お薦め本紹介

お薦め本紹介(2018年6月)

お薦め本紹介(2018年6月)

・「安倍増税」は日本を壊す
・横田空域
・福島「復興」に奪われる村
・木下サーカス四代記
・歪む社会

「安倍増税」は日本を壊す

消費税に頼らない道はここに
垣内 亮
「安倍増税」は日本を壊す 不況と貧富格差の拡大を呼び込むだけ
 安倍政権は、消費税の扱いを政治利用しながら延命を図ってきた。
いまもまた10月からの消費税10%への引き上げでは、「ポイント還元」や「プレミアム付き商品券」など、姑息な「対策」を打ち出してきた。また消費税の使いみちは保育料や大学授業料の「無償化」などに充てると宣伝しながら、増税への地ならしを進めてきた。
 その増税が「日本経済を破壊する」危険性の大きいことは、国内だけでなくウォール・ストリート・ジャーナルなど、海外からも警告が発せられている。この消費税増税の大いなる矛盾、すなわち「財源と言えば消費税」とされてきた呪縛を、一気に解くことを企図して著わされたのが本書。
 「消費税増税中止の一点での世論と運動を急速に進めるために執筆された」書だが、いわゆる啓蒙書ではない。「逆累進性」によって、低所得者にはこれまで以上に多くの負担を課す消費税の根源的な仕組みから解説し、消費税の根本的な欠陥や問題の本質を理論的に解明している。
 さらにこの増税が貧富の格差を一層拡大し、消費大不況をもたらす危険性も分かりやすく指摘。「(『アベノミクス』の恩恵で大儲けしている大企業や富裕層に応分の負担を求めれば)消費税に頼らずとも財源は確保できる」ことも明記する。
 景気後退が鮮明になり、延期も「二度あることは三度ある」可能性が浮上している。現下の最重要課題である消費増税問題について、改めて正しい理解を深めていくうえで理論武装に貴重な1冊。
(新日本出版社1700円)

栩木 誠

横田空域

日米合同委員会でつくられた空の壁
吉田敏浩
横田空域 米軍のために1都6県の空を明け渡す密室合意の実態に迫る
 「横田空域」は東京、神奈川、埼玉、群馬、栃木、福島、新潟、長野、山梨、静岡の1都9県の上空を覆う。高度約2450~七千メートルの空間を、6段階に分けた巨大な「空の壁」である。
 日本の旅客機は迂回を強いられ、航路は集中、ニアミスの危険や燃料の無駄遣いが強いられる。
 米軍は横田空域を持つことで、横田基地の聖域化を実現させている。オスプレイの配備、パラシュート降下訓練など、やりたい放題だ。都心にある米軍ヘリポートや専用ホテルと連携して日本を支配する最有力な道具となっている。
 著者は横田空域に国内法上の法的根拠はなく、日米の密室協議にもとづく合意があるだけだと喝破する。日本の官僚と在日米軍幹部による協議機関「日米合同委員会」の関与が強く疑われるが、その合意文書や議事録は非公開のため、全貌は闇に包まれている。
 横田基地を離陸した米軍機は北上し、群馬が中心の空域で激しい訓練を繰り返す。その結果、米軍機騒音への苦情が日本一多いのは、米軍基地を持たない群馬、という意外な事実を明かす。
 山積する米軍の問題を解決するどころか譲歩を続け、ついに提供空域以外での訓練も、容認するようになった日本政府。「我関せず」の姿勢は強まる一方だ。
 全国知事会が日米地位協定の見直しや米軍に国内法の適用を求める提言をまとめたのは一条の光明かもしれない。
 本書は、今も続く「日本占領の構図」を解きあかし、解決策の方向性を示す。
(角川新書840円)

半田 滋(「東京新聞」論説兼編集委員)

フォト・ルポルタージュ
福島「復興」に奪われる村

豊田直巳
福島「復興」に奪われる村 3・11後の福島に広がる「復興」という不可視社会
 カメラのレンズや人間の知覚で捉えきれない放射能。本書の著者を含め、ジャーナリストは「見えている世界だけでは全てを伝えきれない」という大命題に直面した。
 しかし、被災した人々の語りが、放射能汚染の被害実態を浮き上がらせてくれる。全ての取材は被災者との共同作業で成り立っている。
 放射能汚染地域では、取材者自身も当事者になるのが命運。豊田氏は自らの作品が展示拒否された状況との闘いを冒頭に、主に飯舘村の住民にフォーカスし、避難と帰還、放射能汚染と除染、損害と賠償と法廷闘争。人々の尊厳が失われていく様子と、抵抗する人々の姿と声を丹念に伝える。
 福島では原発事故、核被害、放射能汚染が容易に虚構となり得る「不可視社会」が広がる。人間の想像力それ自体が攻撃される中で苦しみ、抵抗する村民。
 生存競争と自然淘汰の「社会ダーウィニズム」やマチズモ的な発想による「復興」は、「その先に何か良いことがありそうなファンタジー」をまぶした、見えない爆弾になろうとしている。
 飯舘村に帰還し、不安な中で子どもの被曝の軽減に懸命に努力する3児の母の言葉が記される。「結局は福島はただの実験台だって。そして実験が終わった時に、『やっぱりお前たちダメだったんだよ』って言われるのが一番怖いですよね。(中略)だから、頑張らないで後悔するよりは、とりあえずは頑張って笑ったほうがいいじゃないかと」。
 まだ抵抗の意識が確かにあるからこその言葉。同時に真剣に一生懸命生きている人ほど、ビルトインされてしまう「復興」のメカニズムが恐ろしい。
(岩波ブックレット840円)

藍原寛子(ジャーナリスト)

木下サーカス四代記

年間120万人を魅了する百年企業の光芒
山岡淳一郎
木下サーカス四代記 旅興行に密着して魅力の根源に迫り波乱に富む四代の活躍を辿る
 サーカスって言葉の響きは、なにか物悲しい。あの響くジンタ「美しき天然」の淋しさ。美空ひばりも歌った「サーカスの唄」の哀愁。みんな切ない。
 昭和20年代、東北の片田舎で育った私も何度か“巡回サーカス”を見た。雨に濡れそぼったライオンが、とてもみじめに見えたことを憶えている。
 そんな「サーカス」を扱ったノンフィクションが本書。読者の“サーカス観“を覆す抜群の面白さ。今や日本のみならず世界屈指のサーカス団となった「木下サーカス」のルーツをたどるべく著者は資料を漁り、経営哲学を聞き取り、興行に密着して団員たちの生活を取材、さらには観客たちの反応までも書き込む。
 ルーツはやはり、親分子分の香具師の世界に発していた。明治期の興行師・木下藤十郎である。
 そこからどういう系譜をたど、現代のエンターテインメントの雄に育っていったのか。初代・木下唯助の活躍ぶりは、まるで手に汗握る任侠の世界、高倉健の映画の気配さえする。「狭い日本にゃ住みあきた」とばかり、中国やロシアまで出かける行動力。創業者の気迫は抜きんでている。
 だが、時代とともにサーカスも変貌していく。海外公演にかけた夢。そして敗戦による挫折。そこからの再起。読者も手に汗握る展開だ。背景に日本という国の動きも詳細に書き込んでいる。
 今や木下サーカスは四代目・唯志を中心に百名を超す社員で構成される一大エンターテインメント企業となった。こんな面白いノンフィクション、久々である。
(東洋経済新報社2000円)

)鈴木 耕(編集者)

歪む社会

歴史修正主義の台頭と虚妄の愛国に抗う
安田浩一×倉橋耕平
歪む社会 事実を無視し差別・排外主義に走る右派言説の流れを徹底的に検証!
 本書は、現場取材をもとに、現代日本に鋭く斬り込む著作を出し続けているジャーナリスト安田浩一さんと、メディア文化論、サブカルチャー論などで斬新な分析をして注目される少壮社会学者倉橋耕平さんの対談を書籍化したものである。
 テーマは「とどまることを知らない」現代日本の右派現象。
 現代右派現象の中で重要な道具となるのはネットだが、ウインドウズ95年が発売された当時は、マスメディアにはない「自由な言論空間」ができるとの期待感が支配的だった。
 同時にこの時期、「新しい教科書を作る会」や「日本会議」が設立され、小林よしのりなどの影響もひろがっていたこと、つまり歴史修正主義の運動化がはじまっていることなどから90年代後半は現代右派にとってエポックメイキングの時となった、そう両者は語っている。
 2000年代に入ってネット右翼が注目されるが、意外とその人数は少ないという。だが政治家や財界と共振し、嫌韓・嫌中本の隆盛に連動している。事実を無視し、差別や排外主義を助長する右派言説が商売になる現代日本なのである。出版界のみならず、新聞や放送などもその影響を受けて腰が引けている。本書はその危険性を多様な側面から警告している。リベラルや左派に有効な対応策を呼びかけつつ、安田さんは次のように書き、本書をまとめている。
 「これ以上、壊されてたまるか。社会も、地域も、そこで暮らす人々も。憎悪の火を囲んで踊りつづける者たちに、私たちはきちんと示さなければならない。真っ当な怒りと、真っ当な情けと、そして冷静な知識を抱えて」と。
(論創社1700円)

吉原 功(明治学院大学名誉教授)