お薦め本紹介

お薦め本紹介(2019年7月)

お薦め本紹介(2019年7月)
・メディア、お前は戦っているのか
・変容するNHK
・NO!で政治は変えられない
・沖縄と核
・観光亡国論

メディア、お前は戦っているのか

メディア批評 2008-2018
神保太郎著
『世界』編集部編
メディア、お前は戦っているのか 強権政治とメディアの対応を「集合知」で明かす綿密な記録と分析
 2008年1月に連載が始まった雑誌『世界』の「メディア批評」は11年目に入った。この長期連載の最初の十年を纏めたのが本書。割愛部分はあるが本文だけで500頁を超える大著となった。
 連載の執筆者は神保太郎となっているが、実は時代状況とメディアの対応に危機感をもって参集した現役、フリージャーナリストらの集合名である。4人で構成され毎月、何をどのように書くか意見交換し、執筆は二人ずつ隔月に分担しているという。途中で二名が交代しているので、本書の執筆陣は計6名となる。
 「集合知」という概念が「まえがき」で強調されている。「『言葉の墓場』のような安倍政権に対抗するには、不可欠だった」と。読み進めると、ジャーナリストたちにこそ、プロとしての「集合知」が欠かせないことが、切実に伝わってきて、本書のタイトルに思いが込められているのに気づく。
 本書が対象としているのは、戦後日本を根本的に変質させかねない事態が進行する10年間である。特定秘密保護法、集団的自衛権容認の閣議決定、安全保障関連法など戦争を可能にする法律の制定、改憲に向けての策動、日米同盟という名の対米従属深化、沖縄差別、アベノミクス、消費税、東日本大震災をはじめとする大災害の続発と原発事故、メディアに対する執拗な介入などなど。
 これらに対してメディアがどのように報道したかしなかったか、それこそ「集合知」で明らかにしているのが本書だ。メディア関係者はもちろん、大学のテクストとしても活用して欲しい貴重な記録と分析である。
(岩波書店3900円)

吉原 功(明治学院大学名誉教授)

変容するNHK

「忖度」とモラル崩壊の現場
川本裕司
変容するNHK 政治に翻弄される公共放送
危ういニュース報道への信頼
 受信料制度を合憲とした最高裁判決を梃子に、NHKの2018年度受信料収入が初の7千億円を超え、5月には改正放送法の成立で番組の同時常時配信が認められ、NHKは新たな受信料収入の手段を手に入れた。
 これで上田会長率いるNHKは盤石か?
 問題は官邸にひれ伏すNHKの報道姿勢だ。著者はNHKの政治報道について「政権との一体化」という見方が増えていると指摘する。
 87年から足かけ30年、NHKを取材してきた著者は「その残像は、『政治』に翻弄される公共放送の経営」であり、「とりわけ報道のニュースに、その痕跡が深く刻まれてきた」と振り返る。
 2001年1月、慰安婦問題を取り上げたNHKの番組について、安倍官房副長官が放送総局長らに「公正、公平な番組になるべきだ」と述べ、NHKは番組を改変。
 安倍氏が政権を握ると、官邸に対するNHKの忖度の度合いが強まり、政権に不都合な事実はニュースに載らないようになる。著者は「加計学園問題を取材する社会部に対し、ある幹部は『君たちは倒閣運動をしているのか』と告げた」事実を明らかにする。
 NHKと政治の関係については昨今、NHKの「政府広報機関化」が懸念されるほど、危機は深刻になっている。
 著者は「自壊しかねない不安要素を抱えながら、肥大化していく公共放送の未来が明るい、とはとても言えない」と強調。視聴者の怒りが限度を超えれば「公共放送への信頼は瓦解する」と警鐘を鳴らす。
(花伝社1500円)

河野慎二

NO!で政治は変えられない

せたがやYES!で区政を変えた8年の軌跡
保坂典人
NO!で政治は変えられない 草の根からの改革へ結びつく処方箋を8年の実績から提示
 私は、本書の著者・保坂さんの『闘う区長』(集英社新書)を2012年に編集したことがある。彼は前年に世田谷区長に初当選したばかりで、『闘う区長』は実績というよりこれからの地方自治の在り方を模索する意味合いが濃い新書だった。旧い体制が残る議会との軋轢を抱えながら、闘う姿勢も必要だったのだ。
 それから丸8年。「闘う区長」は「創る区長」へとみごとな成長を遂げていた。安倍政治で疲れ果てた人たちは、ともすれば「安倍NO!」を前面に押し出す。だが保坂さんは「せたがやYES!」と、草の根からの改革を実らせる処方箋を読者の前に提示してくれる、まことに見事な「政治のお医者さん」になっていた。
 本書はその処方箋の実践記録であり、政治を変える指南書でもある。
 保坂区政を陰で支えるブレーンたちとの対談が具体的だ。都市問題を語る涌井史郎氏(造園家・東京都市大学特別教授)とは、米ポートランド市との提携や区内の各大学との共同を議論。
 猪熊ひろ子氏(ジャーナリスト)とは、住民の提言から始まった徹底的な保育園づくり、そして学校づくりにまで話が及ぶ。また斎藤環氏(精神科医)は「変容する家族のかたち」と子どもたちの現在、さらに湯浅誠氏(法政大学教授・社会活動家)は地域がしなければならない弱者の擁護を具体的な提案として語り合う。
 政治家・保坂展人の区長としての実績については、最終章に南彰氏(朝日新聞記者)の解説が詳しい。こんな街に住みたいと思わせる本である。
(ロッキングオン1200円)

鈴木耕(編集者)

沖縄と核

松岡哲平
沖縄と核 〝核の島〟沖縄への変貌を明かし、米海兵隊が想定した中国への核攻撃
 本書は、NHKテレビ番組を書籍化したものだが、海兵隊の移駐が沖縄を〝核の島〟に変貌させる過程をリアルにとらえた秀作である。
 1953年、朝鮮戦争の対応をめぐってアイゼンハワー大統領は「緊急時の使用に備えて、核兵器を沖縄に配備する」ことを決定した。伊江島では「低高度爆撃法」という核爆弾投下訓練を実施する爆撃場が作られ、島民の家が焼かれた。
 54年末からは核巡航ミサイルなど18種類の核兵器が沖縄に搬入され、ピーク時の67年には1300発、東アジアで最多の核配備地となった。
 それだけではない。98年に発見された海兵隊文書によると、50年代後半、沖縄駐留の米軍は、旧ソ連など敵の侵攻を受けた際に備え、海兵隊が核兵器で自らの基地を破壊することまで計画していた、という。
 この沖縄〝焦土化〟計画は、沖縄戦における日本軍の行動を想起させて、衝撃を与えた。
 本書のハイライトは、死者も出た核ミサイル・ナイキの暴発事故(59年)の究明と、キューバ危機のさい中国各都市に向け発射寸前までいった沖縄の中距離弾道核ミサイル(62年)のことだろう。海兵隊の中国への核攻撃に対してソ連の側も10メガトンの核爆弾(広島型原爆の約七百倍の威力)で反撃してくるという海兵隊の戦慄すべき想定には、言葉もない。
 いまトランプ政権は「使いやすい核兵器」の開発を豪語し、辺野古では海兵隊の最新鋭の出撃基地の建設が強行されている。日本が新たな核持ち込みの危険に直面していることをひしひしと感じないわけにはいかなかった。
(新潮社1800円)

菅原正伯

観光亡国論

アレックス・カー
清野由美
観光亡国論 深刻な〝観光公害〟に警鐘を鳴らす
 死に体のアベノミクスのいわば“命綱”にもなっているのが、訪日外国人旅行客の急増である。「観光立国」を旗印に安倍政権は、東京五輪が開催される2020年には、「4000万人達成」を標榜する。
 しかし、明確な観光政策なきインバウンド拡大による「負の影響」は、今や深刻化する一方だ。京都をはじめ全国の観光地では、交通や生活環境、景観など市民生活にも重大な支障が生じている。バルセロナやフィレンツェなどと同様に、「オーバーツーリズム(観光過剰)」という現象に直面しているのである。
 1977年から京都府に居を構え、「京町家」「古民家」再生の仕掛人でもある東洋文化研究者のアレックス・カー氏は、「観光客急増によって、日本は『観光亡国』の局面に入ってしまったのでないか」と、かつての工業公害のような観光公害の危険性に警鐘を鳴らす。
 重厚長大型からのパラダイムシフトが進む中でも、相も変わらず「質や価値」よりも量的拡大、地方の独自性より中央集権を最優先する日本の観光政策。これに対して本書は、「従来の法律や社会習慣を乗り越えた『創造的』な解決案」や「文明論的な思考」の必要性を強調する。
 魅力ある観光地とは、本来、そこに住む人々にとって魅力的で誇れる地のはずである。しかし、「住民が住みにくさを痛感している」日本の現状との乖離は、余りにも大きい。「すでに深刻な状態になっているのに、その認識が遅れていることは、大きく危惧される」との指摘は正鵠を射る。
(中公新書ラクレ820円)

栩木 誠