新聞が主体で経営されてきた。文化都市京都の土地柄もあり、ラジオ、テレビともユニークな番組編成で順調に発展してきた。
 ところが1983年三代目社長白石英司氏が急逝、資本金倍増を口実にフィクサーとして名高いキョウト・ファイナンスの三段芳春氏と後の大規模経済不祥事イトマン事件の主役・許英中氏が経営の中枢に入り込んだ。
 そして彼らは御所蛤御門の向かい側という一等地に立つKBSの社屋、土地、建物、スタジオ、放送機材の全てに根抵当権を設定、社屋を売り飛ばして大金を手にする画策を始めた。
 放送局が消滅する危機にあると、自らの手で調べ出したKBS労組は、1994年会社再建と経営正常化をめざし、会社更生法を申請、再建闘争に入った。労働組合の団結力と40万人に及ぶ市民の署名を武器に社屋や放送免許を守り抜いた。波乱万丈、破天荒な再建闘争の勝利であった。
 KBS労組は「市民の放送を守る」というスローガンで取り組んだ。その功績の一つに、市民の手で番組を制作、放送する組織「アクセスクラブ」があげられる。その経過や活動も、本書には詳しく紹介されている。
 KBS労組は本書の発刊をもって、再建闘争は完全な形で終結したことを宣言した。
(定価1000円:購入は京都放送労働組合 電話・FAX075-451-4468)

隅井孝雄(ジャーナリスト)

アンダークラス

新たな下層階級の出現
橋本健二
アンダークラス <生き地獄のような窮状>を明かす
 著者は、パートの主婦や専門職・管理職以外の、非正規雇用で働く階級を「アンダークラス」と呼んでいる。
 バブル期に増えだし30年後の現在では、老若男女あわせて約930万人、就業者全体の約15%も占めるが、平均個人年収はわずか186万円。貧困率は38%と高く、未婚率もアンダークラス全体では34%、59歳以下の男性に限れば66%に達す。
 就職氷河期(70年代生まれ)の彼ら彼女らも、あと十数年で順次、60代に向かう。その中には家庭もつくれず、年金も受給できず、生活保護に頼らざるを得ない人が確実に増えていく。
 労働者階級が分裂して、非正規労働者という「永続的で脱出困難な貧困状態に置かれた」新しい巨大な最下層階級(アンダークラス)が出現した、というのが著者の主張。
 それだけに「現状のまま放置するなら、日本社会は危機的な状況を迎える」と警告する。
 こうした視点から、著者はアンダークラスを性別(男と女)と年齢(59歳以下と60歳以上)で4つに分類し、各グループの特徴について各種統計データを駆使して克明に追究する。数字と図表が明らかにするアンダークラスの生き地獄のような窮状に息が詰まる。
 若手社会学者の古市憲寿氏の<絶望の国の幸福な若者たち>への的確な批判も興味深い。威力を発揮したのは社会学者のグループで取り組んだSSM調査(社会階層と社会移動全国調査)のデータだった。アンダークラスの複雑な内部構造と動態を明らかにする力作。
(ちくま新書820円)

菅原正伯

近現代日本史との対話

幕末・維新-戦前編
戦中・戦後-現在編
成田龍一
近現代日本史との対話 国家システムの3区分を軸に民衆の生活や文化の動向まで言及
 「平成最後の〇〇」のフレーズが、TV画面から流れない日はない。多分、この騒ぎは「令和最初の××」に引き継がれる。悪乗りライタ―が「平成史」と題した拙速本を出版するのも時間の問題だろう。そんな本は無視、本書を読んでもらいたい。
 本書には元号などほとんど出てこない。歴史を通観するには、元号は邪魔なだけ。新書とはいえ戦前編と現在編2冊を併せると2千ページを超える大著だが、一気読みの面白さは抜群。
 斬新なのは、近現代日本をA・B・Cという国家システムの区分で見ていくという部分にある。すなわち、AⅠでは明治維新から西南戦争を経て近代国家への萌芽、AⅡが戦争の時代への国家体制の整備である。
 BⅠ―BⅡでは敗戦を挟んで55年体制による政治と経済、若者の叛乱と東京五輪やオイルショック、そしてCⅠが冷戦の終わりと阪神淡路大震災、オウム事件、最後にCⅡ(もしくはシステムD)では2011年の東日本大震災と福島原発事故へと詳述していく。
 歴史的事件は意外に淡々と記述するが、特長的なのは文化芸術、世相、流行などの分野に、深く分け入っての叙述だ。文学や演劇、映画、漫画などの大衆文化、さらには新聞・雑誌・TVというマスメディアの功罪まで言及し、庶民とかけ離れた英雄譚や雲上人の記述は、極力抑えられている。女性や家族問題、在日外国人への眼差しまで網羅した一般歴史書は珍しい。
 現在もなお不当な圧政に呻吟する沖縄や福島の現状にも触れているが、それらを支えるのが巻末に記された膨大な資料。『日本コピペ紀』の百田某など本書の著者の爪の垢でも煎じて飲むがいい。
(集英社新書各1300円)

鈴木耕(編集者)